【REVIEW】『Open Roads』とは何か。3世代に渡る女性たちのADVから映る、断絶と希望の物語
『Open Roads』は、祖母・母・娘の断絶の希望に満ちた物語だ。ゲームは娘たちが母を拒絶すること、そしてその拒絶を赦すことを描き、その断絶を持って父の系譜、異性愛規範の系譜、ジェンダー差別の系譜を覆そうと試みる。
ハラスメントの問題を抱えたFullbrightから独立したOpen Roads Teamは、本作の中で『Gone Home』のスタイルをより発展させ、過去を探るアドベンチャーゲームの形式を、過去と現在が密接に結びつく語りへと展開している。
執筆 / 近藤銀河
編集 /葛西祝
『Open Roads』はライターであった祖母を亡くし、祖母の家を売り払い家を出て行かざるをえない母娘、テスとオパールを描く作品だ。
プレイヤーは娘のテスとなり、家具や物をあらかた売り払った家を探索し、目についた品について母のオパールと話し合う。テスとオパールはそこで祖母の隠していた手紙を見つけ、二人は祖母の秘密を探るために短いロード・トリップに出ることになる。
オブジェクトから情報を読み取るだけでなく、オブジェクトを介して交流が発生する点は開発チームの旧作『Gone Home』からの変化を感じる部分だ。
『Gone Home』は家を探索し様々手紙やZineといった物品を読むことで物語を開示していく点では『Open Roads』と近しいが、『Gone Home』では主人公=プレイヤーはオブジェクトの情報からいを孤独に読み取る存在だった。
『Open Roads』では、この読解は過去を描き出すだけでなく、母娘の現在をも語る。そこでは主人公の視線自体もゲームに組み込まれ、物語の対象となる。視線を向ける主体の存在がここでは重要になるのだ。
またこの母娘の会話が手書きのフレームレートの低いアニメーションとして描かれるのも特徴だ。背景はフォトリアルを意識した3DCGなのだけど、人物は手書きのアニメーションとなっていている。
本作は家屋を探索する場面と車中の旅を描く場面の二つのパートからなっているが、そのどちらでもこのスタイルは維持されていた。
このスタイルは動かし難い過去の記録と、それを受け止める流動的な人間の対比にも思える。
詳細はぜひ、プレイをして体験して欲しいのだけど、本作が描くのは、母と娘の間で交わされてきた父に関する嘘をめぐる物語だ。
『Open Roads』の母娘は父と離れている。オパールは父を幼い頃に亡くしており、テスの父はオパールと離婚した。
娘は父たちの細かい事情を母から聞いたことからでしか知らない。
そしてそこには嘘がある。その嘘は、母が社会的に要請される良い母像に合致されるためについた嘘だ。この嘘はその上、母と娘のつながりに暗い影を投げる。嘘のために母と娘の関係はギクシャクする。
母娘関係を引き裂く、家父長制の社会における母像のための嘘。これを解きほぐし、そのわだかまりという瘡蓋を癒していくのが『Open Roads』の目論見だ。
嘘を解き明かしていく原動力は主人公であるテスだ。テスは若者の持つネガティビティによって母→娘の間で継承される物事を否定していく。
テスは結婚する意思を持たない(選択肢を選べる)し、母と祖母の行っていた大学に行こうとしない。テスはほとんどフェミニズム的と言っていいようなネガティビティによって母娘のあるべき関係を否定し、母娘の継承を断絶していく。
また細かいところでいえば、本作におけるガラゲーを用いた演出も私の心に刺さったものの一つだ。母親と会話せずに助手席からメールに没頭したり、モーテルを一人で探検しながらメールをしたり、そうした演出は母娘の関係の外を豊かに描き出す。
母オパールの妹でテスからは叔母にあたるオーガストも、直接は登場しないものの気になるキャラクターだった。オーガストはオパールと微妙な距離を持ち、またオパールよりも父の不在の痛みを強く抱えていた。残念ながらあまりオーガストのことは語られないが、彼女から見た家族がどのようなものであったのかはとても気になる。
『Open Roads』はちょうどそのゲームが、小さな部屋の中にたくさんのオブジェクトを隠しているように、物足りないほど短い内容の中にいくつもの語りたくなるポイントを持っている。
これを読まれた方も、『Open Roads』をプレイしてなにか語りたいポイントを発見してみてほしい。
PS/XBOX/Switch/Steam/Game Passで配信中。
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