彼女は日本人が来るたびに袋入りのせんべいを出し続け、そのたびに日本人は袋から出す前にせんべいを割り続けてきたのだろう。
「とっても日本人的ね。」
出してもらったせんべいを食べようとした俺に、豪寿庵のオーナーのリンダさんが言う。英語だけど。
豪寿庵というのはバルメイン地区にある和風旅館である。
俺は月一で第2日曜日にそこに書道とハンコ作りのワークショップの講師をしに行っている。
何?
と言う顔を俺がする。
なんのことやら分からなかったからだ。
「先にせんべいを割ってから袋を開けるでしょ、日本人は。」
彼女はにたりとして言う。
「わたしたちは割らずにそのまま食べるから、かじったときに出る割れカスで周りを汚したりするけど、日本人は袋の中で口に入れるサイズに割ってから取り出すから周囲を汚さないわ。」
なるほど。そうきたか。
そんなことを気にしていたわけではないが、まあせんべいはそうやるのが妥当だろうと思うが如何?
粉は最後にまとめて口の中に落とし込んでしまえばいいから無駄がない。
でも初めから論理立てて考えた末にそんな食べ方をしたはずがないから、親から言われたか、親を見てそうし始めたか。今となっては覚えてはいない。
というように、日本大好きの彼女は日本人の一挙手一投足を観察して自分たちとの違いを探してるらしい。
彼女がそう結論付けたということは、彼女は日本人が来るたびに袋入りのせんべいを出し続け、そのたびに日本人は袋から出す前にせんべいを割り続けてきたのだろう。なんという戦い。。。。
異文化理解とは簡単ではないのだ。
とは言え、だ。
日本人が袋に入っている全ての食べ物をそうするわけじゃない。
例えばあんぱんなら袋を開けてすぐにかぶりつく。そうだろう。
中で千切ってから袋を開けてあんぱんを食べる奴なんか見たことがない。
戦争時、日本人なら手を動かす洗顔を、顔の方を動かしたがために潜入したスパイなのがばれたという話があったらしい。
あんぱんを、開ける前に袋の中で千切っているやつは怪しい。
ばれちゃうから、スパイの人は気を付けてね。
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