ここ数年でDEI原則(Diversity, Equity Inclusion)というアプローチが米国の助成財団を中心に進んでいる。費用対効果の高い支援を目的とするのはもちろんなのだが、支援が新たな排除を生んではいないか?という問い掛けが投げかけられているのだ。
例えば、2013年の米国でエスニック・マイノリティを対象にした助成額が7%に過ぎなかったことに対し、米国の人口構成に占めるエスニック・マイノリティの総計は40%に達していたという(D5 Coalition,2016)。日本でも、助成の対象とな受益者の年齢や性別、国籍など基礎データを洗い出したらどんな傾向が出るだろうか?おそらく、性別や国籍の偏りは人口構成に比べてかなりの偏りが出ているはずだと思う。
コロナウイルスの対応で色んな緊急支援が立ち上がっているからこそ改めて心掛けたい。コロナの対応に気を取られて、偏見や格差を再生産していないだろうか?
支援側こそ取れるリスクを取れ
このノートは、米国のArabella Advisorsが執筆した「助成活動における見えざる偏見」(Eliminating Implicit Bias in Grantmaking Practice) という記事の一部を翻訳し、また、それをどう我々の財団の助成活動に取り入れようとしているかの記録だ。
例えば、当事者に向き合っている組織自身がリソース不足に陥いってしまうことは少なくない。それに対して、経理や財務の能力の開発自体を支援してはどうか?という提案がされている。面白いのは、この提案自体が助成をする側が助成をされる側の団体に対する深い理解を育むプロセスになりえるという指摘が付記されている点だろうか。
実際、これまでの我々の財団の助成活動では2~3割の団体が月次の会計管理に難がある団体だった。月次の会計管理ができないと、粗利や費用がコントロールできないため、慢性的な資金不足に陥る可能性が高い。もちろん、融資を受けることもできない。さらには、資金提供者からの信頼性が向上していないかないという悪循環に入りかねない。日本の助成財団がこういう一見、面倒な支援をやるかは別として、費用対効果は極めて高かった。
コストを当事者に押し付けるな
次ははアメリカらしい提案だが、公正性を達成するために小規模団体やターゲットする受益者の層に合わせて、提案書を書くための初期費用を助成側が負担してはどうか?と提案する。
これも費用の割に地味に効果が高い分野だ。我々の財団でも伸びしろの多い分野や申請書の作成のノウハウがまだ身についていない団体にアドバイスをしたり、他の財団の担当者を紹介することがあるけれど、資金提供者へのアクセスの仕方を知らない団体にもかかわらず、成長が著しい団体は少なくない。逆に、資金需要がない団体に対して、過度な資金提供が行われることはめずらしくないので、そういった状況を逆転させるにはこういう超小型助成というのは有効かもしれない。
多様性・公正性・包摂性の実現には時間も金もかかる
さて、休眠預金等活用事業の採択を受ける際に改めて助成戦略って何だったっけ?ということで、記事や論文を復習として読み直していたのだけれど、この数か月で自分たちがどれだけDEI原則が実現できたか?というと疑問が残る。
マイノリティ支援など分野自体が小さい場合、相対的に実績のある団体が少なく、そこを掘り起こすには時間がかかるし、あえてそこをやるのだという意志決定が重要だ。意思決定はしていたのだが、残念ながら、休眠預金等活用事業の第一期では採択のスピードを優先したので、多様性や公正性、包括性の実現は二期への積み残し課題となった。
一方で、単なる公募では多様性も公正性も実現なんてあり得るわけはないということは身に染みてわかった。例えば、外国人就労の支援のプレイヤーも探したけれど、若い団体や小さい団体が多く、申請にあたっての十分なケアはできなかった。おそらく、多様性や公正性を実現するというプロセスは、自分たちがなにもできていないのかということを確認するプロセスなのだと思う。結局は多様性や公正性なんて、そこにリソースをつぎ込むのだという意志決定なくしてありえないのだ。
ところで、とる信金マンが言っていたが、在日外国人の事業者は真面目で金をきちんと返すのだそうだ。本当に熱心に働くからこそ、信金も資金を提供したいのだと熱い語りを覚えている。そういう熱意のある穴場はまだまだ日本に眠っているのだと思う。
最後にD5 Coalition,2016のDEIの定義を紹介しておく。多様性や公正性、包摂性のような言葉がバズワードになりがちだが、ここまで書ききってくれるとようやく自分たちに何が足りないのかが分かるようになる。
2020.9.15
書き手・加藤徹生