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本の感想59『おせっかいな神々』星新一

星新一のショートショートには、しばしば「神様」が登場する。福の神だったり、貧乏神や死神などいろいろでてくる。

星さんはやはりさすがで、「本当にこの神が現実にいたら、こんな感じはありえるなぁ」と思わせてくれる。

貧乏神

例の一つとして貧乏神を紹介しよう。

一般の人がイメージする貧乏神は、取り憑かれた人がその瞬間からどんどんと貧乏になっていくという感じだろう。星さんがイメージするそれは、これにひとひねり加えている。

あるショートショートに出てくる貧乏神は、まず木彫りの像みたいなものに入り込んで、誰かに拾われるのを待っているところから始まる。誰かが拾うと、「自分は神だ」とだけ言っておいてありがたく思わせる。飾る場所まで作らせて大事にさせ、最初は金を儲けさせてやる。

その人間の人生が金銭的に絶頂まで行ったところで、自分は貧乏神だと打ち明け、一気に貧乏のどん底まで落とす。人生を一転させてくれた、感謝していた存在が実は貧乏神だったというオチ。彼ら貧乏神は、ある程度金を持たせて、喜びの最中にいる人間が落ちていくのを見るのが興だという。

貧乏神が、「人間を一度上げてから落とすというところに味をしめている」という人間味があるところが良い。あと、やはり神だけあって中世の貴族みたいに意地の悪さもレベルが高くてまた良い。

拾った木彫りが「わたしは神だ」と言うのを聞いただけで、「これはありがたい神に違いない」と人間が都合良く思い込むところもリアルだ。

悪魔

悪魔も登場してくる。神の類に入るだろうから、ここで紹介することを多めに見てほしい。

ベタな展開で、悪魔がある人間Aに、「3つ願いを叶えてやるから、死んだら魂をよこせ」と契約するよう持ちかける。

Aは悪知恵が効く人間で、「3つ叶え終わったら死んでしまうに違いない。ただ、何かしらの抜け目があるはずだ。」と頭を回転させる。

彼が頼んだ1つ目の願いは、「俺を殺せ」というもの。3つの願いを叶え切るまでは殺すわけにはいかないが、ついさっき何でも叶えてみせるとサタン様に誓ってしまったばかりだ。

困った挙句、人から見えない透明な状態にして、いわば魂だけの状態にすることでそれを実現させた。

さて、Aは友達Bのところへ行っていきさつを話したり、いろんな企業を回って極秘情報を知りまくったりとやりたい放題した。

Aの2つ目の願いは、「俺を生き返らせろ。ただし、お前(悪魔)の姿は見えないし、声も聞こえない状態でだ。」というもの。

これによって、Aは無事に生き返り、悪魔の姿見えないし声も聞こえないから3つ目の願いは永遠に保留。願いだけを謳歌して無事に生き続ける道を得た。

羨ましがったBのところに、悪魔が現れる。素晴らしいやり方をAの例で見てきたBは、よしきたと意気込んでいる。悪魔がそんなBにいう。

「願いがどうのとかで来たんじゃない。ある人間に知恵比べで負けてムシャクシャしてるから憂さ晴らしに来たのだ。」

Bは自分の体が離れていくのを感じるのだった。

このショートショートも面白い。悪魔は、これまで何人もの人間に勝ってきたのだろう。そもそも、人間なんか女と金しかせがまない。と、たかを括りだしたのかもしれない。

負けたからといって腹いせされる人間はたまったもんじゃないが、神なんてそれくらい気まぐれであってもおかしくない。我々の善悪とは違ったところで動いているのだから。

まとめ

この神がいたらどんなのか?と考えるのは楽しいことかもしれない。

まず、存在すると前提して考える。そして、いたらどんな性格で、どんなことをしてくるだろうか?現実的にどんな場面でどんな風に現れるか?星さんのように人間や世間に対する洞察がある人が考えて書くとこうも面白いのかと感心する。

普通の紳士の格好をした死神が出てきたり、キツネの福の神がいたりと、本当に色々いる。

宇宙人しかり、幽霊しかり、「いない」と一蹴してしまうとそれでおしまいではないか。それらを使って人を騙して金儲けする奴や下らない論を語る奴は依然として許せないが、一種のノンフィクションとして楽しませてくれるならウェルカムだ。

実際にいたらどんな奴だろう?シチュエーションは?と細かく考えていくのは良い遊びだ。人間は想像するという武器をもらってるんだから、使わない手はない。




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