本の感想12『国境の南、太陽の西』
村上春樹を好きになったきっかけの本。精神安定剤であるとともに、懐かしい気持ちになれる。
例えや表現が秀逸
高校の時の国語の模試だったかなぁ。この『国境の南、太陽の西』の一節が引用されていたのがきっかけだ。問題文として提示されたものを読みながら、衝撃を受けた。「模試どころじゃない、なんで素晴らしい文なんだ。」と。こういう経緯でこの本を知り、村上春樹にハマった。今でもたまに読み返し、何とも言えない気持ちを思い起こしてくれる。おすすめの一節がこれだ。
「そして僕は長いあいだ、彼女に対して僕の心の中の特別な部分をあけていたように思う。まるでレストランの一番奥の静かな席に、そっと予約済みの札を立てておくように、僕はその部分だけを彼女のために残しておいたのだ。島本さんと会うことはもう二度とあるまいと思っていたにもかかわらず。」
一人の人間に対して、ある程度長い期間その人を思い続けることで得られる感情。この文に、自分の中のものを見出せる人が一定数いると思う。「レストランの~」から始まる表現が、この現象に非常にピッタリとしていて感動を覚える。
自分が抱く感情、体験する現象に対して、これ以上的確な表現や例えとは一生出会えないな、と思わせるものがある。
「感情」というものは、一種の幻やフィーリング的要素が強くて、的確に表現することは難しい。また、表現しようと文章に起こしてみても、うまくできなかったり納得いかなかったりすると思う。
村上春樹は、そういった「感情」という極めてあいまいなものを、文章として、ここまで表現できるところがすごい。
登場する女性に含まれる霊的な何か
ここからは村上春樹ワールドの考察の話。
『ノルウェイの森』や『海辺のカフカ』といった作品で、主人公が愛情を抱く女性たちには、霊的な何かが共通している気がする。うまくいえないが非現実的な、霊的な何かを感じさせることがある。なんなんだろう、詳しい人ぜひ語り合いたい。
まだ村上春樹を知ってから日が浅いので、何ともうまく言えない。
村上春樹を読んでて気がついた小説の楽しみ方として、ある人の本というのは、他の作品を読み込んでこそ新しい見方ができるということだ。あるいはひとつの作品を読んでモヤっとしたものが残ったときは、その人のほかの作品を読んでみると理解の助けになるかもしれない。