無題 タイトル付けるの苦手なんで、良かったらタイトル考えてください。
大きなお寺の境内。さらにその奥、小さな古いお寺がひっそり建っている。薄暗い本堂の祭壇の前には、お燈明が灯されいて、その周辺だけをじんわりと照らしている。バイトの帰り道、私はいつもこのお寺に立ち寄っていた。
本日、バイトの時給が上がりました。ありがとうございます。
それから、ハジメさんが志望校に合格しますように。
仏様にお祈りをして、燈明の炎を見つめていると、少しだけパッと明るくなった。
私も微力ながら応援するよ。
と、お燈明が言ってくれてるような気がする。
ハジメさんは私の彼氏。彼とは彼の受験が終わるまで会わないことにしていた。週に3通送られて来ていた手紙も、今は受験勉強の為にストップしている。
ハジメさん、今どうしてるのかなぁ・・・
そう思いながら、中指の指輪を眺めた。銀の指輪の真ん中に小さな赤い石がついている。この指輪は彼からのプレゼントだ。学生の私達には高価なものだったが、彼は実家の仕事を手伝ったお金で買ってくれたのだった。
きっと、自分で欲しいものがあったんだろうに。
それを我慢してプレゼントしてくれたことを思うと、この指輪がこの世に二つとない、とても大切なものに感じる。
お勉強頑張って。絶対に合格してね。
と、私は指輪に向かって言った。指輪の石がキラッと光った。
大丈夫だよ。必ず合格するよ。と彼が
言ってくれているような気がした。
翌日、今日もバイトの帰り道、いつものお寺に寄る前に、ポケットから指輪を出した。私のバイト先はアクセサリーは禁止なので、仕事中は指輪を外している。仕事が終わり、ロッカールームで、帰り支度の最後に指輪をはめるのだが、今日はまだポケットにしまったままだった。ポケットから指輪を出して指にはめようとしたその時、指輪はポロンと地面に落ち、跳ね返って、ストン。ドブ板の隙間に落ちていってしまった。
あー!
私は大きな声で叫んだ。勿論当たり前だが指輪は戻らず。ドブ板の隙間に駆け寄ってみたが、隙間は細くて中を見ることは出来なかった。隙間をじっと眺めていると、彼がこの指輪を私にプレゼントしてくれた時のことが、まるで映画を観ているかのように思い出された。恥ずかしそうに指輪が入った箱を差し出す彼の顔。そして、
大事にしてね。失くさないでよ。
そう言いながら、ニコッと笑った顔も。
意気消沈しながら、私はいつものお寺に行った。そして仏様に、
今日、大事な指輪を失くしてしまいました。折角のプレゼントなのに。
と報告をして、
それから、ハジメさんが志望校に合格出来ますように。
とお祈りをした。そしていつものように、お燈明をジッと見つめた。ゆらゆら揺れてる炎を見ていると、指輪が転がっていくシーンが思い出されてジワっと
涙が出てきた。今は会えないでいる彼。その彼を指輪と重ねていた。そしてその指輪を今日無くしてしまった。
もしかして、もう会えないのかも
思わず声に出して呟いたそのとき
誰に会えなくなっちゃうの?
聞き覚えのある声。
え?ハジメさん?
声の方に振り向くと、彼が
ニコニコ笑いながら立っていた。
今日、お天気いいでしょ?
ちょっとお散歩したくて、何となく
このお寺まで来てみたんだよ。まさか
ここで会えるなんて。
彼のうちからこのお寺までは、二駅くらい離れている。そんな遠くからお散歩で??
ねえ、あっちの方に店があるから、そこでコーヒー飲まない?
そう言うと彼は私の手を引っ張った。
彼に手を引かれて行くとき、私は本堂方を振り返った。祭壇の前にあるお燈明の炎は、静かにゆっくりと揺れていた。
了