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洋服記録117_代理店のカラシ
今年のキャメルパンツ、第二号。
一言にキャメルと言ってもそのバリエーションには幅がある。
今回はからし色に近い、黄色味のあるキャメルをチョイスした。
この色味、例えるならば「小袋のからし」。
お弁当や納豆パックに入っている、あれである。
実は私は、
あまり調味料を必要としない人間である。
もちろん、刺身にも餃子にも醤油は使うのだが、
わさびはまぁあったら添えるぐらいの温度感だし、ラー油やお酢を混ぜるのは面倒くさい。
レストランなどで凝った調味料が先方から提供されれば有難く味わうけれど、
弁当や出前についてくる小袋の調味料を開封して自分でアレンジするまでの熱量は沸いてこない。
むしろ開封時に液体が手に掛かったり、捨てる時に残液がこぼれたりするのが嫌すぎて、
大半は未開封のまま惜しげもなく捨ててしまう。
私にとって、開封に伴う煩わしさと味の薄さとを天秤に掛けると、
嫌悪感の量では前者に傾くのである。
そんな小袋淡泊(亭主関白的な)な人間からすると、
小袋をふんだんに使う人の熱量には脱帽させられることが多い。
もっと卒直に言えば、引いてしまうことが多い。
前職時代、とある用事で社外の男性と2人で出張したことがある。
ゴリゴリの広告代理店社員なのだが、ちょっと変わったところのあるクセが強めの人で、
クライアントである私に対してひたすら多彩なお喋りを繰り広げてくる。
子どもの名前の漢字の選び方について、
学生時代のバイト先のテーブル磨きの方針について、
最近みた映画に使用されているBGMについて。
なんだろう、トピックス自体はよくある内容なのだが、
スポットライトの当て方がいちいち細かすぎて伝わらない選手権。
こういう類の人は面倒に思われて遠巻きにされるのが多数派だと思うが、
怖いもの見たさで日頃から彼のお喋りに付き合っていたら、妙に懐かれてしまった。
年齢は私とそう変わらないはずだったが、
撮影合間で高い鰻を自腹でご馳走してくれたり、高いお酒をプレゼントしてくれたり、
なんやかんやと特別扱いしてくれるようになっていた。
そんな男性と、出張先で定食屋に入った時のこと。
港町のごくごく普通の店だったのだが、ランチタイムは生卵と納豆パックのサービスが付いていた。
無料といえど、私は卵にも納豆にも興味がないので断ったところ、
「え、じゃあ僕がもう一人分貰っていいですか?」とすかさず交渉を始める隣席の男。
お前、給料いっぱい貰ってるんだろ?なんでここでがっつく?
いそいそと2個の生卵を割り、2個の納豆パックを開封する隣人。
そして、律儀に2袋の醤油と、2袋のからしを開封しパックに投入。
高速回転で納豆を練り回し、生卵とあわせて白飯にON。
その一連の動作を見て、悟った。
ああ、私はまったく女性として見られていないな、と。
いや、それは当たり前なのである。
既婚者だし色っぽい空気になったこともまったくない。
自分の名誉のために言うが、こっちだってそんな気はまったくない。
だが仮にも異性であるクライアントの隣で、
手をべとべとにしながら全小袋を開封し、味付けした納豆菌を全力で飛ばしてくる人間とは、
何がどう転んでもロマンスに発展することはないだろうと深く納得した。
4小袋を開封した後の隣席は、手だけでなく、
テーブルも汚い。皿も汚い。なんだかとにかく・・・汚い。
この男とこのまま午後も良い仕事ができるだろうか。
てか歯ブラシ持ってきた?除菌シートは?
別に何も望んでいたわけではないけれど、
小袋の存在に謎に可能性を潰された気分になった。
彼は今もゴリゴリに仕事に勤しんでいると聞く。
ロマンスはともかく、仕事の評価までもを小袋に託すのはナンセンスだ。
反省。
もしもまたどこかで彼と一緒に仕事をすることになった日には、
このパンツを履いていこうと心に決めている。
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