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なぜ理学療法士が言葉について考えるべきなのか

今週一週間、言語について書いてきています。

月曜日にアップした記事の反響がすごく、歴代PV数No.1を更新してしまいました。(それまでは装具の記事でした)

スキもたくさんいただいています。ありがとうございます。

さて、今日はようやく理学療法士らしく、言語が運動に影響を与えるというお話です。

理学療法士のみなさんは、言語が運動に影響を与えそうだというのはなんとなく感じているのではないでしょうか。

臨床上は、「このように動いてください」みたいな声かけが多いでしょうか。

実は、視覚的な言葉(語)の認識が運動に影響を与えるというのを調べる実験が既に行われています。

今回はその論文を紹介しつつ、言語が運動に与える影響を考えてみたいと思います。

この記事を読むと、
●言語が運動に影響を与えることが理解できる
●運動にとって言葉が薬にも毒にもなることがわかる
●臨床上、声かけなどの言語の使い方に注意を払う必要性がわかる


言葉は運動に影響を与える

Gentilucciらは、イタリア語の単語が書かれたオブジェクトに手を伸ばして掴む、という単純な課題を通して、オブジェクトの書かれた形容詞が上肢の運動パラメータを変調することを報告しています。

Gentilucci, Maurizio, et al. "Language and motor control." Experimental Brain Research 133.4 (2000): 468-490.

例えば、「LONTAN(遠い)」と「VICINO(近い)」という形容詞が書かれたオブジェクトに手を伸ばして掴む際、「LONTAN(遠い)」と書かれたオブジェクトの方が「VICINO(近い)」と書かれたオブジェクトに比べて上肢の到達速度が速くなったりしています。

また、「GRANDE(大きい)」と「PICCOLO(小さい)」とが書かれたオブジェクトの場合、「GRANDE(大きい)」と書かれたオブジェクトの方が掴む際(プレシェイピング)の指の開きが大きく、開く速度も速くなるという結果が出ています。

このように、掴む対象に書かれた形容詞の性質によって運動が変調される、つまり言語が運動に(無意識に)影響を与えるのです。


声かけは運動イメージに影響を与える

言葉が運動に影響を与え得るということはわかっていただけたと思います。

次に紹介するのは、言語教示(指示)の内容によって運動イメージおよびその際の脳活動が変化するということを示した論文です。

藤本昌央, et al. "レトリック言語が歩行運動イメージに及ぼす影響." 理学療法科学 24.4 (2009): 493-498.

レトリック言語(メタファー)については先日の記事でも紹介しています。

こちらの論文では、言語教示の中にレトリック言語が含まれるか否かによって、歩行のイメージを行う際の脳活動の違いをfNIRSを用いて調べています。

結果、レトリックを用いた言語教示の方が、運動関連領野をより活性化したそうです。


運動にとって言語は薬にも毒にもなり得る

2本の論文を紹介してきましたが、普段何気なく使っている言語というものが運動に影響を与える可能性は感じていただけたかと思います。

患者さん・利用者さんに「〇〇してください」というように何気なく使う声がけ、その中に含まれる微妙な単語の違いによって、運動が変調する可能性があるのです。

みなさんは、患者さん・利用者さんに運動を要求する際、どのような言葉で指示しているでしょうか。

上肢のリーチ動作を求める際、「スッと伸ばして」と言う場合と「グッと伸ばして」と言う場合では、力の入り方が異なると思います。

「グッと伸ばして」だと、力みや筋収縮にフォーカスしやすい気がしませんか?

歩行中にも、「グッと足挙げて」などと言うと、力を入れて遊脚しようとしてしまい、骨盤の引き上げを助長するかもしれません。

「砂浜を歩くように」と「スケートリンクを歩くように」では、要求される運動は全く異なってくると思います。

理学療法士の一つ一つの声かけが患者さん・利用者さんにとっての薬にも毒にもなり得るというのは、考えすぎなのでしょうか。


まとめ

今回は、言葉がいかに運動に影響を与えるのか、論文を紹介しながら書いてきました。

ちょっとした言葉の使い方によって、運動の仕方に影響を与え得るというのはご理解いただけたでしょうか。

なかなか臨床中の声かけ全てに注意を払うというのは難しいかもしれませんが、ポイントになるような声かけ、「こういう風に動いて!」みたいなタイミングでは、言葉の微妙な選択に注意を払うと、より良い結果に結びつくのではないかと考えています。

今週一週間、様々な視点で言語について書いてきました。

なんで理学療法士が言語のこと書いてんの?と思われた方も多かったかもしれませんが、言語について考えるべきなのは言語聴覚士だけではないと思います。

だって、言葉は毎日使いますよね?

日々の臨床で用いる言語について一度考えてみるきっかけになれれば幸いです。


おわりに

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まじい@マジメな理学療法士・公認心理師
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