理学療法士が言語聴覚士に勝てない理由
タイトルを見た理学療法士さん、怒らないでください。
理学療法士と言語聴覚士は異なる専門性を持っています。
本来は比べるべきではないのかもしれませんが、少なくとも『言語』という分野においては理学療法士は言語聴覚士に勝てないのではないでしょうか。
前回の記事では、理学療法士が言語聴覚士から学ぶべき、『傾聴』を軸としたコミュニケーションについて書きました。
今回はもう一歩踏み込んで、言語聴覚士が無意識に行っていると思われる、言語・言葉の解釈とそのスタンスについて考えてみたいと思います。
言語という領域において、理学療法士は言語聴覚士に勝てないと思います。そこに異論のある理学療法士は少ないのではないでしょうか。
しかし、理学療法士も言語について学ぶ必要があり、言語聴覚士から教わるべきだと考えています。
今回の記事を読むと、
●患者さん・利用者さんの言葉を丁寧に聞くことの大切さがわかる
●言葉を解釈するということが何なのかわかる
●理学療法を行う上で必要な情報を言語・言葉から(少し)得られるようになる
言葉を解釈するということ
以前の記事で、言葉とは記号であるということ、言葉を解釈することの重要性について書きました。
今回は同じようなことを違う言い方で表現しますが、言葉を解釈するというのは、相手が発した言葉それ自体を解釈するというのとは少し違います。
どういうことでしょうか。
言葉を解釈するというのは、相手が発した言葉を通して相手の頭の中を知ることだと思うのです。
なかなかややこしいですよね。
私の勝手なイメージかもしれませんが、言語聴覚士は患者さん・利用者さんの言葉を丁寧に分析します。
それは音声学的な側面もあれば、統語論的な側面もあると思います。
特に脳卒中後の言語障害(構音障害・失語など)に対する介入を行う場合、患者さん・利用者さんの言葉を分析することで、脳の中で何が起こっているのか、どのような問題が生じているのかを考えるのではないでしょうか。(もちろん画像所見等と照らし合わせながらだと思いますが)
なぜ言葉が出ないのか、頭の中では言葉は想起できているのに発話ができないのか、頭の中で語を想起することもできていないのか、どういった語なら想起したり発話したりできているのか、語は想起できなくても概念としては想起(表象)できているのか、などなど。
言語聴覚士でもないのに勝手にこんなこと語ると怒られそうですが、こういった評価・解釈に基づいて介入を行われているのではないでしょうか。(STさん、もし全然違ったらお叱りください)
これを端的に概念化すると、次の図のようになるのではないかと思います。
要するに、言葉を通して相手の頭の中を見ている・考えている、ということになります。
理学療法士が言葉を解釈するということ
もちろん、理学療法士が患者さん・利用者さんの言語能力に対して介入するということはあまりないと思います。
むしろそこは言語聴覚士の専門性に任せるべきです。
では、なぜ理学療法士が言葉を解釈することの重要性をここまで説いてきたのでしょうか。
それは、患者さん・利用者さんの言葉に表れる脳内の状態は、運動とも密接に関わっていると考えられるからです。
例えば、自身の頭の中にない(=表象されない)身体部位は、言葉としても出てきません。
運動麻痺や感覚障害によって足首(足関節)という部位の動きが表象されなくなった場合、足首の動きづらさに言及することはできないはずです。(視覚情報や概念から言及される場合に注意)
このように、自分自身の身体をどのように捉えているか、脳内に身体がどのように表象されているかを、言葉を解釈することで知ることができる可能性があるのです。
違う視点から説明すると、脳の運動野と言語野(ブローカ野)は非常に近くに位置しています。脳の機能解剖的な観点からも、言語と運動とが密接に関わっていると考えられているのです。
近くに位置しているのですから、脳卒中によって運動野と言語野が同時に損傷を受ける場合も多いのも当然ですよね。これを運動の問題と言語の問題に分けて考えることの方がナンセンスではないでしょうか。
まとめ
理学療法士が言語聴覚士に勝てない分野、言語について書いてきました。
恐らく、言語を解釈するという点において理学療法士は言語聴覚士に勝てないと思います。(勝つ必要もないと思います)
理学療法士は基本動作の獲得・再獲得を目指すというところに専門性を持っていますが、そこに向かうためにも患者さん・利用者さんの言葉を聞いて分析・解釈することは有用だと思います。
これを読んでくださった理学療法士の方、身近に言語聴覚士がいる環境であれば、是非一度言葉の解釈についてディスカッションしてみてください。
きっと何気ない患者さん・利用者さんの一言に、理学療法を行う上でのヒントが隠されていることに気付けると思いますよ。
より深く学びたい方へ
『認知言語学のための14章』
言語・言葉が人間の認知を反映しているとする認知言語学のバイブル的な書籍です。
非常に分厚いですが、項目毎に14章に分かれているので、必要なところから読めると思います。
言語から脳の中を探ろうと考える方は必読です。
おわりに
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