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「ネズミ捕り器」若い人は知らないだろう。 俺は若くても知っている。自分家で売っていたから。ただそれだけ。

俺の実家は金物屋だった。
今のご時世だと、金物屋て何屋さん?と聞かれることがある。
知らない人はそれでいい。知る必要もない。
どうせしばらくすれば世の中から消えていく。

親父が死んで店を閉めた。
と言っても店の在庫をいっぺんに処分するわけでもなく、
今は母が一人でのんびりと処分している。

福岡の大雨災害のときには、ホースやビニールシートや土嚢袋など、
復旧に必要なものを必要なだけ寄付させてもらって、市長から感謝状をもらったりした。

昨日の夕方、コロナは大丈夫かと電話をしたときに、珍しいものの話がでた。

「ネズミ捕り器」だ。
若い人はネズミ捕り器なんか知らないだろう。
俺は若くても知っている。なんせ自分家で売っていたから。ただそれだけ。

トースターより一回り半ほど大きいサイズの鉄底の網の六面体で、中に餌が仕掛けられるようになっていて、それを食べに来たネズミが入ると二度と永遠に外には出られないという代物である。

ネズミ捕りやいたち捕りなんかは商品として置いてあった記憶がある。イノシシ捕りのなんだか恐ろしい罠もあった気がする。子供の足だったら千切れてしまいそうなやつだ。

店の整理をしていて棚の奥から売れ残ったネズミ捕り器が一個出てきたという。
ちょうど隣のお茶屋さんにネズミが出て商品をかじるので困っているのだという話を聞いたところだったから使ってくださいとタダであげてきたらしい。

まあそれはいい。
置いておいても売れはしないんだから、使ってもらえばいい。

ポイントはそこではない。

そのネズミ捕り器、捕獲した時点ではネズミは生きている。問題はそのネズミをどうするかである。

母によるとそのネズミ捕り器を、水で満たしたバケツのなかに沈めるのだという。まあ成り行きというか、事の流れ的にはそういうことになるのだろう。駆除が目的なのだから致し方ない。

頭では理解している。ただできるかできないかといえばなかなか難しいとことではある。わかっている。十分わかっている。自分が被害の当事者でないということで嫌なことから逃げたがっているだけなのだ。

自分で殺していない牛や豚や鳥や魚をうまいうまいと食っていることを遠くから大声で責められているようでいたたまれない。

自分ではできない。
人にやってもらって、人にやらせて自分はただ楽しむだけ。
最低だよ、最低なんだよお前は…。


とまあ、なんとも後味の悪い話だった。



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