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干物のオーブン焼き 甘美な脂の赤魚編 ブルゴーニュ古酒(1997年産シャルドネ)

秋刀魚の干物に続き、一緒に焼いた赤魚の干物のオーブン焼きに白ワインを合わせる。

赤魚は体表が赤い魚の総称で、国産ではアコウダイ(赤魚鯛)、外国産ではアラスカメヌケが代表的だ。国産アコウダイは流通量が少なく、スーパーで見かける赤魚はたいてい外国産のものだ。アラスカで日本式に現地の漁師が髭に霜付けながら寒空で干しているのだろうか、アラスカは寒すぎてハエも飛んで来ないのだろうか、などと想像してしまったが、外国産のものを日本に輸送して干物に加工するのが一般的のようだ。

先日は古民家を改修したレストランではメヌケの焼き物にアルザスワインを合わせた。メヌケの甘い脂に、チーズのクリーミーさと舞茸の香りが絡み、味覚を複雑に刺激される素晴らしい一品だった。

赤魚の柔らかい身から広がる甘美な脂にはどのワインが合うだろうか。準備したのは秋刀魚の干物とも相性が良かったイタリア サルディーニャ島の希少品種トルバート、フランス プロヴァンスのシーフードに無双のヴェルメンティーノ品種、ミネラルと塩味のニュアンスに富むティレニア海沿いのカンパーニャ州のフィアーノ品種、シーフードに定番のヴェネト州のソアーヴェ(ガルガーネガ品種)。そしてダークフォースは1997年産のブルゴーニュ白。結果はブルゴーニュの古酒に軍配。

さて、赤魚の干物のオーブン焼きにワインを合わせていく。

ルモワスネ ブルゴーニュ・ブラン キュヴェ・スペシャル, フランス, 1997, 4,266円
Remoissenet, Bourgogne, Cuvée Spéciale, France, 1997, 13%

1877年にピエール・アルフレド・ルモワスネが設立したメゾン。ドメーヌから買い付けたワインをじっくり熟成し、飲み頃に出荷するため貴重な古酒をふんだんにストックしている。買い付けワインのみならず現在は約15haの自社畑を保有しビオロジック農法でブドウを栽培。
色調の艶やかなゴールドは年月の経過を感じさせる。
香りにはアプリコットジャム、開栓日はバニラやカスタードなどもあったが翌々日にはかなり穏やかに、林檎酒やリンゴリキュールのリンゴの力強いフレーバー。
風味は26年の熟成によりカドが取れ穏やかでややまったりとした果実味、酸味はかなり削ぎ落とされているが奥にきらりと残る、果実味は蜜のような風味に発展、中盤から余韻にかけてほろ苦さやヨード、ミネラルを感じる、鼻腔をドライアプリコットが抜けていく。
赤魚の干物のオーブン焼きに。ほんの一瞬、わずかな生臭みが立ちあがるような気もするが、すぐさま深いシンクロに入る。赤魚の甘美な脂に、ワインの熟成の奥に輝く一筋の蜂蜜のような甘みさが絶妙に調和。相性: ★★★★☆

ブリ大根に古酒のブルゴーニュ赤ワインの相性も良かったが、複雑に味覚を刺激する繊細な魚料理にはブルゴーニュの古酒を合わせてみるのも面白い。古酒は気まぐれで飲み時に悩むが、機嫌が良かったときの感動が合わされば素晴らしい魚介の饗宴となろう。

他のワインとの相性も。ピエロパンの重厚なソアーヴェとの相性は特筆すべき。

セッラ&モスカ, テッレ・ビアンケ, トルバート アルゲーロ, サルディーニャ, イタリア, 2020, 1,638円
Sella & Mosca, Terre Bianche, Alghero Torbato, Sicilia, Italy, 2020, 12.5%

“テッレ・ビアンケ”は「白い大地」という意味。石灰質の多い白い畑に由来。トルバートはセッラ&モスカと一部の生産者のみが栽培する希少品種。
色調は鮮烈なゴールド。
香りにはグレープフルーツ、ライム、グレープフルーツの果皮、微かなハーブや微かにほしわらの植物的なニュアンス、ポジティブな酸化的なニュアンスも。グラスを回すとマルメロ、黄色い花も豊かに、潮の香りがふわりと。
風味には果実味はやや控えめでほろ苦さ、塩味やミネラルのニュアンス、突出した個性はないがバランスに優れる、磯の香りに包まれるようなワイン。
赤魚の干物のオーブン焼きにワインを合わせる。秋刀魚の磯の香りを強く含む荒々しい脂にあれほど寄り添ったワインが、赤魚の柔らかい身に含まれる存在感の強い甘みには反発し、生臭みが立ちあがってしまった。ワインに含まれる植物的なニュアンスが反発の原因か。相性: ★★☆☆☆

シャトー・ド・ロムラード, キュヴェ・マリー・クリスティーヌ,プロヴァンス 2021, 1,631円
Château de l’Aumerade, Marie Christine, Cotes de Provence, 2021, 13.5%

シャトーの創設は15世紀に遡る、可愛らしいボトルで堅実な品質、1,000円台とコストパフォーマンスも素晴らしい。
グレープフルーツの甲高い香り、微かに海藻やヨードのニュアンス、軽やかにハーブの爽やかなニュアンス、
果実味の凝縮感はかなり控えめでみずみずしい、やや明瞭に塩味、中後半にかけてやんわりとほろ苦さが引く、果実味が控えめなので料理とぶつかりにくく幅広く合わせやすい。
赤魚の干物のオーブン焼きに。軽快な柑橘香とバランスの良いフードフレンドリーな味わいは、赤魚の個性の奥ゆかしい甘みにもしっかりと寄り添った。相性: ★★★☆☆

マストロベラルディーノ, ラディーチ, フィアーノ・ディ・アヴェッリーノ DOCG, カンパーニャ, イタリア, 2021, 2,732円
Mastroberardino, Fiano di Avellino, Radici, Campagna, Italy

イタリア南部ティレニア海沿いのカンパーニャ州、標高520-620mの単一畑で栽培される地場のフィアーノ品種。ラディーチは根の意。
香りには青リンゴ、ライチの爽やかでほのかに甘やかさ。潮の香り、白胡椒のスパイス、ヨードのニュアンス、フラワリーな香りも強く、セルフィーユのハーバルな印象も。
風味はみずみずしく果実味は程よく抑制されている分、明瞭に感じる酸味と塩味。余韻にはほのかにフェノリックなタッチとほろ苦さを残す。
赤魚の干物のオーブン焼きに。ワインの穏やかな果実味、ミネラルと塩味のニュアンスは赤魚の脂のから広がる甘味に心地よく調和。相性: ★★★☆☆

ピエロパン, ソアーヴェ クラッシコ ラ・ロッカ, ヴェネト, イタリア, 2020, 12%, 3,773円
Pieropan, Soave Classico DOC La Rocca

ラ・ロッカは海抜200~300m、石灰質と粘土が豊富な南西向きの畑の名。ガラスで内張りしたセメントタンク(2500L)で発酵。澱とともに約12ヶ月間熟成。
ゴールドがかったはっきりとした強い色調。
香りにはりんご飴、リンゴのリキュールの濃密なフレーバー。炙ったバニラビーンズを鼻の前に置いたよう。ヘーゼルナッツ、アカシア、フラワリーな蜂蜜、微かにヨード香や炙りわかめが重層的に。
風味は凝縮感の強いリッチでまったりとした果実味は陽のニュアンス、塩味やヨードのニュアンスは心地よく引き締める陰のニュアンス。両面がバランス良い。余韻にも豊かにバニラ香。
赤魚の干物のオーブン焼きに。ほんの刹那、生臭みが立ちあがるような気もするが、すぐさまワインのミネラルや塩味のニュアンスが鎮火。赤魚の甘美な脂に、ワインの完熟果実の力強い風味と樽香が絶妙に調和。相性: ★★★★☆

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