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筋トレ後にタンパク質と炭水化物(糖質)を摂取しても筋肥大の効果はアップしない【最新エビデンス】


「筋トレ後にタンパク質と炭水化物(糖質)を摂ると、筋肉が2倍速く大きくなる」

 これはかつてメディアでよく見られたキャッチフレーズでした。しかし、現代のスポーツ科学はこう述べています。

 「筋トレ後にタンパク質に合わせて炭水化物(糖質)を摂取しても筋肥大の効果はアップしない」

 今回は、このメディアの“常識”を覆す近年の研究報告をご紹介しましょう。



◆ タンパク質に合わせて炭水化物を摂取すべきと言われる理由


 筋トレ後にタンパク質とともに炭水化物(糖質)を摂取すると、筋肥大の効果が高まると言われる理由は、主に「インスリン」に関連しています。

 インスリンの主な役割のひとつは、「筋肉内にエネルギーとなるグルコースを送り込む」ことです。

 炭水化物は糖質と食物繊維から構成され、摂取後には糖質が単糖類であるグルコースに分解されて吸収されます。吸収されたグルコースは、肝臓を通じて全身の血液中に放出され、血液中の糖の濃度が上昇します。この糖の濃度のことを血糖値といいます。

 血糖値の上昇を感知すると、膵臓からインスリンが分泌されます。インスリンは、筋肉への糖の取り込みを促進し、取り込まれたグルコースは筋収縮のエネルギー源として、またグリコーゲンとして貯蔵されます。

 これがインスリンの主な役割とされています。

 そして、もうひとつインスリンの役割があります。

 それが「筋タンパク質代謝への作用」です。

 筋肉のもととなる筋タンパク質はいつも合成と分解を繰り返しており、そのバランスが釣り合っていることによって筋肉量は維持されています。

 筋肥大の効果を筋トレで得るためには、筋タンパク質が合成される量が、分解される量を上回る必要があります。筋トレを行うと筋タンパク質の合成感度が上昇するため、この時にタンパク質を摂取すると、筋タンパク質の合成量が増加し、分解量を上回って筋肥大が促進されます。

 インスリンには、この筋タンパク質の合成を促進し、分解を抑制する作用があるとされています。

 炭水化物を摂取すると、インスリンの分泌が増えます。インスリンは筋肉の細胞膜にあるインスリン受容体と結合すると、Aktを介して、筋タンパク質を合成させるmTORを活性化させるとともに、筋タンパク質を分解するオートファジー系およびユビキチン・プロテアソーム系の働きを抑制することが示唆されています(Escobar KA, 2016)。

 このメカニズムにより、インスリンは筋タンパク質の合成を高め、分解を抑えることで、筋肥大の効果を強化するとされています。

 これが「筋トレ後にタンパク質に加えて炭水化物も摂取しよう」といわれる理由です。

 しかし近年、このメカニズムを否定するエビデンスが報告されているのです。


◆ インスリンによる筋タンパク質の合成の促進は期待できない


 「インスリンは筋タンパク質の分解を抑えるが、筋タンパク質の合成を増加させるわけではない」

 このエビデンスを最初に報告したのが、マーストリヒト大学のTrommelenらです。

 2015年、Trommelenらは、インスリン投与による筋タンパク質代謝への影響を検証した40の研究結果をもとに、システマティックレビューを報告しました。

 その結果、以前の研究報告では、タンパク質と炭水化物を同時摂取することで筋タンパク質の合成が促進されるとされていましたが、対照群としてタンパク質のみの摂取を設定していない研究が多いことが判明しました。

 さらに解析結果では、「タンパク質と炭水化物の摂取」と「タンパク質のみの摂取」の比較から、炭水化物の追加摂取により筋タンパク質の合成が高まるわけではないことが示されました。また、この結果は若年者と高齢者で同様であることもわかりました(Trommelen J, 2015)。

 2016年のメタアナリシスでも同様の結果が報告されています。

 ノッティンガム大学のAbdullaらは、インスリンによる筋タンパク質への影響を調査した25の研究をメタアナリシスし、インスリンが筋タンパク質の合成を促進する効果は低く、主に分解の抑制に作用することが示されました(Abdulla H, 2016)。

 これらの結果から、現代のスポーツ科学では、筋トレ後にタンパク質に加えて炭水化物を摂取することにより、筋タンパク質の分解を抑える作用は期待できるが、筋タンパク質の合成を高めることは期待できないことが示唆されているのです。

 これらのエビデンスを考慮すると、「筋トレ後に十分なタンパク質を摂取すれば、炭水化物や糖質を追加しても筋肥大の効果はさらに増すわけではない」と言えます。

 過去の研究では、タンパク質と炭水化物を同時摂取するとタンパク質の消化吸収が遅れ、筋タンパク質の合成が促進されないとされていました(Gorissen SH, 2014)。

 さらに、最新の研究報告では、タンパク質に消化しやすい糖質を合わせて摂取させても筋タンパク質の合成が高まらないことが示され(Nishimura Y, 2022)、炭水化物の消化に関係なく、インスリンによる筋タンパク質の合成の促進は期待できないことが改めて示唆されています。


 このように、筋トレ後にタンパク質に加えて炭水化物(糖質)を摂取しても筋タンパク質の合成は促進されず、筋肥大の効果はタンパク質のみを摂取するよりもアップしないことが現時点のエビデンスとして報告されているのです。

 無理に炭水化物を追加して摂取する必要はありませんが、インスリンには筋タンパク質の分解を抑える作用があり、疲労の回復を促進することを考慮すると、筋トレ後の食事で1日に必要となる摂取量はしっかりと摂取することは意識していくべきでしょう。



◆ 筋トレの科学シリーズ


シリーズ1:筋肉を増やすための「タンパク質摂取のメカニズム」を理解しよう!
シリーズ2:筋トレ後に摂るべき「タンパク質の摂取量」のエビデンスまとめ
シリーズ3:筋トレ後のタンパク質摂取は「24時間」を意識するべき理由
シリーズ4:筋トレの効果を最大にする「タンパク質の摂取タイミング」のエビデンスまとめ
シリーズ5:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう!【2023】
シリーズ6:睡眠前のタンパク質の摂取が筋トレの効果を最大化させる最新エビデンス
シリーズ7:筋トレするなら「タンパク質の摂取と腎臓結石のリスク」について知っておこう!
シリーズ8:筋トレ前の静的ストレッチは筋力増強の効果を低下させる最新エビデンス
シリーズ9:筋トレの効果を最大化するトレーニング要素の最新エビデンス
シリーズ10:筋トレの効果を最大化する「トレーニングの順番」を知っておこう!
シリーズ11:コーヒーブレイクが筋トレのパフォーマンスを高める最新エビデン
シリーズ12:筋トレするなら「フルレンジ」が効果的という最新エビデンス
シリーズ13:筋トレ後にタンパク質と炭水化物(糖質)を摂取しても筋肥大の効果はアップしない


◆ 参考文献


Spiering BA, et al. Resistance exercise biology: manipulation of resistance exercise programme variables determines the responses of cellular and molecular signalling pathways. Sports Med. 2008;38(7):527-40.

Escobar KA, et al. Carbohydrate intake and resistance-based exercise: are current recommendations reflective of actual need? Br J Nutr. 2016 Dec;116(12):2053-2065.

Trommelen J, et al. MECHANISMS IN ENDOCRINOLOGY: Exogenous insulin does not increase muscle protein synthesis rate when administered systemically: a systematic review. Eur J Endocrinol. 2015 Jul;173(1):R25-34.

Abdulla H, et al. Role of insulin in the regulation of human skeletal muscle protein synthesis and breakdown: a systematic review and meta-analysis. Diabetologia. 2016 Jan;59(1):44-55.

Gorissen SH, et al. Carbohydrate coingestion delays dietary protein digestion and absorption but does not modulate postprandial muscle protein accretion. J Clin Endocrinol Metab. 2014 Jun;99(6):2250-8.

Nishimura Y, et al. Co-ingestion of cluster dextrin carbohydrate does not increase exogenous protein-derived amino acid release or myofibrillar protein synthesis following a whole-body resistance exercise in moderately trained younger males: a double-blinded randomized controlled crossover trial. Eur J Nutr. 2022 Feb 19.

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