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本の感想56『恐怖の谷』コナン・ドイル

シリーズ長編の構成

「シャーロック・ホームズ」シリーズの長編は、ある程度構成が固まっている。

まずワトソンとホームズが例の部屋で1通の手紙や知らせを受け取るところから始まる。ここでちょっとした謎かけや暗号文を解いたり、ホームズの名言が飛び出したりする。はやくも読者はワクワク感と、感心を抱く。

その後事件の現場に踏み込み、ホームズの並々ならぬ捜査や推理が飛び出し、事件はどんどんと真相に迫っていく。ホームズは、事件の真相が掴めていても、小出しにしかワトソンに情報を与えない。

なぜならワトソンに情報を打ち明ける=読者に情報を与える、ことになってしまうのだ。だからドイルはホームズに「僕は芸術家だから」というセリフを言わせることで言い訳をしている。「スパっと真相を打ち明けてしまう味気ない物よりも、ワトソン君(読者)に事件をより劇的に見せるために、僕はこうしてるのだ」

本の前半半分ほどで事件は解決し、後半の半分ものボリュームを使ってその事件の経緯やそこに至るまでのストーリーが繰り広げられる。

だいたいこんな感じで一冊が構成されている。この構成は、ドイルにとっての、あるいは売れる推理小説の鉄板パターンなのかもしれない。

本から考えたこと、考察

この本自体の感想じゃなくなってしまったから、せめて小説の中から啓発的な文でも引用して紹介しておく。

マクドナルド君、君は三ヶ月間家にとじこもって、毎日12時間ずつ犯罪記録を読破したまえ。おそらくこれほど実際的な行動はありません。そうすれば何でも分かる。

ホームズは、犯罪は似たようなことの繰り返しだと言っている。新しく持ち込まれた事件に対して、過去に似たような事件を参考にすることで犯人の動機や犯行手段や経路、後ろ盾の組織や性格などを引き出してみせる。

彼は、「歴史は繰り返す」という有名な格言を自身の仕事に実際的に転換、帰納してみせているのだ。

経済現象にしても、戦争にしても、セールスにしてもスポーツにしても、過去の何千通りもの事例を頭に入れておけば、それらに対して有利なことは間違いない。これこそ意味のある、方向性が正しい努力といえる。

俺は将棋が好きで、よくオンラインとかで打っているが、将棋はまさにこれが通用する一例だ。定石、手筋、過去の棋譜(選手同士の対戦結果、最初の一手から詰みまでの手順)を頭に叩き込んでおけば、どれだけバードゲームのセンスがなかろうが大抵の人間には負けなくなる。アマチュア二段くらいまでは余裕でなんとかなる。オセロやチェスや囲碁もしかり。

シャーロックホームズは、天才的な頭脳も間違いなく彼の強みではある。でもそれ以上に、自身の仕事(趣味、生きがい)に関連した情報集めや知識を詰め込むという努力を、惜しみなく行う、限界までやり込むという努力ができるところが最大の強みではなかろうか。それこそが、彼を世界でトップの探偵たらしめていると思う。





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