【花は詠う】寄り添いの蒲公英 黒田勇吾
その花は 静かに佇んでいた
始めは まだ花開かない 小さな蕾であった
気が付けば 太陽の光に照らされて
きみは 花びらを開いて 空を見ていた
一輪の 蒲公英
私の心の庭に 咲いた 励ましの黄色い花は
やがて 囁きはじめた
いや そうではない
遥か前から
ずっと囁いていたのだ
ただ私自身が その囁きに
気付く心が なかっただけだった
その優しき 囁きは
悲しみの涙を 流した人にだけ
聴こえるように 囁いていた
大丈夫 あなたは大丈夫
今のその苦闘は すべてに意味があるのよ
無駄なものは なにひとつないのよ
やがていつの間に 君の傍に
新しい蒲公英が 咲いていた
春の 眩しさが 増すにつれ
蒲公英は この道にも あの道にも
囁きの輪を 広げていった
それぞれの蒲公英は 囁いていた
大丈夫 大丈夫
あなたの苦闘は 私が見てきたから
だからもう少し 今の苦闘を楽しみましょう
蒲公英は 囁きの 花の絆を
たくさんの道に 広げていった
それぞれが 静かに 咲いていた
けっして声を 荒げることなく
けっして自己を 見せびらかすことなく
ある日 一番初めの君は
綿毛の純白に姿を変えていた
そう 旅立ちの準備の翼を 広げて
寄り添いの囁きが書かれた 手紙を持って
空へ 飛び立っていった
小さな 小さな 一輪の花だった君は
また新たな使命を果たそうとして
飛翔していった
平和の心を 世界中に届けるための
優しい囁きが 書かれた手紙を 携えて
飛翔していった
青空の青が深まった 空に向かって
君は 風を味方にしながら 飛翔していった
2023年 8月29日綿毛の蒲公英