ベテラン社員には「老害化を防ぐ教育」を行ったほうが良いかもしれません
多くの日本企業では「階層別研修」という形で社員教育を行っています。
とはいえ、必ずしも全ての社員に対して定期的に教育を行っているわけではありません。どこの企業でも「手厚く教育する層」と「教育しないで放置される層」が出てくるのが現実です。
まず「手厚く教育する層」ですが、これは主に次の2つになります。
新人・若手
出世していく人
例えば新人・若手向けの研修は「早く一人前の戦力に育てる」という明確な目的で行われます。そして一人前になると次は課長や部長に昇進したタイミングで研修を受けるケースがほとんどです。
そうなると順調に昇進していく人は定期的に研修を受ける機会に恵まれるのですが、昇進の見込みがない人は研修を受ける機会が無いまま、ただひたすら自身の業務に取り組むことになります。
それこそ中には課長に昇進してから10年以上研修を受ける機会がない人も珍しくはありません。そして部長になれないままでいると一生研修を受けることなく定年を迎える人もいます。
このように今の職位で滞留してしまう人こそ「教育しないで放置される層」なのですが、いかんせん日々の業務はこなせるので教育の緊急性は低く、あっても福利厚生的な位置づけで行われる自己啓発の研修だったりします。
というわけで、日本の企業ではベテラン社員になればなるほど教育を受ける機会が減ってしまうのは仕方ないところもありますが、教育をしないことによる問題が一つだけあります。
それは年齢を重ねるほど老害化する可能性が高くなる、という問題です。
ここでは「老害」という感じの悪い言葉をあえて使いますが、マイルドに言い換えると「考え方が凝り固まって新しいものを受け付けない状態」になるということです。
この「老害化」はおそらく人間にとって避けられない宿命であり、私自身も例外ではありません。
というのも人間は初めは”真っ白”でも、年齢を重ねていくうちに様々な経験や学びをするので、嫌でも自分の中に何らかの”固定観念”が形成されます。
「〇〇は~~であるべきだ」
「〇〇なんてありえない」
といったものです。
もちろん固定観念を持つのは悪いことではないのですが、問題は経験を積む中で自分の固定観念が「絶対的なもの」になってしまい、自分の固定観念とは異なるものを受け付けなくなるときです。
こうなってしまうと自分が正しいと信じることを他人に押しつけたり、自分の物差しで物事を決めつけたりするような人になってしまいます。
それでも一人で仕事する分にはまだ害は少ないのですが、これが管理職や現場のリーダーといった「人を動かす立場」や「人を指導する立場」になってしまうと悪影響は大きくなります。
たとえば自分の持論を一方的に押しつけ、部下の話を聞かずに決めつけるような上司がたまに見受けられますが、これこそ「老害」に他なりません。
もちろん人間がすべて年を取れば「老害」になるわけではなく、世の中には常に自分から新しいことを吸収し続けるような人もいらっしゃいます。
ただ一つの会社で長年働くとどうしても同じような人とばかり接することになり、狭い世界に留まってしまうため凝り固まりやすくなります。
だからこそ今の職位で滞留しているベテラン社員には「リスキリング」という名目でデジタルスキルなど新しい知識やスキルを学ばせるもの良いのですが、それ以上に「老害」にならないよう固定観念を手放すための教育が重要というわけです。
では、どうすれば固定観念を手放すことができるようになるのか?
固定観念は自分の中で形成されるものですので、他人に言われたところで簡単には手放せません。
他人がいくら「あなたは凝り固まっている」とか、「このままでは老害になりますよ」と言ってもダメです。
凝り固まった固定観念を手放すためには、自分が心の底から正しいと信じていたことが「思い込み」に過ぎないことを自分自身で気づくしかありません。
現実的には人は自ら「痛い目」にでも会わない限り自分自身で気づくのはなかなか難しいのですが、教育の一環として本人が自分の「思い込み」に自分自身で気づくための「場と機会」を提供し、本人の「内省」を支援してあげることで「気づくきっかけ」をつくることは可能です。
このような「老害化を防ぐ教育」すなわち「固定観念を手放すための教育」を実際に取り入れている企業はまだ少ないのですが、私が実際に経験した事例ではある管理職の方が自分が部下のために良かれと思ってやってきたことが全然部下のためにはならなかった(むしろ逆効果だった)ことに気づき、自ら悔い改めたことがありました。
その方は今まで誰に何を言われても「自分が正しい」という確信があったのですが、冷静に自分の行いを振り返る機会を得たことで初めて自分の「思い込み」に気づくことができたというわけです。
全員が全員自分の「思い込み」に気づくことは現実的には難しいのですが(私の経験上良くて2~3割程度)、それでも「老害」にならない人が少しでも増えると企業にとっては大きなインパクトがあります。
(少なくとも若手社員のモチベーションは劇的に上がる)
というわけで、もし自社のベテラン社員が「教育されずに放置されている」のであれば、「固定観念を手放すための教育」を検討しても良いかもしれません。