How Will You Measure Your Life? :最高の人生を生き抜くための経営学
イノベーション・オブ・ライフ
ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ
How Will You Measure Your Life?
クレイトン・M・クリステンセン
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この本は、ハーバードビジネススクールの教授であったクリステンセン氏が、2010年最終講義の中で語った内容をまとめたもの。
長い間、企業の経営研究を行なってい彼は、「経営の基礎理論」を「個人の人生」に当てはめることで、最高の人生を生き抜くための考え方を私たちに教えてくれる。
この授業は、3つの質問からはじまる。
1)どうすれば幸せで成功するキャリアを歩めるだろう?
2)どうすれば伴侶や家族、親族、親しい友人たちとの関係を、ゆるぎない幸せのよりどころにできるだろう?
3)どうすれば誠実な人生を送り、罪人にならずにいられるだろう?
ここから、「経営理論」の説明と「人生」への示唆を、交互に紹介します。
1)幸せなキャリアを歩む
▼「動機づけ理論」で真の動機づけを理解する
この理論には、「衛生要因」と「動機づけ要因」の2つがある。
衛星要因とは、少しでも欠ければ不満につながるもの。報酬・職の安定、作業条件・企業方針・管理方法など。
動機づけ要因とは、仕事への愛情を生み出すもの。やりがい・他者の評価・責任・自己成長などが含まれる。動機づけは、外からの働きがけや刺激とはほとんど関係がなく、自分自身の内面や仕事の内容と大いに関係がある。
この理論の面白い点は、報酬が動機づけではなく衛星要因に含まれている点。
報酬が低ければ「仕事に不満がある」となるが、報酬が高くても「仕事に満足している」とは限らず、もっと高い報酬を要求する可能性もある。
「仕事に不満がある」の反対は、「仕事に不満がない」であり、「仕事に満足している」とはならないのだ。
私たちは、衛星要因をある程度満たしつつも、動機づけ要因に着目することが大切だ。
▼「創発的戦略」と「意図的戦略」のバランス
戦略には、「意図的戦略」と「創造的戦略」の2つがある。
私たちの人生は、つねに意図的戦略か、創発的に現れる予期されない選択肢のどちらかを選びながら、道を進んでいく。
すでに自分の求める仕事が見つかっているのであれば、意図的戦略に基づき手法をとるのが理にかなっている。意図的に目標を定め、どうやって達成するかに思考を集中させる。
しかし、自分の求めるキャリアが見つかっていない人は、道を切り拓こうとする新興企業のように、創発的戦略をとる。
人生で実験をするごとく、一つ一つの経験から学び、様々な機会を試し、方向転換し、戦略を修正していくことを繰り返す。いつか、衛星要因を満たすとともに動機づけ要因を与えてくれる仕事に巡り合う。この時、ようやく意図的戦略が意味を持つ。
最初から、意図的戦略を取らないといけない、なんて決めつける必要はないのだ。
2) 幸せな関係を築く
▼将来の幸せへの投資
ほとんどの人は、家族や友人たちと深い愛情に満ちた関係を築くという、意図的な戦略を持ちながら、実際には望みもしない人生の戦略に投資している。
多くの人と広く浅い友情を結ぶが、誰とも深い友情を育まない。離婚を何度も繰り返す。一つ屋根の下に住みながら、子供と心を通わせない、など。
しかし、友人や家族との関係への投資を、必要性に気づくまで後回しにしていたら、手遅れになる。大切な人との関係に実りをもたらすには、それが必要となるずっと前から投資するしか方法はない。
▼「ジョブ理論」で愛する人の用事を片付ける
マーケティングの製品開発に対する考え方に「片づけるべき用事」理論というものがある。すべての商品やサービスは、「顧客の片付けるべき用事(ジョブ)をこなすために雇われている」という考え方。
この、ジョブ理論を愛する人に当てはめてみよう。
「愛する人が、私に一番求めているのは、どんな用事だろう?」と自問して、適切な視点を持ってものごとを考える。そして、愛する人のために、時間と労力を費やし、自分の優先事項や望みを喜んで我慢し、相手を幸せにするために集中する。
相手のために価値のあるものを犠牲にすることでこそ、相手への献身が一層深まる。
3)罪人にならない
▼限界的思考の罠
既存企業の経営陣が投資の是非を判断するとき、2つの選択肢がある。
1つ目が、まったく新しいものをつくる際に抱える「総費用」。
2つ目が、既存資産を活用する際の「限界費用」と「限界収入」。そして、必ずと言っていいほど「限界費用」の理屈が「総費用」を圧倒する。
一方、新規参入企業の場合は、理にかなっていれば「総費用」の選択肢を選ぶ。なぜなら、業界参入したばかりの企業にとっては、総費用=限界費用だからだ。
競争が存在するとき、既存企業がこの理論に従って、既存資産の活用をはじめてると、総費用をはるかに上回る代償を支払うことになる。それは、競争力を失うからだ。
▼100%守る方が、98%守るよりたやすい
上記理論を、人生に当てはめて考える。
「原則としてしてはいけないことは分かっている。でも、やむを得ない事情だから『1度くらい』いいだろう」
そんな状況に陥ったことはないだろうか? いけないことを『1度だけ』として正当化すること。この限界費用はほぼ必ず低いと決まっている。
しかし、その小さな決定を積み重ねると、ずっと大きな事態に発展し、その結果として限界費用だけを考え、自分の行動がもたらす本当のコストが見えなくなってしまう。
限界費用分析をもとに『1度だけ』の誘惑に屈せれば、行き着く先で必ず後悔する。自分の正義を100%守る方が、98%守るよりたやすい。
自分の中で何を信条にするのかを決め、それをつねに守ろう。
人生の目的を持つためのプロセス
目的を持たない企業にとっては、どんな経営理論もほとんど価値がないものになる。
つまり、1〜3で紹介した理論を最大限活かすためには、人生における目的をハッキリさせる必要がある。
ここからは、人生の目的を明確にするための、最良のプロセスを紹介する。
① 自分のなりたい自分「自画像」を持つこと
家族や育った環境で植え付けられた価値観・優先事項、これまでの経験から得た学びなど。人生の側面から、自分の自画像を組み立てる。
クリステンセン氏の自画像は、次の3つだ。
・人がよりよい人生を送れるように助けることに身を捧げる人間
・思いやりがあり、誠実、寛容で、献身的な夫、父親、友人
・神の存在を信じるだけでなく、神を信じる人間
② 自画像に対して「 献身」すること
心の中に願望を持つことは誰でもできるが、目的に深く献身することは難しい。日々やるべきことや、やりたいことを犠牲にして、自画像を実現することを優先することは、苦しいことかもしれない。
この「献身」を実現するためのプロセスは、自分の描いた自画像が、本当になりたいものなのか?という自問を繰り返すことから始まる。
自画像が正しくないと感じたら、捉え直そう。自画像を確信したら、その人間になることに人生を捧げ、やり通そう。
③ 自分の人生を評価する「尺度」を決めること
尺度とは、個人の人生が自画像に向かって進んでいるのかどうかを評価するための「ものさし」だ。
クリステンセン氏は、尺度を次のように語っている。
より良い人になれるよう私が手助けできた、一人ひとりの人間
自分が善を行うものとして何をしたのか、だ
クリステンセン氏は、ガンを患い、虚血性脳梗塞となり倒れる。その後、「表現性失語症」となり話すことも書くことも難しい状況になる。
その人生の絶望の中で、自分の自画像・献身・尺度に正直に生きる決意を新たにする。自分の問題よりも、人の問題を解決することに心を砕くうちに、絶望が消え、再び幸せを感じられるようになったそうだ。
私たち人間は、大切なことに気づくのが下手だ。失ったり、絶望したり、病気になったりしなければ、なかなか人生と向き合おうとしない気がする。
でも、この本は、クリステンセン氏が様々な経験の中で見出した、人生で最も大切にすべき素晴らしい教訓がたくさん詰まっている。
私たちは、今、じっくり時間をかけて人生の目的を考えるべきだ。
※ こちらのvoicyの要約がとてもわかりやすいので、オススメ!
おわり
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