苦手なこととは何か

苦手なことは何かと聞かれるとすぐに思いつくものがある。

それは「バスケットボール」だ。

バスケットボールは私にとって明らかに向いていない。
それが分かるのは私が小学校から大学まで何かしら私の人生に関わってきたからだ。
小学校はポートボールだったが子供会、中学校は部活、高校は同好会のようなもの、大学はサークルだ。
それは私がどうしてもバスケットボールをすることを選び続けてきたという意味でもあるが、それくらいやり続けて分かったことがある。
それは絶対的に苦手だということだ。

苦手というのは指の骨を中学で５回、大学で３回骨折したことではない。

シュートやドリブルは練習すればある程度までできるようになる。
とくにスリーポイントは10本中８本は入るくらいできていた時もあった。
でも苦手ではないというのはそういうことではない。

中学校では補欠の常連だったが、顧問の先生から、ある時からスタメンの番号をもらっていた。
でも試合にはほとんど出られなかった。
なぜか。
どんなに下手でも挫けず一生懸命練習している私を先生は同情したのだ。

私は走るのも早かったし持久力もあった。
駅伝部からずっとスカウトされていたくらいだ。
身長は156センチでチームでは一番背が低かったが、その時のシュート率はチームで１番だった。
でも下手だった。
致命的だったのはチームプレイだ。
ボールを回すセンスがない。
他にもいろいろあるが気が弱かったり、プレッシャーに弱いことも含めて全部駄目だった。
それはチームのメンバーが合わなかったとかそういうことではない。
そう考えるのが救いではあったが、絶対にそうではなかった。
私は自他認める正真正銘のセンスのなさだった。

中学を卒業して、また高校でもバスケットボールを始めたのは、それによって失った自信を取り戻したかったというのがあった。
私はできる。
そう思いたかった。
でもそこでも中学校の時に足りなかった自分の素質を克服することはできなかった。
さらにその苦手な部分を思い知らさせられた。
私はリーダーとして信用をなくし、深く傷ついた。
バスケットボールをやればやるだけできないことは確実になり、できないことが増え、自信がなくなっていった。

「●●は、自分の意見を言わないからダメなんだよ」

高校の時、メンバーから言われた言葉だった。
それは思ってもないようなことを言われても何も言い返さない自分に愛想をつかして言われた言葉だった。
でもできなかった。
それは私には簡単ではなかった。
誰にでも意見を言わないわけではなかった。
私には意見を言いたくないと思う人たちがいた。
私はある意味冷めている部分があった。
人は人、自分は自分と突き放して考える時があった。
すぐに感情的になる人は理解できなかった。
感情的にならないことはないが、その程度で感情的になることに対して、冷めた目で見ていることがあった。
そう思っていることは人を見下していることになるかどうかまでは分からなかった。
私は自分とは違う人には理解してもらえないと最初から諦めていた。
分かってもらう努力はしなかった。
相手が私のことをどんなに批判しようが、言われるがままにした。
でも人から嫌われたくなかった。
私は臆病だった。
理解できない人も含めて、別にいいと思える強さは全くなかった。
だから私はほっといておいてほしかった。
だからほっといた。
その態度はチームとしては許されることではなかった。
それはリーダーとしての態度としては破綻していた。
私は自由を愛していた。
それは自分を励ます、惨めな自分に向けられた救いだった。
私は人に合わせることができなかった。
チームとしての一切のプライベートのない在り方は完全に無理だった。

私は諦めるということを知らなかった。
でもずっと自分を諦めていた。
出来ない自分が自分だと思っていた。
自分が嫌いだった。
そして頑固だった。
愚かでもあった。
その嫌な自分をそうでない自分にするには、苦手なバスケットボールを続け上手くなることしかなかったのである。

バスケットボールをする中で、イジメられたことも、仲間外れにされたことも、リーダーとしての信用を失ったこともある。
怪我なんて数えきれないほどしたが、それは心の痛みに比べたらぜんぜん痛くなかった。
バスケットボールで地獄を見てきたのに、またバスケットボールをやることを選んでしまうのが私だ。
チームで一体になって楽しいと思ったその一瞬のために、自分にはどうしても合わないと思うチームと言う在り方について考え続けた。
嫌な自分を克服する手段としてもバスケットボールを選び続けたが、結局バスケットボールではそれを克服することはできなかった。
もうバスケットボールには二度と関わりたくないと思うけれども、そう思う限り、それは何よりも私の身近にある。

苦手と言うのは、どんなに努力してもどんなに時間をかけても自分の自信が持てないことだ。
そして私にとって苦手は、縁を切りたくても絶対縁が切れないくらい愛着もあった。