庭から水が湧きだしたら・・
栃木県足利市のN様から庭の依頼がありました。
一度弊社に打ち合わせにきていただいたところ、植栽箇所も数箇所で比較的コンパクトな庭でしたので、現場を一度も見に行くことなく工事に入りました。
4月16日、ユニック車に500kgのミニユンボとコナラやアラカシ、モミジ、アオハダなどの雑木類を積み込み、現場に到着。
まずは、デッキの前に木陰をつくるための植栽を行います。
ミニユンボで穴を掘ってみると、とても土が固い。
土壌というより、砂利が随分と多い。
固い土だなぁ、ユンボを持ってきて良かった!
なんて思っていると、
水が湧いてくるのが見えました。
さらに時間を置くと、なんと水たまりが出現!
これだけすぐに水が溜まるとは思いませんでしたが、
そういえば、お施主さんも、「土が固く、水が溜まってしまう」
という写真を送ってもらっていたことを、今更思い出しました・・・
延期に次ぐ延期で
今回の工事は、落葉樹の新芽が開き始める時でした。
実は、着工予定日の3月26日が雨で延期、
さらに次の4月9日も雨で延期。
弊社は小雨程度なら工事を行いますが、結構な強い雨でしたので2回も延期を経て、4月16日にようやく着工しました。
雑木類など落葉樹は12月から3月までの落葉期は移植の適期であり、移動も楽。
ただし、4月に入り新芽が出て葉が開いてしまうと新芽が固まる梅雨時期までは移植や移動・運搬は葉が傷みやすく容易ではなくなります。
植栽予定の樹木も事前に準備していたため、延期になると木々が心配でなりません💦
今年は新芽の展開が遅く、4月16日の工事日はちょうどコナラの新芽が開きだした時期でしたが、
「何とか今日間に合えば・・」
と、僕としては植栽の事ばかり気にして、
土壌の事は「何とかなるだろう」
と、あまり気にしてはいませんでした・・・
そんなことを考えていると、水たまりがパワーアップして、池のように!!
これでは、とても植栽をする感じではなくなりました。
ここは冷静になり、「どこから水が湧いているのか?」
よく観察してみます。
すると、敷地奥、隣地との境界沿いのコンクリートブロックの下から水が湧きだしていることが判明しました。
それならと、コンクリートブロック沿い、敷地の角地にも穴を掘ってみると、予想通り水が湧いてきました。
N邸の立地は、北側に山があり、南側が平地になり、その傾斜地の中腹に家が建っています。
おそらく、山から川までの水脈が、建物やコンクリートブロックなど人工的な構造物で停滞していたのでしょう。
N邸と隣地との境界に穴を掘ることで、ブロック塀の箇所で停滞していた水が動き、膿が出るように水が湧きだしたのだと思われます。
ただ、これは悪いことではなく停滞した水が動くということは、山側のお宅にとっては、庭の水はけは良くなるし、樹木の生育にも良い影響がでてきます。
ただし、この状況をどうするのか・・・
とりあえず、このまま植栽をするわけにはいかず、運搬した樹木は仮植えをして、この日の作業は終了。
実際にこの水がどれだけ湧いてくるのか?
地面に浸透してしまうのか?
数日置くと水位はどうなるのか?
など、いくつかの疑問がある中で、1週間後に再度工事に伺う事にしました。
庭に溜まった水をどうするか?
4日後、お客さんから写真を送っていただきました。
水量は増えているようです。
もうすでにデッキ前の小さな池!
天候により水位は上下しているようですが、これで安定している感じです。
そして、1週間後。
この水をどうするのか?
現場にて湧き水と向き合います。
敷地内は道路に面した部分が下流側になるので、この溜まった水を流してはどうかと思い、駐車場の横に溝を掘りました。
水が湧きだした山側から、道路側まで水脈を繋げることに。
そして、デッキ前に溜まった水を流しました!
https://www.facebook.com/daisuke.oshida.3/videos/1219540969422280/
流れる水
泥こしとしてわらを置き、敷地の低い方へ水は流れ、最後の
穴あけ部分にて浸透しつつ、流れていきました💦
さて、駐車場の横にこんな大きな溝を掘りましたが、このままでは生活動線に支障がでるということで、玉石を敷き詰め歩けるように。
そんな事をしているうちに、この日の作業は終了。
デッキ横の水の水量は減りました。
玉石を通じて、道路際の下流部へ少しずつ動いているようです。
ただ、これがどうなるか?
水量は増えるのか、減るのか?
そもそも、木を植えられるのか?
またまた時間を置いて様子を見る事にしました。
ようやく植栽へ
そして、9日後、3回目の工事。
水量は減らず、安定している様子。
一定の量の水の湧き出しがあるようです。
植栽もまだ仮植えのまま。
もうこうなったら、この水を生かすしかありません。
植栽をしながら、同様の玉石を使い、この流れの土留めをすることに。
少しずつ木を植えながら、玉石を積み上げて、土留めをつくる。
植え穴を掘りすぎると水が湧くので、ほどほどに・・
この庭のメインとなる、コナラの株立ち、高さ5m。
自社でドングリから育てたコナラ、ようやく植栽です!
流れを玉石を積んで土留めをして、両側に植栽。
そして蛇行する、流れが出現しました!
5月2日の作業。
そして、またまた数日間様子をみます。
そして5日後、水位も安定している様子を確認して、
低木や下草を追加し、各所に植栽も行いました。
その後、お客さんの方でメダカを入れたり、水草を入れたり。
さらに1か月ほど様子を見ました。
水位は安定
そして約1か月後の6月11日。
ブロック塀に囲まれた角地の池も水が澄んできれい!
メダカも元気に泳いでいます。
デッキ前の流れも水位は安定。
水もきれい。
今回の工事は、流れの水位や様子を見るために時間をかけらながら、経過観察をしました。
ただ、これは湧き水だけでなく、木々の生育もとても気になるところ。
水が停滞する場所では、木々はうまく育ちません。
水分が多い土地でも、水が停滞することなく動いているかが大事なポイント。
逆に植物の状態が良ければ、水と空気が動いているという事。
何度となく、お客さんにもメールで写真を送っていただきました。
いよいよ完成へ!
そして、7月2日、6回目の作業日。
デッキ前の流れの状態を確認して、植栽地の各所の土留めの仕上げと、芝張りを行います。
この敷地は、水も湧き出しましたが、砂利や石も大量に出てきました。
足利という土地柄か、チャート系の茶色がかった石がたくさん出てきます。
関東の庭師の間では有名な、あの「みかも石」のような良い石材です(今は閉山してしまいましたが)。
これは使わない手はないということで、エントランス付近の植栽地の土留めや、階段などで余すところなく使用しました。
さて、作業は最終段階に入ります。
この日もお施主さんのNさん夫婦は、作業を手伝ってくれました。
そして芝張り作業。
ようやく完成が見えてきました。
植栽地部分には、野菜苗が植えられました。
菜園の土壌は入れ替えることなく、腐葉土などを混ぜ込んであり、時間をかけて土壌を作ります。
そして、動線部分に川砂利を敷いて、いよいよ完成です。
部屋の中から前庭方向。
こちらは最初にお客さんから送られてきた写真、施工前。
施工後
デッキに出れば、緑あふれる景色!
木を植えると本当に変わる。
いつもながら、植栽の力はすごいなぁと思います。
そして、デッキから下を見下ろすと、敷地内から湧き出た水の流れが!
さらに、庭の奥に自転車を置くということで、
流れを渡る橋を設置。
道路からの庭、デッキ方向。
道路からの視線をソヨゴ、常緑ヤマボウシ、アオキなど常緑樹中心の植栽で防ぎつつ、各所落葉樹を配置し、明るい庭に。
奥のブロック塀付近から水が湧き、手前に流れていきます。
ようやく完成した、デッキ前の流れ。
しっとりとして、落ち着いた感じ。
メダカも元気に泳いでいます。
メダカは野鳥の餌になりそうですが、玉石の隙間があるので隠れているようです。
もちろん、目地や下地にコンクリートは使っていません。
植物の色も良い。
この流れができてからシオカラトンボが来るようになりました。
他にもカエルも住み着いたとのこと。
水場があると、付近の生き物が寄ってきます。
ホテイソウのおかげで、赤ちゃんのメダカがたくさん生まれたようです。
結果的に、庭にビオトープができました。
ということで、庭から水や石がたくさん出てきて、最初はどうしよう?
と思いましたが、当初の想像を超える庭が出来上がることになりました。
最近の住宅事情は、土中の水の停滞は付き物といっていいでしょう。
特に山を抱える傾斜地は、地下の水脈が活発に動きたいところ。
もともとあった小川や土の側溝など水の道を塞いでしまえば、水は行き場を失い、地下で停滞することになり液状化します。
家の湿気がひどいとか、ドクダミが多いなどは、そのサインを与えてくれているといっていいでしょう。
それが大雨など、飽和状態になった時に「土砂崩壊」といった災害となって現れる。
自然が自らの力で停滞する水を解放しようとします。
それはバランスを取ろうとする自浄作用のようなもの。
大雨はそのきっかけにすぎません。
先日の松山を始め、今年もどれだけの災害が起こってしまうのか。
原因を作っているのは人間だけ、
目に見えない土の中の世界に思いを巡らせていきたいものです。