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何もかも仕組まれていたとしたら

モダンタイムス(上)
著者:伊坂幸太郎
出版社:講談社文庫

この世界の何もかもが仕組まれていたとしたら。
道行く人も話しかける老人も、映画館がガラガラになるのも。

「私」は登場の段階で既に殴られて拘束されている。
「勇気はあるか?」の問いに「実家に忘れてきました」という程度には勇気のない屁理屈野郎ではある。

恐妻家のこの「私」こと渡辺拓海の妻は、彼の浮気を疑っては男を雇い拷問する。
拘束されることになる前、既に「私」は身に覚えのない浮気の疑惑によって、腕の骨を折られている。手を下したのは妻本人ではなく、雇った男なのだけど。

時代は今から50年ほど後の世界。ジョンレノンは100年前に亡くなっていて、誰もが知っている人物ではなくなった。

SEとして働く「私」は、失踪してしまった先輩が請け負っていた、とある出会い系サイトのコンパイルエラーの解決を任せられる。
しかし、その失踪した先輩を追って3人の男たちが「私」を襲う。

この出会い系サイトのプログラム、何かおかしいんです。

サイトにかかわった者たちは、次々と自身や周囲が事件の容疑で捕まり、自殺し、いなくなっていく。
普通のキーワード検索ではたどり着かないこの出会い系サイトには、5年前に起こった、中学校の襲撃事件が関わっていた。

伊坂幸太郎の描く今から50年前の世界は、現代とそこまで変わらない様子を見せながらも、少しだけ未来の技術が見え隠れするような描き方をする。カフェで注文したコーヒーの中にニュースが流れ、テレビ(と思われる)ボリュームは、手元のグラスをこすることで上がっていく。
カフェのガラスからは車が突っ込んでくるようなリアルな映像が流れたりして、これは現在の街で見かける3D映像を彷彿とさせて、2024年に生きている私からするとなんだか嬉しくなった。
が、同時にこの世界線には青年訓練制度と呼ばれる、決められた期間内の徴兵制が日本に存在していて、これもなんだかリアルな感じもしてしまう。

「私」は、上記のような恐妻家でありながら、会社の同僚と浮気をする。
運命というものに、人間は弱い。
では、その信じていたはずの運命というのが何もかも、プログラミングのように仕組まれていたのだとしたらどうだろう。
5年前の中学校襲撃事件と、出会い系サイトの関係も見逃せない。

この話には、井坂好太郎という、著者と同じ名前で違う漢字の作家の友人が登場する。女好きでしょっちゅうナンパしているようだが、言っていることは的を射ている。そして一瞬本当にそんなこと考えてんのか、とちょっと思っちゃうくらいには錯覚する。そうなんですか伊坂さん。

このモダンタイムスは、上巻と下巻があり、今現在下巻を読み進めている最中。
少しずつ複雑化しながらも進んでいくストーリーに目が離せない。

危険思想とは、常識を実行に移そうとする思想である
芥川龍之介

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