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転職に不安はあったがそれでもお香をやりたかった。やってみたら、心は前職と同じだった。
私の現在の職業「香司」。
香司とは「13歳のハローワーク」の言葉を借りれば
「香料選びから調合、仕上げまで
お香制作に関する一切の責任を負う人。
天然香料についての専門知識と研ぎ澄まされた感性を持ち、
伝統の製法に基づく奥深い香りを生み出すスペシャリスト」
である。
私は現在、香司として活動をしているけれど、
看護師しか知らない私が
お香の道に入ろうと決めた時、
不安はものすごくあった。
私は非常に鼻が利かなかったのだ。
お香を職業としようとするには致命的。
どのくらい鼻が利かないのかというと
ワキガの匂いがわからないくらい。
看護師として病院に勤めていた時代。
皆毎日、更衣室で白衣に着替えるので
他人のワキの匂いに接する機会が多かったのだが
同僚に
「あの人、ちょっと臭うよね」
と同意を求められても
「え?そう?」とさっぱりわからず。
それから
ユリやバラ、金木犀は香りが強くて苦手という友人もいたが
私にはユリやバラはよく香ってわかりやすいと思うくらい。
逆にいうとそれ以外の花は
香りがあるとは思えない。
それくらい鼻が弱かった。
おそらく、小さい頃から鼻が詰まっていて常に口呼吸、
鼻で息ができるようになったのは二十歳を過ぎてからなので
嗅覚をあまり使ってこなかったせいではないかと思っている。
とはいえ、
「お香の香りが好きだから」で入った世界ではなく、
「お香の文化を広めたい!!」と思って入った世界。
そのためにはなんとか頑張って
人並みの嗅覚は身につけたい…。
肩を並べて学ぶ同期たちは、
昔からお香が好きな人や
アロマのスペシャリストなど
前々から「香り」が身近にある人たちばかり。
劣等感を感じつつも
お香の師匠に
「鼻は鍛えられる」
とお言葉をいただき、
必死に食らいついていった。
ようやく今では人並みの嗅覚になったと思っている。
そう、たぶん、私の嗅覚は人並み。
何百種類の香りの嗅ぎ分けができるパフューマーには
全然敵わない。
けれど、私には
「お香を広めたい」
という思いと同時に
看護師時代から、
いや看護師になろうと思ったときから
「人に寄り添いたい」
という思いがある。
香りには心を癒す力がある。
そしてその癒しの香りは
人によってそれぞれ違うはずだ。
例えば「心地よい香り」と一言に言っても
スッとした香りを心地よいと感じる人もいれば
どっしりとした香りを心地よいと感じる人もいる。
その「心地よい香り」がどういう香りなのかを見つけていき、
その人が求める香りを作るのが
私ができることだと思っている。
オーダーメイドでご注文いただいたお香にしろ、
調合ワークショップでお客様が作る香りに対するアドバイスにしろ、
お客様がどう感じているのか、どう思っているのかが大事だと
私は思っている。
「その人に寄り添う」ということは
お香でも看護でも同じことだと思っている。