「好き」を仕事に。魚をこよなく愛するリージョナルフィッシュの若きホープが考える水産業界の未来とは(飼育系研究員 大濱光希)
「最初は『魚が好き』という単純な理由で養殖に関する研究をはじめました。しかし、今ではこの仕事は天職だと感じています。」
そう話すのは、近畿大学大学院でゲノム編集鯛の養殖研究に従事したのちにリージョナルフィッシュに参画し、現在は同社の養殖研究をリードする大濱光希。
社員インタビュー第三弾では、若くしてリージョナルフィッシュにおける陸上養殖研究の中枢をなす大濱さんに、同社への入社理由や仕事上でのモットー、水産業界の課題、今後の展望について聞きました!
※取材当時の内容となるため現在の肩書・業務内容と異なる場合があります。
「リージョナルフィッシュの事業内容や企業目標に共感し、入社を決意」
―――よろしくお願いします!はじめに、大濱さんがリージョナルフィッシュに入社されるまでの経緯を教えて下さい。
小さな頃から生き物が好きで、よく近くの公園や雑木林などで虫とりをしているような子供でした。小学生の時親戚のおじさんに連れられて大阪湾や琵琶湖で釣りをしてからは、小中高とずっと釣りが趣味でした。そのため大学進学時には、せっかくなら好きなことを勉強したい!という気持ちから、近畿大学農学部水産学科を選びました。
大学3年生で研究室を選ぶ際に、白浜の水産増殖研究室を選んだのも、実は魚釣り好きが高じてのことでした。研究室を選ぶ見学ツアーで白浜に行ったとき、「研究室の養殖場で魚の養殖研究をして、魚の行動や気持ちを理解できれば、たくさん魚を釣れるのでは!?」と思い、魚好きの自身にとってとても恵まれた環境だと感じたのを覚えています(笑)
そんな理由で家戸先生(現・リージョナルフィッシュ科学技術顧問)の研究室に入り、養殖に携わり始めたのですが、実際に魚を飼ってみると結構大変で、「小さな稚魚から大きな成魚まで育てる」にしても思うようにいかないこともありました。ただ、それすらも楽しく感じたんですよね。
そして実は当時から研究室で魚のゲノム編集に関する研究が行われていました。それが現在の22世紀鯛になるわけなんですが、その時、あの肉厚なマダイが泳いでいるところを見て、その研究背景も含め「すごく面白い!」と思ったんです。それがきっかけで修士課程で「ゲノム編集されたマダイの養殖」を研究テーマにしていました。
そんな中、就職活動の時期を迎えたのですが、最初は水産関係企業や釣り具メーカーなどを受けようと思っていたんです。ただちょうどその時に木下先生(現・リージョナルフィッシュCTO)と梅川(現・リージョナルフィッシュCEO)がリージョナルフィッシュを立ち上げるという話をしていて。
リージョナルフィッシュの企業目標が自身の研究内容と一致していて、ゲノム編集された魚が社会実装されて多くの人に食べてもらいたいという思いから、会社設立のタイミングでリージョナルフィッシュに入社することを決めました。
「自身で手掛けた魚を食べた人に喜んでもらえるのが、何よりのやりがい」
―――大学時代の研究が現在の仕事に直結しているのですね。
現在、リージョナルフィッシュで大濱さんはどのようなことをされているのですか?
大きく分けると、養殖場の生産管理・マネジメントと、養殖研究になります。
いま私は京都府宮津市にあるリージョナルフィッシュの自社陸上養殖場で勤務しているのですが、そこで22世紀鯛や22世紀ふぐの一連の生産、つまり「魚種別の生産計画を立てて、卵が孵化してから成魚になるまで育て、最後に出荷するところまで」を担当しています。
加えて、宮津養殖場の窓口として養殖場管理業務のマネジメントも担っています。最近はパート職員含めて養殖員人員が増えていて管理内容は増えており、業務の幅は確実に広がっています。
また、マダイやフグだけではない他の魚種の養殖研究も行っています。これらの魚種についてはまだ商用規模の生産には達していない状態なので、日々データと向き合い、「どうやったらたくさんの魚を育てることができるのか」を試行錯誤している状況です。
日々やらなくてはいけないことは多く忙しいですが、自身で手掛けた魚が、社会に出て、多くの人に「美味しい!」と言ってもらえることが、この仕事の大きなやりがいですね。「まだこの世に存在しない品種や新魚種を作り出し、育てて皆様に提供できる」ことに日々楽しみを感じています。
―――養殖場全体のマネジメントから養殖研究まで幅広く手掛けているんですね!大濱さんはリージョナルフィッシュ初の陸上養殖場立ち上げに関わっていますが、その際はどのようなことを行ったのでしょうか。
「『水槽があるだけの状態』から『そこで魚が飼える状態』にするために必要なこと」を全て一人で行いました。水槽洗浄も一人でやったのですが、当時真夏でとても暑かったのを覚えています(笑)
具体的には、陸上養殖を始めるに当たって、まずは別の施設から魚を運んでくることが必要なのですが、魚の運搬方法や水槽への移し方を考えました。その後の飼育においては、水や酸素の供給方法、飼育環境の調整や飼料の調達などの検討を行いました。
これらの作業にはマニュアルがあるわけではないので、大学時代の経験を活かして取り組みました。
また、魚を飼うにはたくさんの水が必要になるのですが、付近の採水場とのやりとりの関係で使える水に限りがあったため、少量の水で運用しなくてはいけませんでした。そのため、水槽一つあたりの水量を設定して、水質が悪化しないように掃除の頻度を高くしたり、餌の量を調整したりすることで対応しました。
「いかに楽しく取り組むか。気負わず常に100%で向き合う」
―――立ち上げ作業をほとんど一人で行われていたのはすごいですね!
まだ若手でありながら、ここまで重要な仕事を一任されることに対してプレッシャーを感じることはないのでしょうか。
責任が重くて辛いと感じたことはないですね。
私が任される仕事は、「大濱にならできる」と思って任せてもらえているものだと思っています。無理難題を言われているわけではないはずなので、今自分が出せる全力で挑んで、任せてもらった分をきちんと応えていきたいと考えています。120%ずっと出すことを考えるとしんどくなってしまうので、100%で頑張ろうという意気込みですね。
もちろん、100%の力で取り組むにしてもすべてを自身でこなす必要はなく、チームで取り組むことができればより大きな成果をあげられる可能性が高まります。自分だけではできないことでも、誰かに相談すればできることもあるでしょうし、色々な人の力を借りつつ、どうやったらできるのかと、出来る方法を模索しています。
また個人的には、リージョナルフィッシュでの仕事を「会社から強制されてこなす仕事」とは思っていません。
嫌々やっても続かないと思うので、「楽しく全力で」をモットーに、大変な仕事やノルマがあってもそれをいかに楽しめるかを考えています。
実は、自身と同じ水産学科の同級生でも魚の養殖を仕事にするのは極わずかなんです。多くの人は食品メーカーや餌会社など、「生きた魚とは少し離れた業界」に進みます。そう考えると自身が学生時代から取り組んできたものがそのまま仕事になるのは、結構ラッキーなんじゃないかと思っています。
大学入学は、「魚が好き、釣りが好き」という、あまり意識が高い動機ではありませんでしたが、今考えると「養殖をするべくして近畿大学水産学科に入ったんじゃないか」という気もしています(笑)
―――養殖を楽しんでされていることがとても伝わってきました!それだけ養殖を愛する大濱さんが考える、現在の水産業界が抱える課題はなんでしょうか?
水産業に就く人員の不足が挙げられます。
先ほど触れたように私と同じように水産学部で学んでも、実際に養殖を仕事にする人は恐らく100人の内1人か2人くらいです。私が一人で養殖を続けるのも限界がありますし、人材育成に力を注いだとしても、やはり一人で目をかけられる範囲は限られてしまいます。現状のままだと、水産業界は破綻してしまうと思うので、もっと多くの人が関われるような工夫をしていけたらと思っています。
研究自体は一人でできたとしても、大量の魚を飼って育てることは一人ではできないので、誰もが同じレベルで養殖をすることができるような仕組みを作る必要があります。人が少ないからできない、で終わらせてしまうのではなく、人が少ないところをカバーする方法を考えることが重要です。
養殖という技術自体、歴史が浅いので、養殖の知見は広がっている状態ではありません。養殖技術面は個人に依存している部分が大きく、その人がいなくなってしまうとできなくなることもあるので、機械技術やAI/IoTのような従来とは異なる分野の技術を活用して、「新しく水産業に従事する人が働きやすい仕組み」や、「そもそも人が少なくとも安定的に魚の生産ができる仕組み」が必要になります。
「大学と大企業の中間に位置するリージョナルフィッシュだからこそ、水産業界の課題解決が可能」
―――水産業従事者の人不足を身に染みて感じているのですね。大濱さんご自身は、リージョナルフィッシュで、今後どのようなことに取り組んでいこうと考えていますか。
今お話ししたような「人不足を中心とした水産業界の課題解決」に取り組んでいきたいと思っています。人に頼りすぎることなく養殖を継続していくためには、機械技術の導入やAIへの置き換えなどが必要になりますが、その実証実験には、「実際の養殖現場での生産規模」での研究が大切。それをできるのがリージョナルフィッシュだと思います。
リージョナルフィッシュは、大学とも大企業とも違い、その中間に位置しています。大学レベルの研究を行いながら、実際に実証実験を行い、速いスピードで社会実装に繋げられるところが強みです。
このような養殖規模の実証実験に自動給餌器や水質センサーなどのIoTを取り入れることで、最終的には「自動で大量に水産物を生産できる養殖場をつくる」ことが理想です。
その実現に向けてはまだまだ自身の経験も浅いと感じるので、さらに勉強して「養殖に関する知見を広げること」が必要だと思っています。また、マダイやフグに限らず、もっとたくさんの魚種を生産できるようになりたいですね。
―――水産業界が抱える課題の根本的な解決にも取り組もうとされているのですね!大濱さんは今後どんな方と一緒に働きたいですか?
特に養殖メンバーであれば、生き物が好きで、好奇心旺盛な方がいいですね!何か一つでも深く興味を持つことができたり、探求心があったりすると嬉しいです。
ある物事に対して、疑問を持って、「なんでこうなるんだろう」と考えていけることは魚の養殖を成功させるためにはとても大切な素質だと思っています。そうすると、仮に失敗したとしても、どうしたら成功できるのかを考えて、その失敗を次に活かすことができます。そんな方と一緒に楽しんで働くことができたらいいなと思っています!
ーーー大濱さんの前向きで明るい人柄がうかがえる素敵なインタビューとなりました!本日はありがとうございました。