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手仕事の街に手縫いのような仕事"蔵前 Nui.Hostel&Bar Lounge"

「東京のブルックリン」と呼ばれるようになってからジワジワ人気を集めている蔵前。
隅田川が近く、倉庫をリノベーションしたゲストハウスやカフェなどが次々と開発され、外国人もよく訪れる場所となった。

蔵前は隅田川に面して幕府に年貢を納める「御米蔵」が立ち並んでいた。そのため昔から人が多く集まり職人の「手作り」の文化が生まれた。

その蔵前が注目を集めるきっかけとなったひとつのプロジェクトが、2012年に竣工したNui.Hostelだ。玩具倉庫をリノベーションし、キッチンや浴室が共用となるゲストハウス、1階にはカフェが設置されている。こちらを手掛けるのは、「backpackersjapan」だ。ゲストハウスを地域に開き、良質でオシャレな存在に位置付け、ホテル&ホステル事業の他に、カフェ、キャンプ場やブルワリーも手掛けている。
そしてNuiのインテリアデザインは当時フリーで仕事をしていた東野唯史氏によるもの、現在では「ReBuilding Center Japan」を運営し、長野県諏訪市を拠点として、リノベーションの取り組みに加えて、建材として使える古材の小売も行っている。

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コロナ以前は日本を訪れる外国人観光客で賑わっていたが、現在は周辺で働く人や住民たちがランチをしたり、仕事をしたり、思い思いに過ごす姿が見られる。
仕事で蔵前を訪れた際に、今なら空いてるだろうと思いのぞいてみた。

単なるリノベーションに留まらないこの空間。国籍を問わず親しまれる理由は何か。

1.元倉庫の高さを生かした空間構成

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建物の中に一歩入ると、そこは高さ約4.5mの開放的な空間。通りに面して大きな開口部が並び、店内の奥まで光が届いている。元倉庫の場合、柱がない大空間は珍しくないが、足元で外部に対して開口部を大きくとるケースは少ない。リノベーションでは薄暗い印象の建物や、構造体を残し新たに開口部を作る場合が多い。なので今回のように内外に元の建物の印象を残しながら気持ち良い空間を作れたことが、多くの人を惹きつける理由なのかもしれない。夜は内部の光や賑わいが外に漏れ出て、さらに人々を呼び込むきっかけになっているのだろう。

2.自然の形を生かして作る

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空間の中で有効的に使われている木材の数々。これはデザインの大枠が決まった後に、北海道のニセコで選ばれ、現場で加工されたという。全国から集まった腕利きの大工によって、そこから根を生やしニョキニョキ伸びているかのような、力強くそしてほっこりできる木の表情を実現している。カウンターにも大胆に厚みを持たせた木材が勢いよく伸びている。キコリが現れそうな切り株の椅子もいい味を出している。さらにそれだけでなく生のグリーンもバランス良く配置され、上手く瑞々しさを醸し出している。

3.造作家具によるシーンのバリエーション

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図面通りに作るのではなく、現場の様子を確認しながらデザイナーや施主、大工さんによって話し合いながら現場は進められたという。通常現場は内装が出来上がった後に家具が入れられるが、ここでは造作家具が多用され、内装と一体化している。
天井高さを生かして奥の空間はフロアレベルが少し高くなっている。さらに段差に間接照明が仕込まれた奥にはグランドピアノが鎮座する空間になっている。それらの空間には座面の高さや形状が異なる家具が配され、人々の目線が交錯することなく同じ空間で過ごすことができる。大人数でワイワイ盛り上がりたい、一人で集中して作業したい、友人と話し込みながらランチしたい、などなど用途に応じて人々は座る場所を選ぶことができる。同じ空間に異なるシーンのバリエーションを設けている。
ちなみに私のように幹の隙間からインテリアと過ごす人々を観察する人もいる、かもしれない。

本来であればこのように手間と時間がかけられた空間は国内外の人が集まり、蔵前の手仕事を味わいながら各々の文化が交流し、また蔵前の街に刺激を与える存在であるべきだ。早く人々で賑わう元の状態に戻ってほしい。


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