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効果の出ない練習はやめて会話をすべき理由

いつも読んでくださってありがとうございます。

こんなnoteを読まれている療法士のみなさんは、勉強熱心で、クライアントを少しでも良くしたいという熱意を持った方ばかりなのではないでしょうか。

そんな療法士の方であれば、次のような壁にぶつかったことは少なくないのではないでしょうか。

■問題点は明らかで、練習内容も間違ってないはずなのに、なかなか効果が出ない

■リハ場面では改善しているのに、病棟で見かけたときは元通り

■リハ場面では即時効果がみられるのに、翌日(翌週)には元通り

私も何度も何度も経験して悩みました。

勉強して、考えて、クライアントに向き合うけど、効果が出ない。

苦しいですよね。

全ての悩みは解決できないかもしれませんが、一つ確認させてください。

あなたの考えた練習の目的、クライアントと共有できていますか?

練習の目的を療法士とクライアントとの間で共有することは、非常に重要です。

Shared Decision Making(SDM)という考え方については以前の記事でも書きましたが、今回は少し違う視点から『目的の共有』の重要性とその方法を考えたいと思います。

大切なのは、会話をすることです。


私自身の失敗経験

ここで、私自身の過去の例を挙げたいと思います。

脳卒中による左片麻痺を呈し、回復期病棟に入院中の方。

歩行中左遊脚期に左足部のクリアランスが悪く、このため歩行の見守りが外れないという状況。

なんとか左遊脚期のクリアランスを改善したい私は、右下肢へのスムーズな重心移動により左下肢を軽くして遊脚しやすい状況を作りたいと考え、繰り返し練習を行いました。

しかし、なかなか効果が出ません。

困った私は、クライアントに何のための練習だと思っているのか聞いてみました。

「右足に体重を載せる練習でしょ?なんで良い方の足の練習が要るんですか?」

もちろん、左足を振り出す練習だということは説明していました。

説明したけど、伝わっていなかったんですね。

クライアント本人が右足の練習だと思っていれば、左足の動きを学習できるわけがありません。

完全に私の失敗でした。


誰のための練習か

リハビリテーションとは、誰のためのものなのでしょうか。

その練習は、誰のためのものなのでしょうか。

当然、クライアントのためのものですよね。

そう考えると、療法士だけが練習の目的を知っていて、クライアントがその目的を知らないというのは、本末転倒です。

もちろん、みなさんはクライアントに練習の目的も内容もちゃんと説明していると思います。

総合実施計画書も作成して説明していますし。

でも、それで十分なのでしょうか。

必要なのは、クライアント自身がリハビリテーションや練習をどのように捉えているのかを確認するひと手間だと考えます。


何のための練習か

その練習が何のための練習なのか、その目的や意味を療法士とクライアントとの間で共有することは重要です。

この目的や意味というものを共有するために必要な概念として、『フレーム』という概念を紹介したいと思います。

語彙の背景にあるこういった体系的知識を、フレーム意味論のフィルモアはフレームと呼び、(中略)語の意味は単独で存在せず、より大きな知識の一部として規定されるというフレーム(中略)の考え方は、認知言語学の重要な基本理念である。(鍋島弘治朗:メタファーと身体性, P27)

『練習』という単語は非常に多くの意味を含み、その背景にある体系的知識によって異なる意味が理解されます。

野球フレームで理解すると、それはバッティングやピッチングの練習を指すかもしれません。

サッカーフレームで理解すると、シュート練習かもしれません。

歩行フレームであれば、おそらく立脚や遊脚の練習を指すでしょう。

指導者はサッカーフレームで『練習』という単語を用いているのに、指導を受ける側が野球フレームで考えていたらどうなるでしょう?

「自分はバッティングが課題だと考えているのに、なぜボールを蹴る練習をさせるのだろう」ということになるのではないでしょうか。(極端な例ですが)

リハビリテーションの場面では、クライアントがどういった『フレーム』に基づいて会話の内容や単語の意味を理解しているのか、療法士は注意して確認しておく必要があるのではないでしょうか。


どうやって共有するのか

前述の『フレーム』を共有し、共通の背景知識に基づいてコミュニケーションを行うことは重要です。

では、実際の場面で我々療法士はどうすれば良いのでしょうか?

提案したいのは、クライアントのフレームに基づいて練習内容を決定するという方法です。

そのためには、まずはクライアントと十分に会話をしなければなりません。

会話を通して自分とクライアントのフレームが異なることが確認されたら、クライアントのフレームを変えたくなってしまうかもしれません。

しかし私の経験上、相手のフレームを変更することは困難です。

特に注意の操作が苦手になっている脳卒中の方の場合、その傾向は顕著です。

そこで、こちらのフレームをクライアントに押し付けるのではなく、クライアントがどのように捉えているのか、そのフレームに基づいて練習を展開する方法を提案したいと思います。

クライアントは、ご自身の身体に不調や動きづらさを感じています。

身体の不調や動きづらさは非常に意識化されやすく、注意が向きやすい状態です。

まずはどこに不調や動きづらさを感じているのか、何に注意を向けているのかを会話を通して確認し、その課題を解決するための練習を実施すべきであると考えます。

そうすれば、クライアントと療法士との間で練習の目的にズレが生じることはなくなります。

クライアントがまず解決すべきと考えている課題を解決した上で、療法士の考える課題を解決した方が、結果的にスムーズに進む場合は多いと感じています。

この方略に違和感を感じる療法士は多いかもしれません。

そのような方は、改めて誰のための練習かを考えてみていただきたいと思います。

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まとめ

今回は練習(リハ)の効果が出ないときには一旦練習をやめ、会話を通して練習の目的をクライアントと共有することを提案しました。

フレームという療法士にはあまり馴染みがないであろう概念を紹介しましたが、療法士とクライアントの間でフレームが異なれば、言葉や状況の理解に齟齬が生じるという点は理解していただけたのではないでしょうか。

リハビリテーションは誰のためのものか、その練習は誰のためのものか。

常に自問自答しながら、クライアントと向き合う必要があるのではないでしょうか。

クライアントと向き合い、クライアントのための練習を行うのであれば、会話は必要不可欠なものです。

一見遠回りなようですが、クライアントの考えや意識を中心に考えていく方が、練習はスムーズに進みますよ。


さらに深く学びたい方へ(書籍紹介)

フレームという概念が説明されています。


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まじい@マジメな理学療法士・公認心理師
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