イギリスで読む「夏目漱石」
読書の秋、と言うには少々遅いのかもしれませんが、最近久しぶりに日本から持ってきた本を読んでいます。
夏目漱石の「文鳥・夢十夜」
私が日本からイギリスへ持ってきた唯一の小説です。
本当はもっといろいろな本を持ってきたかったのですが、飛行機に乗る際の重量の関係で、泣く泣くあきらめざるを得ませんでした。
でもなぜあえてこの本にしたのか。
理由は、夏目漱石がイギリスに留学した際の記憶が、この本に収録されている作品に多く収められているからです。
漱石が生きた時代は、明治時代。
この時代には、飛行機もなかったので、現在ほど日本と国外を行き来するのは簡単ではありません。
ましてや、インターネットやスマートフォンもないので、日本の家族や友人たちとも簡単には連絡がとれません。
そんな時代で一人イギリスで過ごした夏目漱石。
その彼の随想はきっと、私がイギリスに来て困難を感じたときに、きっと支えになるだろう、そう思ってこの本を選びました。
また、単純に夏目漱石の作品が好きだから、という理由もあります。
日本にいた時も、夜寝る前に漱石の本を読んだりしていたのですが、漱石の文章は、なぜか読んでいてとても落ち着くので、ストレス解消にも最適です。
難しい言葉が多く使われているのと、時代背景が大きく異なるのとで、文章に慣れるまでに少し時間はかかりましたが、慣れてしまえば、漱石が描く明治時代の平和な日常にどっぷりと浸ることができます。
ユーモアセンスも秀逸です。
文体が真面目で冷静なのに、書かれている出来事を頭の中で想像してみるとどうしてもクスッと笑ってしまう…。
平和な日常の中に、面白さがある。
これぞ夏目漱石の才能であり、読んでいて落ち着く所以とも言えるでしょう。
さて、冒頭で紹介した「文鳥・夢十夜」について。
この書籍には、タイトルになっている「文鳥」と「夢十夜」をはじめ、計七編の作品が収録されています。
その中の「永日小品」という作品に、イギリスでの漱石の様子が多く描かれています。
中でも私が好きなのが、「永日小品」の中の「霧」という章。
文庫本で約3ページの短い章なのですが、霧に包まれたロンドンの街の様子が、物憂げに、かつ神秘的に描写されています。
異国の大都会の中で孤独を感じながらも、ロンドンの街に魅せらた漱石の胸のうちが見事に表現されているのです。
そして、オチにも漱石のユーモアセンスが光ります。
この本は日本にいるときに一通り読んだのですが、イギリスに来てから改めて読みなおすと、漱石に共感できる部分を見つけられたり、最初に読んだときに気付かなかったユーモアに気付いたり、イギリスに関する描写をより深く読み取ることができたりと、日本で読んだ時とは異なる面白さを感じます。
もちろん「永日小品」以外の収録作品も、漱石の人柄とペットあるあるを巧みに描いた「文鳥」、”こんな夢を見た”というフレーズから始まる十編の不思議な物語「夢十夜」、漱石の”世の中”に対する思いがその学問的背景から綴られている「思い出す事など」など、何度読んでも面白く、深みのあるものばかりです。
(500円以下で長く楽しめるので、コスパも最強)
英語ばかりの環境で、ちょっと疲れたときにこの本を読むとやっぱり落ち着きます。
イギリスに持ってくる本にこの本を選んで正解でした。
ご興味のある方は、是非手に取ってみてください!