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エース不在

軽やかに颯爽と街を闊歩する夢を見た。

今年の後半は次々と故障する身体に「おいおい、いったいどうしたんだ?」と突如絶不調に陥った野球部のエースにお先真っ暗になる監督みたいな心境の半年間だった。

要は長年大きな怪我もなく過ごせてきたこの身体を買い被っていた訳だが、不死身のアメコミキャラクターのような超人でも切断された部分から再生し完璧な別の個体になれるプラナリアでも無かったということだ。

常人であると証明されればカンフー映画を見終わった直後に高い塀から飛び降りて骨折することもないし、四肢の関節を外して小さなトランクに収まるなんて無茶もしない。幾らでも無理が利いた20年前には絶対に行わなかった緻密なボディケアを日々積み重ね、石橋は叩いて壊して他の経路へ迂回するぐらいの気持ちで臨むのみ。

ガックリと項垂れて生気を失ったエースの肩を抱いて途方に暮れていた僕だったが意外と悲嘆に暮れている時間は短かった。豪速球を投げられないのであれば彼には家業の修理工を継がせれば良いし他の成長著しい選手を育てれば良い。それも無理なら一人一人は頼りないが個性豊かで愉快な7人の小人チームを作れば良い。きっと甲子園よりも彼らには何物にも変え難い思い出が残るだろう。

そんな時に街を颯爽と歩く夢を見る、ってことはまだまだ諦めが悪い証拠なのかもしれない。まあでもこういう負けず嫌いな性格だからこそ人前に立つ仕事が出来ている訳なので、本当の引退は立つのもしんどくなってからでいい。その時まであちこち痛めてるけど1シーズンに1試合は完封出来るベテランエースとして球団にはお世話になろうと思う。

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