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『Fears to Fathom』緊張と緩和、そしてオーラルヒストリーとしての心理ホラー。5作目を迎えた、恐怖の行方

「Fears to Fathom」は一人称視点のホラーゲームだ。現在までに5作品がリリースされており、いずれもSteamで1000件以上のレビューを獲得している人気シリーズだ。

このシリーズの特徴は、なんとプレイヤーからメールで物語を募集し、それを元にゲームを制作しているという点だ。開発者の元に届いた物語をそのまま再現しているのか、あるいは改変しているのか、はたまた複数のエピソードを組み合わせているのかは知る由もないが、少なくともそのゲームプレイは、現実のどこかで実在した出来事を追体験するものである。

執筆 / ようげ
編集 / 葛西祝

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「Fears to Fathom」はゲームプレイの大部分をウォーキングシミュレーター的な歩行に依存すると同時に、語り部が過去に体験した日常生活と恐怖の狭間にある様々なアクティビティに没頭することとなる。

それは例えばたわいのない会話だったり、ラジオを聴きながらする運転だったり、時には料理や魚釣りだったりする。いわばホラーテイストの生活シミュレーターと言ってもいいかもしれない。

このような、日常生活と恐怖体験の狭間にある生活の作りこみは、レトロなグラフィックで描かれるこのゲームに現実感を与える。大して話が進展するわけでもない世間話のような会話や、やたら材料の多い料理や食事、果てには操作可能なデスクトップなど、プレイアブルな範囲は狭いもののそこには密度の高い生活が根付いている。


それらの要素はクオリティの高さから今作がホラーゲームであることを忘れさせ、プレイヤーを「この世界に今生きている人間」として馴染ませ、緊張感を緩めるものとして機能する。


一方で今作には様々な人々との居心地の悪い交流も描かれる。彼らにはむき出しの悪意も、加害性もない。しかし、彼らと出会う状況がプレイヤーの不安を増幅させる。エレベーターの中、残業中のオフィス、見知ったはずの男友達と二人きり等々…。


以上のように今作は緊張と緩和をせわしなく左右し、プレイヤーを恐怖のクライマックスまで徐々に導いていく。これが今シリーズのホラーとしての魅力であり、人気の秘訣でもある。

また今作は一人の人間の体験談であるという形式から、恐怖体験にあった被害者のオーラルヒストリーとして捉えることも可能となる。「留守番中の子供」「ヒッチハイカーの女性」「人里離れた火災監視員」など、語り部の社会的なステータスと取り巻く状況がプレイヤーの体験する恐怖と密接に関連していることを嫌でも理解させられる。

誰が味方で誰が悪意の人物なのか、最後まで判断できない居心地の悪い恐怖を味わう今作のゲームプレイは、単なる恐怖体験としてだけでなく、他者の経験を共有するというゲーム特有の性質を強烈に味わうものとして考えることもできる。


備考
今作の5作品目、『Fears to Fathom - Woodbury Getaway』は私(ようげ)が翻訳しています。お楽しみください。


ストアページ(5作品目)


ようげ
大学院で哲学専攻後、テレビの編集など経て現在あらゆるものからフリー。
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Twitter:@Youge2
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