長年の経験と幅広い知識で描く理想の水産業界を実現する(主任研究員 赤澤敦司)
「自分の経験をもって、今後の水産業を背負って立つ若者の力になりたいです。そして日本の水産業界、ひいては社会に貢献したいと思っています。」
そう話すのは、水産業界で25年以上キャリアを積み続け、種苗(稚魚)生産や養殖の知識や技術に長けている赤澤敦司。
社員インタビュー第六弾では、長年の経験をもってリージョナルフィッシュの養殖業を支える赤澤さんに、同社の参画理由や仕事におけるやりがい、今後の展望や目指す未来について聞きました!
※取材当時の内容となるため現在の肩書・業務内容と異なる場合があります。
「初めて自分の手で釣った生の魚を見た感動から、水産の道を歩むように」
―――よろしくお願いします!はじめに、赤澤さんのご経歴を教えてください。
幼いころから生き物が好きでした。捕まえてきたカマキリの卵が家の中で孵化してしまい、部屋中カマキリだらけにして、母親に怒られるような幼少期を過ごしました(笑)
幼稚園生のとき、初めて父親に釣りに連れて行ってもらったことがきっかけで、釣りを始めました。初めて釣った魚はイシガレイで、自分で釣ったイシガレイを見たときにとても綺麗だと感動したのを覚えています。本やテレビではなく実物を見た体験だからこそ自分の中で印象深い原体験となっています。
それからはもっぱら釣りにはまり、特に生きている魚への興味が増していきました。
大学進学時には、身近にきれいな海がある環境で、自分の興味がある魚の勉強をしたいと思い、祖父母の家にも近かった長崎大学水産学部に入学しました。当時は「自分が釣った魚をどのように飼うか」に興味があったので、将来的には水族館などへの就職を考えて入学しましたが、勉強するにつれ、1mm程の卵から大きな魚に育っていく様子がすごく面白く感じて、仔稚魚を扱う種苗生産を研究テーマに選びました。
その後博士課程修了まで長崎大学で過ごしましたが、基本的には、実際に魚が泳ぐ現場から研究テーマ・課題を見つけて研究していたので、対象となる生物側から研究を行っています。このような畑を歩いてきている研究者はあまり多くないのではないかという気がしていますね。
博士課程の途中では、社会人ドクターとして愛知県のいらご研究所でウナギの種苗生産の研究も行いましたね。そして、長崎県の産業振興財団でマハタなどの種苗生産について研究を行ったのちにマルハニチロに入社し、奄美養魚篠川支店でマダイやマグロ、カンパチなどの種苗生産や養殖研究に従事しました。その後、リージョナルフィッシュに参画しています。
「社会にとって有用な魚を作り、水産業界に貢献したい」
―――長年魚類養殖に携わる中で、リージョナルフィッシュを選ばれた理由はなんでしょうか?
自身がやりたいと思っていた、社会に有用な魚を作ることが出来る会社だと思ったからです。
前職であるマルハニチロは、魚の生産のための設備が整っていて、マグロの種苗生産など他ではやっていないことも行える充実した環境でした。ただ同時に、恵まれた環境で生産活動、研究活動を行う中で、日本の水産業界の現状を考えると、単に既存の魚の生産だけでは、水産業界自体残っていけないのではないかと思うようになりました。自分自身のさらなる成長や日本の水産業界に貢献するため、現状に即した形の有用な魚を作ることも必要なのではないかと考えていたところに、ちょうどゲノム編集を使った育種を生業としている企業として、リージョナルフィッシュを知ったんです。
当時のリージョナルフィッシュはゲノム編集技術に精通する研究員は複数いるものの、実際に魚を飼う経験を持つ人が少ないということもあり、自身の経験は強みになるのではないかと思いました。ここでなら自分がやりたいと思っていることを実現し、水産業界に貢献できると強く思ったことが、転職を決意した大きな理由となります。
これまで従事した会社・組織は歴史があり、しっかりとした基盤をもって進めているので、安定性やノウハウに関してとても優れていました。一方、リージョナルフィッシュは、一から基盤を作っていく段階にあり、新しいツールを使っての養殖事業を行っているという点で養殖へのアプローチ方法が全く異なります。リージョナルフィッシュは、社員一人一人が考えて動かせる範囲が本当に広いです。
―――前職とは様々な違いがあると思いますが、中でもリージョナルフィッシュの強みはどんなところだと感じますか?
様々な立場からの意見を出しあえるところではないでしょうか。
現場でずっと働いている私のような人と、育種研究をメインとする岸本(リージョナルフィッシュ・研究開発部長)や荻野(同・無脊椎育種グループリーダー)らの視点が大分違うところは面白いと感じます。
自身のように、養殖や水産分野の研究者たちの見方はかなり似ているのですが、岸本や荻野など育種研究員は、農学や理学など違う分野から来ている方も多く、そういった方々からは水産がこんな風に見えているのかと、新たな発見をすることがたくさんあります。自身にとっては常識だと思うことも、他の研究員からしたら常識じゃないんだと感じることもありますし、他の方々からは自分がやっていることが常識破りだと思われていることもあるんじゃないかと思います。そのギャップが、面白くもありときにジレンマになることもあるのですが、水産や養殖とは全く違う観点からの意見も取り入れて、お互いに積み上げていけるようになれば、これまでにはない形で発展させることができるのではないかと思います。
「養殖を行う現場ならではの目線で、リージョナルフィッシュの研究を活性化」
―――現在、リージョナルフィッシュで赤澤さんはどんな仕事をされているのですか?
魚の生産体制の構築に尽力しています。
現在は、魚の生産施設がまだ100%完璧な状態にはなりきれていない状況なので、魚を効率的に飼うための設備を整えることが主な仕事です。
養殖や種苗生産の現場では、既に設備が揃っているところが多いので、新設に携わることができる機会はめったにないのですが、リージョナルフィッシュでは本当にゼロから作っているので、自らが作り上げていることを実感できます。とてもいい経験をさせてもらっているなと思いつつ、やはり結果は一刻も早く目に見える形で出さなくてはいけない状況です。求められるペースに合わせていくために出来るところからどんどん組み上げていく必要があります。どれだけスピードを上げられるかが目下の課題です。
養殖する場所が異なれば必要となる飼育設備は異なりますし、同じ魚種でも飼育設備に合わせた飼育方法を構築する必要があります。そのため、養殖場ごと・水槽ごとに試行錯誤しながら、最適な環境づくりに常に励んでいます。
―――実際に魚を飼っている養殖員だからこそわかる、現場の課題について教えてください。
やはり魚は、水と水槽があれば飼える訳ではないということですかね。実際にどんな作業があって、どれくらいの面積が必要で、どれくらいの水位を保つのかという基本的なところはもちろんですが、飼育に使う水の取水や排水の処理に関しては現場だからこそ目につくポイントなのかなと思います。育種研究者も魚に餌をやったり取り上げたりすることはあっても、その後の排水などに関わる機会はないと思います。だからこそ、実際に現場で何が起っていて、何を必要としているのかを現場から積極的に育種研究員側に伝えていくようにしています。
「水産業の面白さをもっと多くの人に知ってもらい、業界全体の活力を上げていきたい」
―――養殖現場と育種研究の連携が重要なのですね。今後リージョナルフィッシュでやりたいことはなんですか?
まずは、フグやマダイのような目玉になる魚種を増やしていきたいです。
最近ではゲノム編集に対する偏見も薄れ、受け入れてくれる方も増えてきていますが、今後もっと市場を広げていくためには、ゲノム編集のメリットを分かりやすく示してくれるような事例が重要だと思います。
例えば、ブリやカンパチは、スーパーや寿司屋などでは欠かせない重要魚種ですが、実際に養殖をすると、細菌感染症や寄生虫症などの影響から、莫大な薬剤費や人的労力がかかります。そのため将来的には、細菌や寄生虫耐性を持つ品種が養殖現場には必要になります。
その供給ができれば、養殖業者側は大幅なコストカットが叶いますし、消費者側は無投薬の安全な魚を今より安く買えるようになり、誰もが得する環境を提供できます。
このような形でゲノム編集のメリットを伝えることができれば、今以上にゲノム編集が受け入れられやすい環境になるはずです。また、それに並行してゲノム編集魚の安全性を発信し、より多くの方々の理解を得る努力も必要だと思います。
そして、水産業界の人手不足解消にも尽力できたらと思っています。
この業界は若い人が少ないので、私自身が面白さややりがいを感じられる仕事を若い人に回すことで、「水産業の楽しさを知ってもらえるようなマネジメント」もしていきたいです。やはり何においても人の力はどうしても必要になってくるので、自分の仕事や研究で結果を出すことよりも、多くの人に水産の面白さ、魚を飼う面白さを知ってもらう方が大切なのではないかと思っています。やりがいのある職場をつくることが重要ですね。
人手不足はリージョナルフィッシュに限った話ではなく、日本の水産業界全体の課題です。前職でも養殖の現場に自ら好んで来る人はなかなかいなかったですし、大学で水産を学んでも最終的には全く違う職業を選ぶ人も多くいました。
水産業への従事をより魅力的に感じてもらうためには、水産業は「魚と一緒に自分自身も成長できる面白い仕事」だということを知ってもらうことが重要だと感じます。もちろん養殖分野だけでなく研究や事務の分野でも全然構わないのですが、水産の面白さを分かってもらって、業界全体の活力を上げていきたいという思いがあります。日本の養殖業は世界に置いていかれつつあり、もうギリギリのところにあります。そのためには、会社の利益と若手の育成、この両軸が重要です。
「魚に興味を持つ人が増えていくことで、水産業を気にかける輪が広がれば」
―――そのような取り組みの中で、赤澤さんが目指す水産はどのようなものですか?
多くの人に魚や海、そして水産業に興味を持ってもらえるような状況をつくりたいですね。
私自身は大学時代に始めたダイビングで、魚が住む海には沢山のゴミが落とされていることに気付きました。一方で、海を大切にしようという思いは、海からの恩恵を感じていないと生まれないものだと思います。
スーパーに売っているような魚の切り身を見ても、一般的には魚に興味を持ちにくいかもしれません。ただ、魚を食べることで美味しいなと思い、この魚は海でどうやって生活しているんだろうと興味を持ってくれる人もきっといるとは感じており、そして海を大切にしようと思ってくれる人が増えたら本当に嬉しいですし、こういうところが水産業に興味を持ってもらえるきっかけになるのではないかと思います。
私が長崎大学に在学中、同期や後輩たちに水産学部への志望動機を聞いたところ、「イルカやクジラなどが可愛いから興味を持ちました」という話をよく聞きました。私はそういった動機でも全然構わないと思うんです。海の生物って面白そうな気がするとか、さかなクンがきっかけとか、どんな形でも魚に興味を持つ人が増えていって欲しいと思います。そうすると食育にも繋がるし、やっぱり海ってもっときれいにしないといけないという意識にも繋がって水産にも関心が集まると思うんです。その関心の高まりがいろんな人に広がると嬉しいなと思います
―――養殖をしている中で赤澤さんが楽しいと感じるところはどこでしょうか。
私は、魚を観察したり、触っているときが一番楽しいです。魚たちは「ここが痛い」とか「ちょっと体調が悪い」など言葉は話せませんので、彼らのコンディションを知るには日々の観察が一番重要です。だから若い人たちにも観察を通して、魚と対話することの楽しさを感じてもらうことは一つの手だと思っています。
ただ、魚に触れることが好きでも、生き物を扱うという特性上仕事量が増え、それが辛くなって辞めてしまう人もいるので、そういったところの改善もしていきたいです。労働環境の改善としては、IoT化に力を入れることで、養殖員の拘束時間を減らすような工夫も出来ると思います。このような工夫を重ねていき、一般的な養殖や水産のイメージをリージョナルフィッシュで脱却していきたいですね。
また、今実際に水産業に携わっていてやめようかと悩んでいる人に対しては、「まずは一回うちに来てみて」と言いたいです。同じ業種でも、環境によって合う合わないはあると思います。もちろん、誰かの人生に対して無責任なことは言えないですが、興味があるのであれば「一度話してみようよ」と声をかけたいですね。リージョナルフィッシュは、会社の規模感からしても個人の意見を聞き入れる柔軟性があります。うちは、個人の意見をしっかり持っている人が多く、それを聞く姿勢を持つ人たちも集まっています。もちろん、提案の内容によっては、実現の可能性や着手タイミングなどの議論はあると思いますが、個人の意見を拾い上げる土壌はあると思います。
―――赤澤さんは今後どんな方と働いていきたいですか。
養殖の経験がある方はもちろんですが、経験や技術がなくても、とにかくなんでも興味を持ってくれる方がいいですね。
既に養殖経験を持っている方であれば、その方の知識と自分の知識を組み合わせてやっていけるので、やはりある程度経験のある方は嬉しいです。
一方で、経験は積み重ねるものになりますので、技術や知識は後からいくらでも身に着ける方法があります。だからこそ、技術は無くてもいいので何でも興味を持って学ぼうとしてくれる方だといいなと思います。
そして、結局会社というのは人と人とのコミュニケーションで成り立っている部分が大きいので、それぞれに持っている目標を達成するために協調性をもって働ける方と、一緒に働けたらと思います。