一九八四年 [新訳版]

著者:ジョージ・オーウェル
出版社:ハヤカワ
初版:2009年(新訳) 1949年原著

あらすじ

主人公ウィンストン・スミスはオセアニアの真理省に勤務する党員で,歴史の改ざんを仕事にしていた。家では監視装置テレスクリーンに見張られており,一切の反乱もその予兆さえ見逃さない。あるときスミスは奔放な美女ジュリアと恋に落ち,党の眼をかいくぐりながら密会を繰り返す。窮屈すぎる監視社会に嫌気のさしている二人は革命組織への接触を考える。

印象に残ったセンテンスなど

Theディストピア小説だと思う。登場する概念が面白い。言葉を単純かつ保守的に無害化するニュースピーク、革命の予兆がないか監視するテレスクリーン、党の正当性を信奉しながら業務としては党の悪行を手伝う二重思考など。党の主要組織が真理省・平和省・愛情省とよばれ、それぞれの業務は名称と真逆である。解説ではこれを二重思考と考察されている。

巻末の解説など

トマス・ピンチョン:ジョージオーウェルの来歴から始まり,1984年が歴史の寓話でないかという観点から歴史との比較を行う。
社会主義の変遷。当初は利潤追求のために労働者を搾取するといった資本主義の犯罪行為に対する聖戦であったはずが、やがて権力の保持に汲々とする浅ましい思想に成り下がったことへの絶望。
二重思考。これは認知的不協和(葛藤・ジレンマ)として知られていたものと類似だろう。

感想

とにかく恐ろしい小説だった。原作が記された当時は共産主義への恐怖が蔓延していたらしく、著者本人も共産主義への失望を書き残しているらしい。ディストピア小説では華氏451℃を読んだことがあるが,主人公がディストピアの制度に取り込まれている状態から始まるせいか、俯瞰した国のシステムが最後まで明らかにされない展開である。終盤になって判明するオセアニア以外の国との関係が絶望的であり、軌道に乗った恐ろしいシステムを止められない恐怖を味わった。

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