神の子どもたちはみな踊る

著者:村上春樹
出版社:新潮
初版:2002年

あらすじ

冒頭に詩の引用がある短編集。すべてに1995年の震災が関与する。
UFOが釧路に降りる:偶に鬱っぽくなる妻と主人公である夫。震災のニュースを見た妻はそれをきっかけに出ていく。主人公は同僚から小箱を預かるついでに釧路旅行へと出かける。
アイロンのある風景:家出をした順子は海岸で焚火をする三宅と出会う。三宅は芸術家であり、冷蔵庫に閉じ込められる悪夢に悩みアイロンのある風景を描く。
神の子どもたちはみな踊る:宗教の教徒である母をもつ善也は父が”お方”だと育てられてきた。本当の父らしき人物を追いかけて夜の野球場に入り込む
タイランド:更年期障害に苦しむドクターさつきはバンコックで付き人ニミットにもてなされる。
かえるくん、東京を救う:巨大なかえるくん曰く、巨大ミミズが首都直下地震を引き起こすという。主人公は自らの無力を主張するが、かえるくんは応援してくれるだけでいいという。
蜂蜜パイ:学生時代の友人三人組のうち、自分を残して2人が交際・結婚した。それから数年後、子供がいるにもかかわらず旦那が不倫をして離婚をする。残された自分は子供とともに暮らすことを決意する。

印象に残ったセンテンスなど

全体として文学性が高く、一部が印象に残ることがなかった。すべてが隠喩である文章は、それ全体がイメージの世界に閉じておりコントラストが見えなかった。私自身の純文学の解像度が高ければ、もっと仔細に点検できたろう。

巻末の解説など

Webより”村上春樹を読む”:本作は地震の後というまとめられ方をしているが、例えばUFO…ではそれが1995年2月とわかる。これは震災のあった1月とオウム地下鉄サリン事件のあった3月の中間であり、実際にほかの短編も宗教が絡むことが隠されている。

感想

村上春樹作品を読むのは初めてだった。読み通して最初に感じたことは、文章が美しいこと、登場人物が非現実的な冷め方をしていること(これは単にニヒリストというわけではなく、自我の薄さを表現しているのかも)だった。全体として難解に感じてしまうのはやはり私がミステリばかり読んできたからだろう。ミステリ以外ではSFや私小説ばかりだったので、こうした芸術性の高い(答えがないという意味で使用している)小説に触れる経験はあってよかったろう。
読み終えた後で考察などを調べてみると予想だにしない一貫性があったり有力な読み方があったりして己の読みの浅さが衝撃だった。

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