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セラピストが無意識にかけている『呪い』とは

いきなりですが、『呪い』って何でしょう。

簡単に調べてみました。

呪い(のろい)とは、人または霊が、物理的手段によらず精神的あるいは霊的な手段で、悪意をもって他の人や社会全般に対し災厄や不幸をもたらせしめようとする行為をいう。(Wikipedia)

こういうものらしいです。

霊的な手段を使えるセラピストは少ないかもしれませんが、精神的な手段の方はどうでしょう。

悪意をもってそんなことをするセラピストはあまりいないと思いますが、無意識に『呪い』をかけてしまっている可能性について考えてみたいと思います。


知らず知らずに呪ってしまう

呪いをかけるとは、どういうことなのでしょう?

ここで論じたい『呪い』というのは、呪文を唱えたり、藁人形に釘を刺したり、そういった大々的に行うような『呪い』のことではありません。

セラピストの仕事をしていると、クライアントに対して助言する機会は多いです。

人工股関節の置換術をされた方に、「こういう風に(屈曲・内転・内旋)したら外れますよ」という指導

脳卒中片麻痺の方の歩行練習で、「踵から着いて歩いてください」という指示

疾患限らず、「浴槽にはこっちの足から入ってくださいね」「階段はこっちの足から昇ってくださいね」「この段差は危険なので、越えないでくださいね」などなど。

セラピストであればあまり違和感のない指導内容だと思うのですが、こういった当たり前に行われる助言・指導が、その後どのように作用してくるかを考えたことがありますか?

こういった何気ない言葉によって、退院後のクライアントが呪いにかけられていることは少なくありません。

そしてその呪いを解くことは簡単ではないのです。


セラピストがかける呪いの例①

セラピストが呪いをかけたクライアントのその後の例をいくつか見てみましょう。

屈曲・内転・内旋によって脱臼の可能性があることを聞いた人工股関節置換術後のクライアント。

自宅復帰後、「外れるのが怖い」と言って、術側の股関節屈曲を極端に避けた生活をされていました。

靴下もソックスエイドを使わないと履けない。

爪も切れない。

セラピストによる他動的な股関節屈曲でさえ怖がって力が入る状態。

脱臼が生じる可能性のある屈曲・内転・内旋を改めて説明し、純粋な屈曲や屈曲・外転・外旋との違いの認識を通して、少しずつ呪いが解けていきました。

股関節の硬さは残っているものの、現在は屈曲・外転・外旋位で靴下をご自分で履けています。


セラピストがかける呪いの例②

ご自宅で洗濯物を干す際、ベランダに出る窓の下に20cmくらいの段差(窓枠の下側?)がある方。

退院前の家屋調査で担当の理学療法士に「この段差は危険なので乗り越えないでください」と言われたとのこと。

真面目なクライアントは退院後、ベランダに出ることを避け、洗濯物は室内干し。

「元々はベランダに干してたんだけど、危ないから出るなって言われて…」とのこと。

当然、洗濯物の乾きは悪く、室内もジメジメしている。

掴まって支えにする場所、カゴに入れた洗濯物を先にベランダに出してから自分がベランダに出ること、健脚から先に出ることなどをお伝えし、問題なく洗濯物をベランダに干すことが可能となりました。


セラピストは発言に責任を持て

このような例は全て、セラピストは良かれと思って言った言葉によって呪いをかけられてしまった例です。

悪意なんて微塵もないでしょう。

しかし、そのような言葉によって『呪い』をかけられてしまった例は、在宅で関わる方には非常に多いです。

病院に勤務しているセラピストは、自分が関わったクライアントがその後どのような生活をしているのか、知る機会は少ないと思います。

再転倒とかすれば別ですが、退院後にまた会うことなんてほとんどないですからね。

だからこそ、セラピストは自身の発言に責任を持つべきだと考えます。

これを言うと、過度の恐怖心や不安感を持たせてしまわないか?

自分の発言の意図は正確に伝わったか?誤った理解がされていないか?

安全のために禁止したことが、退院後の可能性を狭めてしまわないか?

常に自問自答しながら、発言の内容を修正していくことが必要なのではないでしょうか。


クライアントに『呪い』をかけないために

セラピストはクライアントに危険を伝えたり、安全な動作方法を伝えなければなりません。

では、どうやって『呪い』をかけることを防げば良いのでしょうか。

まずは前述のように自分自身の発言内容を常にチェックし修正することが大切だと考えます。

もう一つは、クライアントとよく話すことが大切だと考えています。

元々の生活はどのような生活だったのか、家屋の状況はどうなのか。

セラピストの発言をどのように理解しているのか、指導や助言によって生活の中での動作をどう帰る必要があるとイメージしているのか。

実際の生活環境で練習を行うことができないのが、病院で関わる上での大きなデメリットです。

家屋調査に行けるのも退院直前になってからです。

であるならば、病院にいるうちに可能な限り自宅での生活を明確にイメージすること、生活を考慮した指導や助言を行うことが重要なのではないでしょうか。

セラピストの不用意な発言によって『呪い』をかけられてしまうクライアントが減ることを願います。


より深く学びたい方へ

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まじい@マジメな理学療法士・公認心理師
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