儚さに触れる"鎌倉の紫陽花"
まだ人で混み合う前に、紫陽花を見に鎌倉へ行った。
今では外国人から修学旅行生まで多くの人たちが、色鮮やかな紫陽花を見に鎌倉を訪れる。だが、紫陽花が観光資源となっていったのは、第二次世界大戦後のことだという。それまで紫陽花はあまり人気のある花ではなかったというのは少し驚きだ。
明日院や長谷寺で紫陽花が植えられ始めたことをきっかけに、現在では、鎌倉周辺の広範囲において紫陽花を楽しむことができる。
今回人気の明日院や長谷寺を避け、廻った鎌倉の各地もまた、美しい景色と共に、鎌倉時代に起こった出来事や歴史上の人物たちの悲喜交々を読み取ることができる場所だった。
1.竹の庭が作り出す幽玄の世界
鎌倉駅からバスで鶴岡八幡宮を過ぎ、山道を進むと通称竹の寺と呼ばれる報告寺がある。
足利家時が開基したと言われ、足利一族の墓があることでも知られている。それは建立時にしては珍しい「やぐら」におさめられている。やぐらの手前には竹の庭が広がっている。
竹林は一歩足を踏み入れると、冷んやりしていて外界と遮断された、別の世界に切り替わる感覚を味わう。そこでは情報に惑わされず、自分自身に内在する感情と向き合うことができることができた。
2.鎌倉を見守る高台の成就院
極楽寺まで足を運び、108段の階段を登りたどり着いたのが、當山の山上にある「成就院」だ。
成就院は、話題になった前回の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公だった北条泰時が建立。元はこの場所で護摩修法が行われていたという。眼下には由比ヶ浜が一望できる。ピーク時には階段の両脇は紫陽花の花で埋め尽くされる。この控えめな沿道の様子もまた儚く美しい。
3.路地に佇むカフェ坂の下
成就院から山を降りると坂の下エリアに辿り着く。海岸に繋がる路地へ入ると民家に混ざっておしゃれなカフェが点在している。中でもカフェ坂の下は、古民家をリノベーションしたカフェで、大分前にドラマの舞台になったこともあり、お店の前には列が出来ている。パンケーキが有名とのことで店内の人々の多くが注文していた。私はお昼にシラス丼を食べてしまったため、飲み物だけに留めた。
路地の表情や空気感、そこに流れる時間は東京とは異なり、鎌倉独自のものだ。そんな鎌倉時間を味わいに人々は列をなすのだろう。
ひとつひとつが微妙に異なる色みを持ちながら、妖艶な世界観を生み出す紫陽花。夏の手前の僅かな期間しか見られないその儚さが人々を惹きつけるのだろう。現代ではいつでも情報が手に入るが、元来その時期にしか見られない、食べられないものが多くあり、その季節性に人間は合わせて生活していた。
紫陽花の儚さに触れることで、今ではもう会えない人や事柄にも想いを馳せるようになる。そして今しかない、というタイミングを大切にしようと改めて思う機会になった。
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