本の感想50『妖精配給会社②』星新一
星さんのお父さん「星一」は、優秀な経営者かつ研究者だった。外科手術に不可欠なモルヒネは、ある時まで海外への外注がマストだったけど、その国産化に成功したりと、薬の方面でかなーり国民に尽くした。「東洋の製薬王」とも呼ばれ、彼が造り、経営してた星製薬はチェーンストアという販売方式を日本で初めて確立したりもした。星薬科大学の創立者でもある。
野口英世やフリッツ・ハーバーのパトロンとしても知られてて、エジソンと会ったりもしてた。すごい人物だ。そんな彼は政治家からはちゃめちゃに嫌がらせや営業妨害を受けるんだけど、それはまた別の話。
前置きが長くなったけど、そんな父の出立を調べてか、あるいは血を受け継いだのか、星さんのショートショートには斬新な経営方法が多数出てくる。その一つが、今回紹介する『妖精配給会社』の中のアフターサービスという話。
ある男が育毛剤の営業にくる。すごい発明品で、ある有名なお金持ちの画家に売りつける。効果は確かだが、植物性のものだから生えてくる髪の毛が緑色をしている。
少ししてから再訪したセールスマンは、男に専用の染色剤をオススメする。これで緑色の髪の毛問題は解消された。
しかししばらくすると、髪が早く伸びすぎるのに気がついた。アフターケアで訪れたセールスマンは、今度は個人用の自動散髪機なるものを紹介する。3日に一度美容室に行くよりは圧倒的に割が良いと、男はそれも購入する。これで早く伸びすぎ問題は片付いた。
しかしそれでも、散髪の頻度が多すぎて時間が無駄だし、仕事も全く捗らない。そんな心配を悟ってるかのようにまた現れたセールスマンは、最後に特殊な脱毛剤を売る。画家は、元の薄い頭に戻ったが、科学の進歩、素晴らしい会社と大喜びするのだった…
この会社の仕組みは、自社で開発した商品を使って、想定してたであろうこれから起こる事態、需要をまた生み出す。それをまた自社の商品で供給するというサイクルだ。現実的な細かいところは置いておいて、素晴らしい経営方法。おもしろい。
星さんの作品は、SFという言葉だけで縛りつけてはもったいない。経済、人間心理、生物学、医学など星さんの広い知識が伺えるものが多いからだ。