寝てはないけど起きてもない話
後輩女子から飲みに誘われた。
『また私のやらかしエピソード、聞きたくないですか😊?』
本当に彼女はいつも魅力的な誘い方をしてくる。
同じ部署で働くようになりまだ1年ちょっとだが、
年が近い上、お互いドブのように飲むタイプなのでこのように定期的にドブ会を開いている。
私も随分お酒でやらかしてきたけど、彼女のやらかしエピソードはいつも想像の50000倍、斜め上をいく。
彼女のやからしエピソード、聞きたくないわけがない。
「モチのロンでやんす」
不真面目な我々は、残業に勤しむ諸先輩方を尻目に定時のベルも鳴りやまぬ内にさっさと会社をあとにした。
バカみたいにデカイ生ビールで乾杯してすぐ、彼女はサクッと切り込んできた。
『こないだ、社内イントラで激オコの回覧板きたじゃやいですかぁ?あれ、私です🥳』
きてた。
社内の公式な文章でそんなにイラつき滲みでることある?ってくらいブチ切れの回覧板が流れてきてた。
内容はこんな感じ。
【社用車の適正な使用について】
車内ドラレコより以下の様子が確認されました。
・運転中、携帯電話で通話。
・その後、おもむろにドアポケットから菓子を取り出し両手で袋を開け、両手で食す。
・菓子を左手に持ち、右手で携帯電話を操作。
・その間約2分、ハンドルは握られていなかった。
・ありえない
・バカなのか
・是正しろ
・これ読んでるやつらも分かってんだろうな全部見てんぞ
・気を付けろ。処すぞ。
いやどういうこと!?!?
オートクルーズ機能とかついてないけど!?
そもそも両手で菓子食う必要ある!?!?
『文字起こしされるのしんど🤣食べてたのクッキーなんですけどね🤣なんで両手で食べたんだろ🤣』
何してんの…
『しかも携帯で何してたかってマッチングアプリ🤣ウケる🤣』
なんなの…なんでそんなに嬉しそうなの…
やはり凄い。アホ過ぎる。
事故(事件)を起こす前にコイツは免許を返納した方がいい。
「お前もう二度と運転すんなよ」
自分に言える事はそれだけだ。
その後、200件くらいのやらかしエピソードを80000杯目くらいのハイボールを飲みながら聞いている時にそれは起きた。
『それでね😊まだあるんですよ聞いてください😊その時の超面白い写真まず見せるんで探しますね😊ちょっと待ってください😊』
「あ、じゃあトイレ行ってくるから探しといて」
『はぁい😊』
時間にしておそらく1~2分。
お待たせ~!写真あった~?と席に戻った私を、彼女はこの世のものとは思えないほど軽蔑した目で見つめた。
『なんですか』
「……え?」
『え、なんですか』
「……え…??」
『席、間違えてますよ』
「!?」
『席、間違えてると思いますよ😠!』
「席…間違えてないと思います…」
『なんですか…?どなたですか?』
「(ハッ!)あぁー!ふざけてんのかー!ビビッたわー!!」
『は?なに?怖いんですけど…』
いやいやいやいやいやこっちが怖いよ!!!!!
「マジで言ってんの…?記憶どうした…?」
『うちの会社の人ですか?』
「うちの会社の人…です…ね…」
『どこの部署の方ですか』
「お、同じ部署の…と、隣の席の者です…」
『え…こわ…』
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや怖い怖い怖い怖い怖いって怖いって!!!!!
なに!?!?どうしたの!?!?!?
なんで自分が不審者扱いされないといけんの!?
そういえば、昔こんな話を聞いた事がある。
人間は肉眼では分からないほど、細かく瞳が揺れている。精神が逝ってしまった人は、瞳の揺らぎが全くなく、ビタッと止まった真っ黒な目をしている。と。
その時の彼女の瞳はいつものキラキラとした輝きは一切なく、見ているとそのまま引きずり込まれそうな闇属性バリバリの真っ黒な目をしていた。
(おぉう……コレはヤバいやつ…)
そう思って、刺激しないように、丁重に、自分が悪いスライムではない旨を、ご説明いたしました。ぷるぷる。
自分、初めて見ました。
本当に、漫画のように、アニメのように、瞳に光が宿る瞬間を。
パァッッッと笑顔になった彼女は何事もなかったように言った。
『そろそろ二軒目行きますぅ~?🥳』
いや怖いって。
もう恐怖しかないよ。なんなの。
絶対何か憑依してたよね。
レア体験にも程があるやろ。
ちなみに二軒目には行った。
そして超面白写真はしっかり超面白かった。
翌日………
『わたし二軒目どころか一軒目も後半の記憶ないんですけど何してました?寝てたんすかね?』
って聞かれたので、
「いやぁ…寝てはないけど起きてもなかったわ…」
と、お答えしました。
そんな話。