筋トレには「ぽっこりお腹を引き締める」効果がある!?【最新エビデンス】
筋トレの目的といえば、筋肉を大きくする「筋肥大」です。
近年、筋トレによる筋肥大の効果を最大化させるためのトレーニングやタンパク質の摂取に関する科学的な方法論が明らかになっています。
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そして、現代の運動生理学は、筋トレの効果が筋肥大だけにとどまらず、以下のように述べています。
「筋トレには体脂肪や腹部の内臓脂肪を減少させる効果がある」
これまで、運動による脂肪の減少効果と言えば、有酸素運動や高強度インターバルトレーニング(HIIT)に関するエビデンスが中心でした。しかし、最新のメタアナリシスでは筋トレにも脂肪の減少効果があることが示唆されているのです。
今回は、筋トレによる脂肪減少の効果について最新の研究報告をご紹介しましょう。
◆ 運動は食事制限よりも内蔵脂肪を減らす効果が高い
「食事を減らしても、ウエスト周りの脂肪がなかなか減りません」
食事制限によるエネルギー摂取量の削減は、体重や体脂肪の減少に効果的であると報告されており、そのため、ダイエットを始める際には食事制限が最初に推奨されることが多いです。
しかし、食事制限だけでは効果的に減少しづらい脂肪があります。
それが、お腹につく「内臓脂肪」です。
ラドバウド大学医療センターのVerheggenらは、食事制限や運動による体重や内臓脂肪の減少効果を検証した117件の研究をメタアナリシスで分析しました。
18歳以上でBMIが25以上の人を対象に、食事制限を最低4週間行い、通常のエネルギー摂取量から少なくとも10%削減した食事を摂取。運動トレーニングとしては、最低4週間、最低20分間、週2回以上の有酸素運動が行われました。
結果として、食事制限は体重減少においては運動より効果的でした。しかし、内臓脂肪の減少に関しては、運動の方が食事制限よりも効果的であることが示唆されました。
多くのメディアや雑誌では食事制限を推奨していますが、内臓脂肪に関しては運動がより効果的であるというエビデンスが報告されているのです。
食事制限は皮下脂肪の減少に効果的ですが、腹部の内臓脂肪の減少には運動が必要です。そこで推奨されている運動が有酸素運動や高強度インターバルトレーニング(HIIT)であり、最新のメタアナリシスでは、筋トレによっても体脂肪や内蔵脂肪を減らす効果があることが報告されているのです。
◆ 筋トレで内臓脂肪が減る最新エビデンス
2021年、ニュー・サウス・ウェールズ大学のWewegeらは、筋トレによる除脂肪の効果に関する54の研究結果を基にメタアナリシスを実施しました。
被験者は筋トレの経験がない3058名(男女比4:6)で、平均年齢は51.2歳(範囲:19歳~72.1歳)でした。筋トレはベンチプレスやスクワットなどの全身トレーニングを週平均2.7回実施。1セットにつき平均9回(5〜15回)の繰り返しで、1回のトレーニングで平均2.6セット(範囲1〜5セット)を約20.5週間(範囲6〜104週間)続けました。トレーニングの前後で体脂肪率、体脂肪量、内臓脂肪量を計測しました。
結果として、筋トレを行ったグループは筋トレを行わないグループに比べ、体脂肪率、体脂肪量、内臓脂肪量が有意に減少しました。
このメタアナリシスにより、筋トレによって体脂肪率が1.4%減少することが明らかになりました。Wewegeらは、この減少率はシドニー大学の報告によるHIITや中強度の有酸素運動の効果(1.26%および1.4%の減少)と同等だと結論づけています(Keating SE, 2017)。
さらに、筋トレによる内臓脂肪量の減少量は0.49kgと判明しました。
これまで運動による内臓脂肪の減少効果は有酸素運動やHIITによる効果が報告されていましたが(Maillard F, 2018)、今回、Wewegeらのメタアナリシスにより、筋トレにも内臓脂肪の減少に効果的であることが示唆されたのです。
これらの研究結果から、筋トレは筋肥大だけでなく、体脂肪や内臓脂肪の減少にも寄与することが確認されました。
では、なぜ筋トレには脂肪の減少効果があるのでしょうか?
◆ 筋トレで脂肪が減るメカニズム
有酸素運動と筋トレは、ともにアデノシン三リン酸(ATP)を分解することにより得られるエネルギーを利用して行われます。しかし、ATPを再合成する方法が異なります。
有酸素運動は酸素を利用して主に脂質や糖質を酸化することでATPを生成します(有酸素性代謝)。一方、筋トレは筋肉内に貯蓄されているグリコーゲンを分解してATPを再合成します(無酸素性代謝の解糖系)。
このようなエネルギー代謝の違いから、有酸素運動は脂肪を酸化しやすく、脂肪の減少効果が高いとされています。
では、なぜ筋トレでも脂肪の減少効果が得られたのでしょうか?
このメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、考えられる可能性として「カテコラミン」の作用が挙げられています。
筋トレのような高負荷な運動を行うと、交感神経が活性化され、カテコラミンの分泌が増加します。カテコラミンはアドレナリン受容体を介して脂肪の分解を促進するホルモンとして作用します。カテコラミンの増加が脂肪の減少効果を引き起こすと考えられています。
また、アドレナリン受容体は特に腹部の内臓脂肪に多く存在し、筋トレによるカテコラミンの増加は内臓脂肪の減少を促す可能性があると報告されています(Rebuffé-Scrive M, 1989)。
今回のメタアナリシスの結果から、筋トレによる脂肪の減少効果の新たなエビデンスが明らかにされました。筋トレが筋肥大だけでなく、脂肪の減少効果も持つことが示唆されました。
これが現時点での筋トレによる脂肪や内臓脂肪の減少効果のメカニズムとされています。
筋肉量と脂肪量の比率を身体組成と言います。筋トレは筋肉量を増やし、脂肪量を減らすことで身体組成の改善が期待されます。この身体組成の改善は健康や身体的な魅力にも良い影響をもたらします。
筋トレによる脂肪の減少効果は、トレーニーだけでなく、お腹をへこませようとダイエットに励んでいる方にとっても知っておきたい情報ですね。
◆ 筋トレの科学シリーズ
シリーズ1:筋肉を増やすための「タンパク質摂取のメカニズム」を理解しよう!
シリーズ2:筋トレ後に摂るべき「タンパク質の摂取量」のエビデンスまとめ
シリーズ3:筋トレ後のタンパク質摂取は「24時間」を意識するべき理由
シリーズ4:筋トレの効果を最大にする「タンパク質の摂取タイミング」のエビデンスまとめ
シリーズ5:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう!【2023】
シリーズ6:睡眠前のタンパク質の摂取が筋トレの効果を最大化させる最新エビデンス
シリーズ7:筋トレするなら「タンパク質の摂取と腎臓結石のリスク」について知っておこう!
シリーズ8:筋トレ前の静的ストレッチは筋力増強の効果を低下させる最新エビデンス
シリーズ9:筋トレの効果を最大化するトレーニング要素の最新エビデンス
シリーズ10:筋トレの効果を最大化する「トレーニングの順番」を知っておこう!
シリーズ11:コーヒーブレイクが筋トレのパフォーマンスを高める最新エビデンス
シリーズ12:筋トレするなら「フルレンジ」が効果的という最新エビデンス
シリーズ13:筋トレ後にタンパク質と炭水化物(糖質)を摂取しても筋肥大の効果はアップしない
シリーズ14:筋トレには「ぽっこりお腹を引き締める」効果がある!?
◆ 参考文献
Verheggen RJ, et al. A systematic review and meta-analysis on the effects of exercise training versus hypocaloric diet: distinct effects on body weight and visceral adipose tissue. Obes Rev. 2016 Aug;17(8):664-90.
Wewege MA, et al. The Effect of Resistance Training in Healthy Adults on Body Fat Percentage, Fat Mass and Visceral Fat: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2021 Sep 18.
Keating SE, et al. A systematic review and meta-analysis of interval training versus moderate-intensity continuous training on body adiposity. Obes Rev. 2017 Aug;18(8):943-964.
Maillard F, et al. Effect of High-Intensity Interval Training on Total, Abdominal and Visceral Fat Mass: A Meta-Analysis. Sports Med. 2018 Feb;48(2):269-288.
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