本の感想15『不合理な地球人』ハワード・S・ダンフォード
これは、「人間という不合理な生き物」が住む地球に超合理的な宇宙人がやってきて、人間を不思議がっていくというストーリーの行動経済学の本。
行動経済学は、人間の不合理さや心理的な面を加味する経済学のとこ。比較的新しい学問だ。たしかに経済学の本を読んでると、「人間はこんな行動取らないだろ」と思うところがちらほらあるし、「それは頭では分かってるんだけど」というのが良くある。
経済学上での人間は、誰しもある程度パーフェクトに合理的な選択を取る前提だ。しかし実際、人間はそんなに上手く生きていけない。それは彼らに偏見や感情があるからだ。それを補完して経済学を考えていこう、という学問だ。
人間は限定的に合理的である
合理的な人間、と聞くと「冷静で冷たい」「非感情的」など負のイメージを抱くアホな人たちがいる。それは間違いだということがこれからよく分かるだろう。
まず、合理的であるとはどういうことなのか?身近で有益な面で言うと、投資や仕事で成功できる。日々の生活をより豊かに、効率的に暮らすことができる。損をしない。逆にいうと、我々は普段の友達や上司との会話、旅行、買い物、ゲームなど日常のありとあらゆる場面で、合理的である選択をしなくてはいけない。
今現在、あなたは合理的に思考、行動できているだろうか?簡単なテストをしてみよう。
あなた(A)はあるギャングの一味で、ここにもう一人仲の悪い同僚(B)がいる。今回ボスが、以下の条件でボーナスをくれることになった。
ボス「ここに20万がある。ボーナスとしておまえら二人にやろう。ただし条件がある。まずこの20万を先輩格Aに渡す。しかし独り占めはよくない、Bにも分けてやれ。分け前をいくらにするかはAが決めればいい。その分け前にBが合意するならば20万は晴れてお前らのものになる。しかし、Bが拒否した場合、ボーナスはチャラだ。ほら20万だ、A、好きに分けろ。」
さて、あなた(A)は分け前としていくら提示するだろうか?具体的な数字を一度頭に考えてみてほしい。ただ、提示金額は1万円単位で、提示のチャンスは一回きりだ。Bと事前の相談もできない。
どうだろう、五分五分あるいは六分四分くらいの金額を考えたのではなかろうか。しかし、それは本当に合理的だろうか?
相手が合理的人間であると確信してるなら、あなたが提示するべき金額は1万(自分の取り分が19万)にするべきだ。なぜならBからしたら、拒否権を発動したら手元には何も残らない。何も残らないよりは、一万円でも獲得できた方が得に決まっている。
あまりに不公平な額だと、相手が拒否権を発動して何も手元に残らないかもしれない。なので五分五分位を提示する、というのが常識的かつ社会的公平な判断だ。ただ、これは本当には合理的ではない。
(このテストも、「相手が合理的である」という前提が必要だから、色々考えて当たり前なのだけど)
人間には合理的思考をさえぎるいくつものシステムがある
では、なぜ上の例のように人間は限定的にしか合理的でいられないのか?
投資の価格変動を考えるときのように、「ある対象に関するありとあらゆるすべての情報を握ることは難しいから。」ということは答えの一つであるかもしれない。人間が何かを意思決定しようとする場合、あらゆる選択肢を検証して最適な行動をとることはほぼ不可能である。
ただそれ以上に、感情、思考のショートカット、偏見(バイアス)などといった様々な要因が関係している。
例えば上の例でいうと、Bは「ムカつく」と言う感情によって、五分五分以下の条件提示を受け入れないという、合理的でない行動を取るかもしれない。今は受け入れておいて、後から冷静にやり返すという行動もできるのに、感情によってその場において適切な思考ができなくなる。
(もう時代も移り変わっていることもある中で)勉強のできない子供に罰を与えてしまうのは、一種の思考のショートカットかもしれない。
人間の脳は、楽をするためにすぐ正解を求めたがる。また、神経的にある事柄に対して反応が出来上がってしまっている。宿題を忘れた=廊下に立たせる、という短絡的な考えは、脳が本質を考えることを放棄し、楽しようとしているのだ。
何も考えずにあるがままを受け入れている人は、実は世の中に多すぎる。それは偏見によるところも大きい。
・大学=行っておくべき、何となく良いところ
・就職=終身雇用、いつまでもいるところ
・教師や親の言うこと=聞くべき
自分の行動や思考が、感情、思考のショートカット、偏見に惑わされていないか?本質を考えられているのか?これらを問うのは難しいかもしれないが、大事なことだ。
行動に出ないという損失
「現状維持バイアス」という言葉を聞いたことがあるだろうか?これはぜひ覚えておいてほしい言葉だ。
例えば、行動したときの損失ばかりを考えてしまって、現状にとどまってしまうという人間の思考。これは現状維持バイアスが働いているせいだ。
人は利益を得るよりも、損失を回避する方に強く傾く。よって、やりたいことがあるけどできない、新しい道があるが今の現状から動けない、という人が多くいることもうなずける。
しかし人々は、動かなかったことに対する損失があることを知らない。もし新しい行動に出た時に、得ていたはずであろう利益が得られないことを。
好きな人に告白するか否か?で考えてみよう。たぶん結構多くの人が通ってきた葛藤のはずだ。告白して失敗したら、話せなくなるかもしれない。周りからうわさされるかもしれない。でも、「告白しないというあなたの行動」のせいで、好きな子と付き合うというMAXの利益を得ることは一生できない。告白する行動力、勇気も経験できない。失敗して何になるだろう?周りになんて気さくに今まで通り話せば済むことだ。本人とも会話はできる。悪いことは何もしてないんだから。
一歩違ったことをすることは、結果が駄目であろうと情報や経験を獲得することができる。これらを踏まえて、何か今までとは違うこと、あるいは現状に変化を加えてみることは、十分にやってみる価値がある。むしろ、動けないと一生動けない人間で終わる。
もう一つ、あなたが選択する居酒屋を例に出してみる。今はいくつかの(ある程度満足できる)決まった居酒屋をループしているとする。このままだと、一定の満足感を得続けることはできるが、さらにすばらしい居酒屋に出会うという体験をすることはできない。ほかにももっと良いところは転がっているのに、それをみすみす逃して価値の低い居酒屋を使い続けているという損失が発生している(かもしれない)。
まとめ
特に最後の現状維持バイアスは、心に刻みたい。これから幾度となく、動こうか、どうしようか、という場面は出てくるはずだ。そしてそういう時、必ず「こうなったらどうしよう」という囁きが行動をやめさせようとする。その本能に負けないようにしたい。
どんな記憶もいずれは薄れる。
善悪は時とともに移ろう。
人間はいつか死ぬ。
地球はいつか無くなる。
急に悟ってしまったが(笑)、この気持ちでなんでもやってみよう。