良妻
同期のアイツ、今月も営業成績がトップだ。以前は遅刻や居眠り、そしてミスの連発で、上司に叱られっぱなしだったのに。これには絶対秘密があるはず。
オレは思い切って、アイツに聞いてみた。
アイツはお昼ご飯のおにぎりを食べながら、
オレの質問に、顔を赤くしながら、
実はさパートナーが出来たんだよ。
と恥ずかしそうに答えた後、
もう同居してるんだ。彼女のおかげで、
遅刻もなくなったし、夜もしっかり眠れるようになったんだ。おかげで仕事にも集中できるようになれたしな。
と続けた。
なるほど。アイツの大躍進は、彼女のだったのか。そう思うと、オレはこのぐうたら者をここまでにした、アイツの彼女に興味が湧いてきた。そこで、嫌がるアイツに無理を行って、次の休みに家に行く約束を取り付けた。
電車を何回か乗り継ぎ、やっとアイツんちの最寄り駅に到着したのは、オレのうちを出発してから数時間後だった。アイツんちって、そんなに遠かったかな?これだと、会社まででも、結構な距離だ。
住所を頼りに、田舎道を歩いていると、お洒落な戸建の前で、アイツが手を振っているのがみえた。
遠いところまでありがとうな。
いや、こちらこそ無理言ってごめんな。しかし、お前のうち、こんなに遠かった?
入社したころは、会社近くの実家から通ってたんだけど、独立してうちを買って引越したんだよ。いいうちだろ?
そう得意気に話すあいつに、
ところで、自慢の彼女はどこよ?
と、オレが揶揄うように問いかけると、
いや、今はちょっと‥
と、アイツは下を向いて黙ってしまった。
おい!朝だぞ!遅刻するぞ!
いきなり庭の方から、アイツの怒鳴り声がした。そうだ!オレは飲み過ぎて、アイツのうちに泊ったんだった。昨夜、彼女は結局、オレが寝るまで姿を現わさなかった。それどころか、うちの中は誰が見ても男の一人暮らし。女っ気など微塵もなかった。彼女なんて、本当にいるのかな‥?
訝しみながら身支度を整えて庭に出たオレは、驚いてしまった。なんと目の前にカタパルトとグライダーが現れたのだ。そしてもう、アイツはグライダーに乗り込んでいた。グライダーの中からアイツは、
紹介するよ。オレのパートナーだ。これに乗れば、あっという間に会社に到着。朝もゆっくり寝られるから、寝不足もないし快適だよ。
そう言うと、リモコンのスイッチを押した。
バシュー!
スプリングが弾ける音が聞こえて、俺たちを乗せたグライダーは、空高く舞い上がる。こんな通勤も悪くないだろ?とアイツが言った。
(了)