精神と身体のつながりを考慮する方法〜認知神経リハビリテーション〜
この記事は、患者さん・利用者さんの認識を知り、より良い理学療法を行おうと追求する理学療法士、およびリハビリテーションに関する職種に向けて書いています。
該当しない方にとってはあまり有益な情報が提供できないと思いますので、他の記事を読んでいただくことをオススメします。
さて、いきなりですが理学療法とは何でしょう。
みなさんご存知と思いますが、以下に法律上の定義を引用しておきます。
この法律で「理学療法」とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マツサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう。
(理学療法士及び作業療法士法 第一章 第二条)
この定義自体に関して様々な意見があると思いますし、時代にそぐわないという気もしますが、今回はそういうお話ではありません。
従来の理学療法では、動作観察や分析から理学療法士が見出した問題点に対して、外から観察可能な運動や外部からの物理的手段を加えることで、その回復を図る、という考え方や方法が主流なのではないかと思います。
つまり、外から見えた現象に対して、外からの介入を行う、というのが主流な理学療法ではないかと考えます。
ここで問題になるのが、クライアント本人の捉えている身体に介入できているのか?という点です。
理学療法士から観察された身体とクライアント本人が捉えている身体とは、一致するのでしょうか?
外から見た身体と本人にとっての身体が一致していないのであれば、外から見える身体にのみ介入したとして、それは本当に回復することが可能なのでしょうか?
今回はこの問題に対する一つの解決策として、認知神経リハビリテーションの考え方を紹介したいと思います。
この記事を読むと、
●認知神経リハビリテーションの考え方が一部理解できる
●外から見える身体と本人の感じる身体との違いを考慮した理学療法が行える
●クライアント本人にとっての身体の回復を目指せる
主観と客観は一致しないという事実
ずっと昔から多くの哲学者が色々なことを考えてきましたが、主観と客観とは本質的に一致しないということが多くの哲学者によって提出された結論です。
臨床という場面でこのことを考えると、理学療法士が観察したクライアントの身体(客観)は、クライアント自身が感じて認識する身体(主観)と一致しえないということです。
これに対する一つの解決策として、『現象学』というものがあります。
現象学については、こちらの記事でも書いているのでご参照ください。
よく考えるのですが、理学療法やその他の様々な療法、治療法などは、誰のためのものなのでしょうか?
おそらく多くの方の意見は、クライアント本人のためのものというものではないでしょうか。
であるならば、クライアント自身の感じている・認識している身体を回復の対象にしなければならないということになります。
クライアントにとっての身体を知る
クライアント自身にとっての身体を回復の対象とするのであれば、まずはクライアントにとっての身体がどうなっているのかを知らなければなりません。
ここで、今回考えたい『認知神経リハビリテーション』の考え方が参考になると思います。
『認知神経リハビリテーション』では、クライアント自身にとっての身体を詳細に評価します。
たとえば、ある関節が動いた際、客観的な動きの大きさ(角度)と主観的な動きの大きさとが一致するのか?ということを確かめたりします。
もしくは、麻痺側と非麻痺側とで比べて、身体(関節)の動き方の認識に差があるのか?ということを確かめたりします。
個人的にはこのスタンスを非常に気に入っているのですが、こういった評価のプロセスを経ることによって、クライアント自身も自分の身体に気付くことができます。
クライアントとセラピストが同時に『クライアントの身体』を知り、共通認識を持つことによって、その後の介入も進めやすくなるからです。
クライアントの身体を回復するということ
極端な話ですが、次の2つのどちらかを選ばなければならない場合、どちらの方が良いと思いますか?
1.客観的な動きは改善したが、本人は良くなったと思えない
2.本人は動きやすくなったと感じるが、客観的な動きは変わらない
時と場合によるかもしれませんが、私個人の考えでは2の方がまだマシだと考えます。
それは前述したように、リハビリテーションや理学療法の実施はクライアントのために行われるものであると考えるからです。
もちろん1と2が両立できるのが一番良いのは間違いないですが。
では、クライアント自身が良くなったと感じられるためにはどうすれば良いのでしょうか?
必要なのは、クライアント自身の身体を回復の対象とすることだと思います。
前述のような方法でクライアント自身の身体を評価し、クライアントとセラピストとの間で共通認識を持ちます。
この共通認識の上に立って何らかの介入を行うのであれば、それはクライアント自身の身体を回復の対象としていると言えるのではないでしょうか。
私自身は『認知神経リハビリテーション』の考え方を中心に臨床を構築する部分があります。
しかし正直、『認知神経リハビリテーション』の方法論を全て用いる必要はないと考えています。
セラピストにとってもクライアントにとっても、合う・合わないがあるからです。
しかし、何度も繰り返すように、クライアントとセラピストとの間でクライアントの身体についての共通認識を持っておくということは、どのような理論の上でも必要なことなのではないかと考えています。
クライアント自身が自分の身体をどのように捉えているかを考慮すること、つまりそれはクライアントの精神を考慮することだと思います。
この精神と、主観的・客観的な両側面からの身体との繋がりを考慮すること、これはクライアントにとっての理学療法を行う上で必要なことではないでしょうか。
まとめ
『認知神経リハビリテーション』の考え方を軸に、精神と身体の繋がり、つまりクライアント自身にとっての身体を考慮することの必要性について書いてきました。
誰もが『認知神経リハビリテーション』の方法論を全て取り入れる必要はないと考えています。
ただ、少なくとも私自身は『認知神経リハビリテーション』における、クライアント自身の身体を回復の対象にするという考え方が気に入っています。
興味を持たれた方がいれば、この考え方の一部だけでも理学療法に取り入れていただければと思います。
より深く学びたい方へ
『リハビリテーション・ルネサンスー心と脳と身体の回復、認知運動療法の挑戦』
認知神経リハビリテーションの基本概念や根本の考え方について書かれています。
認知神経リハビリテーションが認知運動療法と呼ばれていた頃の少し古い書籍ですが、根本的な考え方は変わっていません。
入門書としてはとても参考になるのではないかと思います。