
北条義時について知るならこの1冊
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の第1回を見た。さすが三谷幸喜さんの脚本だけあって、面白い。俳優陣も主演の小栗旬さんを筆頭に豪華な顔ぶれで、今後が大いに期待できる。
大河に限らず、源平合戦の時代をテーマにしたドラマはこれまでも見てきたが、その多くは平清盛とか源頼朝、義経兄弟、北条政子が主役だった。
その点今回の主人公・北条義時はかなり地味だ。
実際、さまざまな歴史の本を読んでも「権力闘争に勝ち抜いた二代執権」という程度の印象しか残らなかった。
ところが私が三十代の終わりぐらいに、古本屋で偶然見つけた文庫本を読んで、一気に義時に対する認識が変わったのだ。
本のタイトルは『はじめは駄馬のごとく ナンバー2の人間学』(永井路子著・文春文庫)。
(今では絶版になっているが、大きめの図書館や文庫専門の古本屋なら見つかるかもしれない。)
「なんだ、ナンバー2の話なんて、大したことなさそうだな」と思ったのは大きな誤りだった。
<ナンバー2になるために生れてきたような男である。その生きざまのあまりのみごとさのゆえに、かえってその名もかすみがちの男―—。>
この書き出しからしてぐいぐい引き込まれた。
さらに<ほんとうに権力を弄ぶのには、ナンバー1になるより、ナンバー2でいるのに限る>という一文と出合って、「なるほど!」と膝を叩いた記憶がある。
大河の「鎌倉殿の13人」は登場人物が多いうえに、人間関係が複雑すぎてわかりにくいというのが難点だろう。
ところがこの本を読めば、「この先政子とは……、可哀相に畠山重忠は……、親父の時政はこうやってねじ伏せ……、さらに和田義盛とも……」などのストーリーが自然に頭に入ってくるのだ。
だから今から「鎌倉殿」のあらすじを知っておきたい、けど歴史の本を読むのは苦手、という方には格好のダイジェスト本といえる。
念のため言うと、この本は1冊まるごと北条義時の話ではない。
義時の他にも徳川秀忠、平時忠、藤原不比等など、そうそうたる<ナンバー2>について書かれたエッセー集なのだが、どれも目からウロコの話ばかりで、少しも飽きさせない(巻末の著者と城山三郎さんの対談も秀逸)。
さらにナンバー2の失敗例として、源義経や明智光秀も登場するので、かなり得した気分が味わえる。
ただしこのエッセーが書かれたのが80年代なので、現代日本の企業風土には合わなくなっている面もあると思う。
それでも、北条義時に注目が集まっている今だからこそ、単なる歴史好きだけでなく、組織の中で(出世を望み)密かに爪を研いでいる人にも、おススメしたい1冊だ。
★見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから、miaさんの作品を使わせていただきました。ありがとうございます。