アイディアと多様性の良い関係 第1回(一つの価値観に基づく「ブレスト」は死に体である。)
一つの価値観に基づく「ブレスト」は死に体である。
ある日の朝、先輩がチームのメンバーを集めてのミーティングが始まりました。
「今日はブレストにしたいと思います。次のイベントでうちの会社のデザイナーを使ってPRをしたいんだが、みんなのアイディアを聞かせてほしい」
(むむむ、いつも用意周到な先輩が、資料もなく突如ブレストって?)
そこで、私は「当社のデザイナーは、これまでの実績が豊富なので、デザイナー個人のこれまでの制作物を一度に見られる展示にしてどうでしょう」と誰も口火を切らない場に耐えかねて、思いついた案を口にしてみたのです。
すると、先輩はこう言いました。
「それって、うちの会社にどんな意味があるの?」
黙っていた周りのメンバーも、そうだな、と言わんばかりに訝しげな面持ちで頷いています。その後立て続けに先輩は「一体その企画でいくらかけて、何人来場されるつもり?費用対効果から考えても、ないな。」とぴしゃり。議論はその後、ほとんど発展することなく終わっていきました。
さて、この先輩のブレストには、一体、どこに問題があったのでしょうか?
①ブレーンストーミングの目的と役割
②ファシリテーションの機能不全
ブレーンストーミングの目的と役割
ブレーンストーミングの目的は、より多くのアイディア(検討のテーブルに挙げるべき案の種)を、限られた時間で、出来るだけ多く発見することです。
その為に重要な事は、
創発する
出来るだけ多くアイディアを紡ぎだす為に、この場では「アイディアの所有権」という概念を捨てるルールが必要です。どんなに優れたアイディアもみんなのモノ。人のアイディアから、連想するして更に新たなアイディアが出ることも大歓迎してください。人とアイディアの優劣の比較は禁止です。
判断は後回し
一つ一つのアイディアを精査は、ブレストの中でする必要はありません。数を出すという目的に反します。また、仮に精査して劣っているとしたアイディアも何かを考えるヒントになったとしたら、目が出る前に烙印を押してしまうのはもったいないことです。「誰かが、何かに変えてくれるかもしれない」そんな期待を込めて、くだらないアイディアも率先してテーブルにあげましょう。
ブレスト中は「リスク」なんて言葉は、最も不要なNGワードです。
ファシリテーションの機能不全を回避する
上記のような目的と役割をもったブレーンストーミング。一見すると、「会社の会議で、成り立つの?」という気持ちにもなるかもしれません。しかし、目的が達せられれば、実に有効な手段であるはずです。
しかしながら、冒頭の”先輩”は、ご自身の持つ、単一の価値観で議論を展開していきました。ブレーンストーミングは機能不全に陥ってしまいました。
彼はどのように場をファシリテートすれば良かったのでしょうか。
彼にはいつでも決定権があるのです、前述のとおり「判断を後回し」にして、自身も思いつかないようなアイディアを多く発見することが、結果よい選択に繋がるかもしれません。その為には、場のメンバーが自由に発言できる環境を整えられる事が大切だったと考えられます。
意見の違いを歓迎する
ファシリテータはこの時点で、合意形成をする必要はありません。むしろ、多くの違う意見が出る事の方が成果なのです。多様な意見が出やすいように、その場を「自由」かつ「安全な」場であることを参加者に伝えましょう。
違う意見に対して、そこから連想が膨らみやすいように、そのアイディアを考えた背景も参加者に言語化してもらい、そこに同調するアイディアや、或いは正反対のアイディアを強引にひねり出してもらうことを促しても良いかもしれません。
意見を均等に扱う
ブレーンストーミングのアイディアは、共同作業の産物であり、誰のものでもありません。その合意形成をファシリテータは行うべきです。誰のものでもないという事は、それぞれの意見は均等に扱われなくてはいけません。会社の飲み会の参加費のように偉い人から傾斜をつけて…というように、地位や声の大きさ等で優劣がついてはいけないのです。
例えば、ファシリテータは考えたアイディアを、均等に順番を参加者に与えて発言を求めても良いでしょう。そして一度、発言者から出てきたアイディアは、あえて付箋など誰が書いても同じ1枚になるような形で提供してもらう形も有効です。
ファシリテータもこのような事を実践しようと思った場合、参加者によってはドキドキしてしまうこともあるかもしれません。しかし、より良いブレストの成果を得るためには、出来るだけ事前に参加者と合意をしてからスタートをするのが良いと思います。
次回は少し俯瞰した、このブレーンストーミングが、意思決定全体のプロセスのどのような役割を担っているか、構造の部分を第2回として解説をしていきます。
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