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詩人ってどこにいったの?

1、詩人ってなに?

詩人を見なくなって久しい。

昔には詩人と呼ばれる人が確かに目に見える形で多くいた。
中原中也、茨城のり子、谷川俊太郎、吉本隆明

そもそも詩人とは何か?

詩人(しじん)とは、詩を書き、それを発表する者。また、そのことを職業にしている者。後者でも詩作だけで生活している人はほとんどおらず、多くの場合、評論、随筆、翻訳、小説、音楽、絵画、演劇、漫画、歌の作詞など他の分野の創作活動を並行して行っていたり、あるいは(文学と縁遠い)他の職業を持っている。
たとえば高村光太郎は彫刻家としても多数の作品を残しているし、草野心平にはバーや居酒屋の経営をしていた時期がある。
詩人は古くから聴衆を前に自身の詩を朗読するのを常としていたが、その行為を、ポエトリーリーディングという表現形態において現代社会に甦らせた動きが、欧米だけではなく、日本においても1990年代の半ば以降見受けられる。
Wikipediaより参照

どうやら詩人だけでご飯を食べている人は少ないらしい。
芸術家副業的立ち位置なのだろう。
だが、イラストと違って目に見えるものではないため、ことこのインターネット時代においては埋もれやすいのも事実だ。

ひるがえって詩を読むときには一手間(解釈)が必要な上、その解釈に正解は存在しない。
加えて「詩が好き」「詩を読む」などと言ってのけると「ポエマーwww」などのあだ名が付き、いわゆるイタイ人の烙印を押される。

だが、中には、美しい日本語に出会いたい、触れたい、感じたいという人も少なからずいるはずだ。
探せば、若手詩人の中にも選りすぐりの才能がいることだろう。
しかし、中原中也、茨城のり子、谷川俊太郎といった巷に広く知れ渡る詩人がパッと思いつかない。
知られることが目的ではないし、広く知られているからといって必ずしも良いものではないが、上記の詩人たちが生きていた時代、確かに詩を読む読者層がいたはずである。
現代の世において我々は
どこで日本語詩に触れているのだろうか?

少し考えてみたいと思う。

2、故人の詩的世界

まず詩的表現を愛でていた人らが向かう場所の一つは過去の作品。

蘇って演奏のできないロックバンドと異なり
今生きてる作家にとって、全ての死んだ作家がライバルだ。

ここで中原中也を見てみる。

汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる

汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の皮裘(かはごろも)
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる

汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠のうちに死を夢む

汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気づき
汚れつちまつた悲しみに
なすところなく日は暮れる・・・・・
『山羊の歌 より汚れちまつた悲しみに』 中原中也

具体的ながら抽象的だ。どこの国にいてもどこの時代にいても読める普遍性がある。
次が歌に乗せた歌に触れている説。

3、ロックバンドの詩的世界

抜粋するのはキリンジ。

一部抜粋
戸惑いに泣く子供らと 嘲笑う大人と
恋人はサンタクロース
意外と背は低い 悲しげな善意の使者よ
あいつの孤独の深さに 誰も手を伸ばさない
歩行者天国
そこはソリなんて無理
横切ろうとするなんて気は 確かかい?
「赤いオニがきたよ」と 洒落てみるか 遅れてここに来た
その訳さえ言わない
気弱なその真心は 哀れを誘う
永久凍土の底に愛がある
玩具と引き替えに 何を貰う?
My Old Friend、慰みに
真っ赤な柊の実を ひとつどうぞ さあ、どうぞ
(中略)
帝都随一の サウンドシステム
響かせて 摩天楼は夜に香る化粧瓶
千年紀末の雪! 嗚呼、東京の空を飛ぶ 夢を見たよ
君が待つのは 世界の良い子の手紙
君の暖炉の火を 守る人はいない
この永久凍土も 溶ける日がくる
玩具と引き替えに 都市が沈む

『千年紀末に降る雪は』 掘込高樹

欲望に満ち溢れた都市東京を鮮やかに写し出し、それに応じるサンタクロースの悲哀を描き出す。
これをそこそこ明るい曲調に乗せるのだから、切なさは際立つ。

続いてASIAN KUNG-FU GENERATION 

​午後になって太陽が
濡れた頬を乾かして
静かに燃える日々の
頼りない輪郭をなぞった

そこにただ在るだけで
そのままぎゅっと引き寄せて
わけもなく抱き締めて
こと切れるまで

モノクロの葬列を
見送った町外れの
丘からは鈍色に
立ち昇る悲しみが見えたんだ

そばにただ居るだけで
涙がそっと流れ落ちて
祈る前に抱きしめて
朽ち果てるまで
血の味のしない
僕らの魂
手繰り寄せた手が震えていたんだ
『生者のマーチ』 後藤正文

辛い時、
独り帰り道をとぼとぼと歩いてる時、
何か大切なものを失った時のための
鎮魂歌のような趣がある。
聴いてて悲しいのに落ち着く、不思議な歌である。

最後にくるり

僕が何千マイルも歩いたら
手のひらから大事なものがこぼれ落ちた
思い出のうた口ずさむ
つながらない想いを土に返した
土に返した

今なんで曖昧な返事を返したの
何故君はいつでも そんなに輝いてるの
翼が生えた こんなにも
悩ましい僕らも 歩き続ける
歩き続ける

つまらない日々を 小さな躰に
すりつけても 減りはしない
少し淋しくなるだけ

ハローもグッバイも
サンキューも言わなくなって
こんなにもすれ違って
それぞれ歩いてゆく
『ワンダーフォーゲル』岸田繁 

最初、夢を抱いていた若者がその後
様々な想いを妥協し、社会に揉まれていく中でその想いを「土に返していく」そんなもの寂しさを感じるし、仲が良かった小さい頃の友達がふとしたきっかけで離れ離れになり疎遠になってしまった歌にも聞こえる。

4、映画の詩的世界

詩から着想を得た映画としては「夜空は最高密度の青色だ」が広く知られるが、『男はつらいよ』の寅さんの口上もある意味では詩と呼べるかもしれない。

「わたくし、生まれも育ちも東京葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎、人呼んで “フーテンの寅” と発します。 不思議な縁持ちまして、たったひとりの妹のために粉骨砕身、 売(ばい)に励もうと思っております。 西に行きましても東に行きましても、とかく土地のおアニィさんにごやっかいかけがちな若僧でございます。
以後、見苦しき面体、お見知りおかれまして恐惶万端引き立てて、よろしく、お願(たの)み申します。」

角は一流デパート、赤木屋 黒木屋 白木屋さんで、紅白粉(べにおしろい)つけたお姐ちゃんから、ください頂戴で頂きますと、五千が六千、七千、八千、一万円はする品物だが今日はそれだけくださいとは言わない!

いいかい?はい、並んだ数字がまず一つ。もののはじまりが一ならば、国のはじまりが大和の国、島のはじまりが淡路島、泥棒のはじまりが石川五右衛門なら、スケベエのはじまりがこのおじさん!っての。笑っちゃいけないよスケベエってわかるんだから目つき見りゃ、ね?

続いた数字がニだほら、二冊こうやってまけちゃおう。兄さん寄ってらっしゃいは吉原のカブ、仁吉が通る東海道、日光 結構 東照宮、憎まれ小僧ができないように教育資料の一端としておまけしましょうもう一冊。

6、競馬の詩的世界

三冠馬となったディープインパクトの菊花賞

あと100M!アドマイヤジャパン粘る!しかし先頭はディープインパクトだ!
世界のホースマンよ見てくれ!これが日本近代競馬の結晶だ! ディープインパクト~!!
大外から足音も軽やかにディープインパクトと武豊!3冠達成! 勝ち時計は3分4秒6!
実に21年ぶりシンボリルドルフ以来、無敗の3冠馬の誕生であります!

オグリキャップラストラン

「さあ、澄み切った師走の空気を切り裂いて、最後の力比べが始まります
さあオグリ!オグリが上がっていった! そして、その内側にす~っとリアルバースデー!リアルバースデー、さあオグリが行った! 武豊が行った!さあ第4コーナー!内でオサイチ頑張った!
そしてアルダン!アルダン!アルダン先頭か! オグリ先頭に立つか!
第4コーナー回って直線!大歓声です! さあオグリキャップ!先頭に立つか!先頭に立つか!
オグリキャップ先頭に立つか! さあ内で頑張った!オサイチ頑張った! オグリキャップ!
オグリキャップ先頭か! オグリキャップ先頭か! 200を切った!オグリキャップ先頭!
オグリキャップ先頭!オグリキャップ先頭! そして、そして、来た来た!ライアン来た!
ライアン来た!しかし、オグリ先頭!オグリ先頭! ライアン来た!ライアン来た!オグリ先頭!
オグリ1着!オグリ1着!オグリ1着!オグリ1着! 右手を上げた武豊!オグリ1着!オグリ1着!
見事に引退レース、引退の花道を飾りました! スーパーホースです!オグリキャップです!

ディープインパクトラストラン

さあディープインパクトがここで翼を広げるか! ディープが今翼を広げた! 外目を付いて上がってくる!
メイショウサムソンをあっという間に置き去りにした! ディープインパクト先頭!ディープインパクト先頭!
間違いなく飛んだ!間違いなく飛んだ! ディープインパクト先頭だ! ダイワメジャー!
そしてポップロックが飛んできている! 最後の衝撃だ!これが最後の、ディープインパクト~!!

5、僕たちの詩的世界

これまで見てきたように詩は、なくなったのではなく、なくなったように感じるほど、日常に溶け込んでいる

中原中也がいた頃、こうした職業はほとんど存在していないか、広く知られていないものだった。

もし中原中也がバンドを組んだら?とか競馬の実況者だったら?とかあれこれ妄想してしまう。

本質が見えづらい時代だからこそ、良いものを探していきたいものである。


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