本の感想42『ボッコちゃん』星新一
ロボットの女の子が、スナックで働いている。見た目は本物そっくりだし、簡単な受け答えもできるから、お客さんはロボットだと気付かない。
『俺のこと好きかい?』
「あなたのこと好きよ」
『でも付き合ってくれないんだろう?』
「でも付き合ってあげないわ」
『君と一緒になれないのなら死のうかな。俺が死んだら一緒に死んでくれるかい?』
「一緒に死んであげるわ」
全てこんな調子だ。そして会話の最後の通りこの青年と一緒に毒を飲む。女の子はロボットだから死なない。
その日のお店終了間際、店長が言い出す。「皆さんにお酒を振る舞いましょう。」
ボッコちゃんはお客からお酒をもらうことが多いのだ。もちろん体内で消化することもないから、もう一度お客に振る舞えるというわけ。店長は賑わう店内の客に配り始めた。
しばらくすると、店内にはボッコちゃんの声だけが響いているのだった…
これからの世の中、AIの店員も出てくるだろう。そのロボットは、お酒を体内に入れても大丈夫なように改良されるかもしれない。そして、その酒はウイスキーとかなら取り出して味もそこまで劣らず飲むこともできる。誰かが毒を混ぜてしまうと…
こんな感じで、(note内で何回も繰り返し言っているが)星新一は「あり得そうな状況作りと未来予想」が絶妙にうまい。この道の天才、専門家といえる。
驚くべきことは、このショートショートが初めて出されたのが1958年だということ。カラーテレビが出るか出ないかの時代である。
「声の網」という長編では、コンピュータと電話が支配する世界を描き出している。パソコンもスマホも世間に大して普及してない当時に。今でやっと、AIに支配されるなんて思想が出始めたけれど、当時はまだ黒電話とかの時代。星新一、恐るべし。
『ボッコちゃん』は、名作が多い。星新一を初めて読む方にはぜひおすすめ。