足に重心を載せる歩行練習は無意味どころか害になる?
歩行練習において、支持基底面と重心の位置関係というのは非常に重要な要素です。
ところで、「もっと右(左)足に体重載せて!」みたいな声かけを耳にしませんか?
また、これを読んでいるあなたはそんな声かけをしていませんか?
本来の歩行では、足に体重が載るなんて場面はほぼありません。
ということは、上の発言は不自然な歩行をクライアントに教えているということになります。
歩行における重心と支持基底面との関係を再確認し、どのような練習や声かけを行うべきなのか、考えてみたいと思います。
このnoteを読むと、
●重心という言葉の勘違いに気付ける
●歩行における足部と重心との本来の位置関係がわかる
●歩行練習において重心移動をどのように観察し、修正すべきかがわかる
歩行における本来の重心移動
「重心」という言葉は便利です。専門用語でもなく、一般の方、クライアントにも伝わりやすい言葉だという理由があると思います。
まず、「重心」という言葉の勘違いに気付くため、「重心」を「質量中心」と言い換えたいと思います。この二つの語はほぼ同義とされます。
そして、「圧中心」という言葉を導入することで、多くの方が「重心」を勘違いしていることに気付けるのではないでしょうか。
下の図をご覧ください。
模式的に作ったのであまり正確ではありませんが、「圧中心」と「質量中心」の違いは理解していただけるのではないでしょうか。
つまり、「重心=質量中心」は両足の中央部から大きく動かず、左右に大きく移動するのは「圧中心」であるということです。
「質量中心」と「圧中心」を混同するから、冒頭のように「重心をもっと右(左)足に載せて!」のような声かけになってしまうのでしょう。
本来、歩行中の質量中心は左右足部のちょうど中間を揺れ動きます。
これに左右方向への慣性などの力が加わることによって、左右足部に交互に圧がかかることになります。これが「圧中心」であり、「質量中心」とは別物です。
歩行練習で学習すべき重心移動
理学療法士が歩行練習を行うクライアントには、脳卒中片麻痺を患った方や、下肢の骨折後の方が多いと思います。
そのような方では、いわゆる非麻痺側や健側に質量中心が寄っている場合が多いのは事実です。
では、どのようにそのような状態を改善していけば良いのでしょうか。
ここまででご理解いただけたように、質量中心は足の上に載りません。
ということは、『足の上に質量中心を載せる』という練習を行うことは無意味どころか、本来の歩行とは異なる歩行を教えることになってしまいます。
では、何を教えるべきなのか。
それは、正常歩行に近い質量中心の移動です。
では、どうやってそれを教えるのか。
質量中心の前に、支持基底面というものを実感として捉えてもらうことが必要だと考えます。
支持基底面は両足で構成されますが、両足の間の空間も含んだものが支持基底面です。
これもあまり正確ではありませんが、支持基底面とはこういう範囲ですね。
この両足の間の空間を含む支持基底面を把握し、その上で質量中心をコントロールすることが必要です。
まずは理学療法士がこのことを理解していなければ、クライアントに歩行を指導することは難しいでしょう。
重心移動をどうやって教えるか
繰り返しになりますが、まずはクライアントに両足の間の空間を含む支持基底面を把握していただく必要があります。
その方法についてはこちらのnoteで紹介しているので参考にしていただけるかと思います。
支持基底面をある程度理解していただいた上で、より実際の動き、歩行に近い状況での練習を1つ提案したいと思います。
上肢での物的支持が可能な状況(平行棒や手すり)にて、まずは麻痺側もしくは患側の下肢を持ち上げます。
自力で持ち上げるのが困難であれば、介助して行っても良いと思います。
このとき、支持基底面内のどのあたりまで質量中心(「体の中心」などの言い方で)が支持脚に寄ったように感じたかを確認します。
そして大切なのは、①足の真上まで移動していないこと、②支持脚と質量中心との距離によって挙上側が落ちるまでの時間が異なるという2点を確認していただくことです。
これが確認できたら、次は非麻痺側・健側の下肢を挙上します。
そして先ほどと同様の2点について確認していきます。
理学療法士の関わり方として重要なのは、方法を言って伝えるのではなく、クライアント自身の感じている内容を確認する・質問するという点です。
まとめ
今回は、歩行における重心について考えました。
「重心」について勘違いされていた方も、意外と多いのではないでしょうか。
「重心」は「質量中心」のことであり、「圧中心」とは異なります。
この2つを理学療法士が混同していると、クライアントに伝える内容もあやふやなものになってしまいますね。
まずは理学療法士が正しく理解する、そしてそれをクライアントが身体で理解できるように導く。
ご自身の臨床や声かけについて考え直すきっかけになれば幸いです。
もっと学びたい方へ
『ペリー 歩行分析 正常歩行と異常歩行 原著第2版』
歩行といえばこちらの書籍。歩行を考える人は一家に一冊だと思っています。
おわりに
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