「働くみんなの必修講義 転職学」を読んで
立教大学経営学部教授の中原淳氏とパーソル研究所の共著。
転職における通説となっているマッチング思考(自分の特性や価値観にあった職を見つける)には限界があると主張し、ラーニング思考を薦めている。
ラーニング思考の意味するところは最後に取っておくとして、まずは本書で印象的だった部分に触れておきたい。
そもそも転職のどこに問題を感じているか?
筆者によれば、不適切な転職活動の進め方が横行しているという。
彼らはまず、転職しないとまずいのでは等と「感情」を煽られ(Affection)、焦って「行動」を起こし(Behavior)、そして転職した後になってこんなはずじゃなかった、しまったと後悔する自分に「気づく」(Cognition)。 =転職のABCモデル
そんなアンハッピーな転職ではなく、ハッピーな転職を一人ひとりが実現するために、1万2000人の調査データやこれまでの先行研究等の科学的エビデンスに基づく転職学を構想するに至ったという。
私は転職した経験はないが、これは学生から社会人になる際の就職活動でも共通するものがあると感じる。
膨大な企業や職種がある中で、自分にとってベストはどこかを探し出すのは容易ではない(筆者によればほぼ非現実的で、完璧な就職・転職はない)。
そんな中「どこかに就職しなければ」「大企業に入れば安心だ」「とにかく就活対策しよう」等と様々な情報にのまれて、いざ入社したあとに後悔する、なんてことは珍しくないように思う。
転職のメカニズム
転職活動は、次のようなメカニズムで説明できる。
現職への不満 × 雇用能力 > 転職への抵抗感
(Dissatisfaction) (Employability) (Resistance)
・現職での不満が解決しそうにないと感じた時、人は転職(または離職)を考える。
・雇用能力は、いかに自分のことを理解し、それを転職活動で言語化かできるかどうかにかかってくる。
主に「セルフアウェアネス」と「日々の仕事における学び・経験」 で構成される。
セルフアウェアネスは、
内面的自己認識(自身の価値観、興味、出来ること等)と外面的自己認識(他者からみた評価、スキル等)とを重ね合わせ、ズレを補正していくことで高められる。
(ジョハリの窓を広げるイメージが近いか)
日々の仕事における学び・経験は、
組織内外の人との対話の中で、積極的に自分のやってきたこと・できること・これからしたいことを自己開示していき、企業特殊的な知識(方言)を汎用的な知識(標準語)に変容・昇華するプロセスと考えられる。
・転職への抵抗感は、
社会的な理由(世間の評価等に影響をうける)と
個人的な理由(これまで現職で苦労して手に入れた経験や人間関係資産を手放したくない等)によって生まれる。
以上の各要素のウェイトが変わることで、
転職するか否か意思決定がなされるという。
ただし、D(不満)やR(抵抗感)に焦点をあてた転職は必ずしもうまくいかないとも警告している。
特に理解したり高めていく必要があるのはE(雇用能力)であり、そのためには「ラーニング思考」で考える姿勢が必要になってくる。
「ラーニング思考」とは
ラーニング思考に関する筆者の主張を要約すると、
①未来に向けて変わり続け、
②時には過去の学びを捨て去り、
③他者との対話を通じて
自身の内省を深め、ひいてはキャリアを高めていくこと と定義できる。
その根底には、
人はいつまでも学びを通して成長し続ける存在である、という思想があるように見受けられる。
これは、私個人としてもおおいに共感する部分である。
転職をするかしないかはさして重要ではなく、
いざ転職をしようとなった際に自分の今の状態を点検するとき、本書からは多くの示唆を得られるに違いない。
(ラーニング思考で考えられているか?ABCモデルのやつに焦って行動してないか?等)
働くみんなの必修講義とは言い得て妙である(納得)。