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【エッセイ】クリスマスの残り物


クリスマスの残り物


 12月26日のお昼ごはんは、クリスマスの残りものだった。りんご、生ハムとチーズとクラッカー、ポテト、そしてクリスマスケーキ。残り物なんてそんなもんだけど、とりとめがない。お祭りの後の雑多にちらかっている空気が食卓に横たわっていた。質素なのか贅沢なのか分からない献立に、僕と君はいただきますをした。それはつまり残り物を片付けるという戦の始まりだった。

 りんごは一週間前に知り合いからもらったもので、そろそろ食べないといけない頃だった。君が皮を剥いてくれた。生ハムとチーズとクラッカーは、君が実家でお祝い事の折によく食卓に出ていたものらしい。クリスマスや誕生日にみんなで食べていたなんてエピソードを一昨日聞かせてくれた。話半分に、僕はそれを頬張っていた。ポテトは、インスタで見つけたメニューを参考にして、星や猫の形にかたどって揚げたもの。昨夜晩く、君が急に思い立ってつくりだした夜食の残り物だった。もはやラスボスと化したクリスマスケーキ。昨日、一昨日と、フォークで刺しながらダメージを与え続けたが、相手のHPはまだ半分も残っていた。

「しょっぱいものが欲しくなるね」

 クリスマスケーキのスイートな連続パンチに戦意喪失ぎみだった僕は、相棒にそんな弱音を漏らした。君はすぐに立ち上がって、「春雨スープならある」と回復の薬草を示すがごとくインスタントスープの袋を放り投げた。お互いひとつずつ選んで、お湯を沸かして、器に入れて、できあがるのを待ち侘びた。その間も、僕らはケーキに斬りかかった。

「絶対こんなに食べられない気がする」

 一昨日抱いた懸念は見事当たってしまった。6人用のホールケーキをふたりで食べようとしていたんだ。こうなる未来は想像に難くない。「これくらい食べれるでしょ」なんて嘲笑っていた自分を殴りたくなった。

 このクリスマスケーキは僕のバイト先で売られていたものだった。一昨日、バイト終わりに買ったものだった。



永遠の愛と家族


 僕のクリスマスイブはバイトから始まった。

 20歳になって新しいことに挑戦しようと始めたのが結婚式場のバイトだった。「永遠の愛」とか、「ありがとう」や「おめでとう」が綺麗事にならない場所。そこでしあわせをつくる仕事ができるのはやりがいがあるに違いないと思ったのだ。

 大学四年になった今でも続けているんだから、やっぱり僕はああいう場所や仕事が好きなんだと思う。結婚しなくてもしあわせになれる時代だけど、それでも人生を共にしたい相手と結婚をすること、結婚式を挙げることを、僕はとても尊く思う。

 クリスマスイブは結婚式や披露宴があったわけではない。開かれるのは、クリスマスランチという食事を楽しむ会。その結婚式場で挙式をした新郎新婦、そしてそのご家族を招待するもので、つまり、誓われたあの日から今まで続いてきた永遠の愛たちが一堂に会するわけだ。もっとも、永遠の愛なのだから、今もなお続いていることは当然のことではあるけれど。

 参加された夫婦のなかには、子どもや親御さんを連れてくる人もいて、こんな風にして家族は育まれ、永遠の愛は育っていくんだろうな。

 家族って、たぶん、一緒にごはんを食べ続けられる人たちのことだ。今日も明日も明後日も、気遣いなく、笑って、おしゃべりしながら、食卓を囲める人たちのことなんじゃないかな。

 バイト終わり、パティシエさんから予約したクリスマスケーキを受け取るとき、僕は君と一緒に食べている様子を頭のなかに浮かべた。同時に、笑顔が浮かんだ。

 そういうことなんだと思う。

 そういえば、クリスマスランチの余興で、プランナーさんがサンタさんに扮して、子どもたちにプレゼントを渡すという余興があった。赤い帽子をかぶって、白い髭を生やして、高笑いをするおじさんに、子どもたちは歓喜した。

 あの子どもたちは、サンタさんは実在すると信じている。

 大人たちにとっては果たしてどうなのだろう。サンタさんなんていない。そうあきらめてしまう大人もいるんじゃないか。そういう大人の方が多いんじゃないか。

 しかし僕は言う。

 サンタさんは実在する。この世にいる。

 なぜなら、僕はこの後、サンタさんになったから。



本のサンタさん


 バイト帰り、僕は大学前にある本屋さんに立ち寄った。

 サンタさんになるためである。

 22歳は本の活動を中心に生きていこうと決めているので、これまで本のイベントを開催したり、ビブリオバトルに参加したりしてきた。

 高校時代からビブリオバトルの公式戦に参加していた僕は、全国大会に二度、出場したことがある。高二のときと、大三のとき。そういえば、去年の全国大会はクリスマスだった。奇跡を起こせなかった日、聖なる夜の寒空に悔しさを滲ませたことを思い出す。来年こそは全国制覇の夢を叶えたいと躍起になって、今年もビブリオバトルに挑戦することにした。どうにか三度目の全国大会出場を果たしたけれど、またしても準決勝敗退。

 奇跡は眠ったまま。僕は起こすことができなかった。

 7年越しの夢をあきらめたとはいえ、本の活動を終わりにするつもりは毛頭なくて、せっかくのクリスマスも、本にまつわる何かがしたかった。調べてみたら、ブックサンタというプロジェクトを見つけた。

 全国の子どもたちに本をプレゼントする、サンタさん。

 なんてステキなプロジェクトなんだろうと思って、僕はすぐにやることを決断した。それを実行したのが、クリスマスイブの夕暮れ時。バイト帰りのその足で、本屋さんに向かったのだ。

 ブックサンタはいろんな参加の仕方があるけれど、僕は本屋さんでお願いして寄付する方法を選んだ。何を贈るのか、それは事前に決めておいた。というよりも、今、子どもに届けるならこの一冊しかないと思った。

 ヨシタケシンスケ『にげてさがして』

 逃げること、探すことの大切さを綴った絵本で、僕のお気に入りの一冊だった。

 どこにいる誰に届くのか分からないけれど、これを受け取った子の胸に刺さるといいな。

 この一冊が、不安や迷いを抱えたときに逃げる場所になってほしい。

 逃げたその足で、自分にとって大切なものを探しにいってほしい。

 そして、大切な誰かと出逢ってほしい。

 そんな願いを込めながら、書店員さんに本を渡した。

 『にげてさがして』を紹介してくれたのは、絵本好きの君。お守りにして持ち歩くくらい大切にしている一冊で、僕もひと読み惚れした。

 僕や君がこの本に深く共感するのは、ふたりとも逃げるように生きてきて、探すように生きてきたから。逃げることは悪いことみたいに思えるけれど、心や身体が死なないためには必要な生きる術。逃げたその先で大切なものを探せばいい。一生の宝物を見つければいい。

 僕が君に出逢えたように、君が僕に出逢えたように、誰にだって奇跡のような宝物を探し当てることができるんだ。



※このエッセイの続き↓↓↓



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