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オレンジのキャップ
今年の桜は例年よりも少し遅く、4月に入ってから満開になった。そしてあっという間に散ってゆき、季節はすっかり春のど真ん中である。吹く風に、冬にはなかったぬくもりと、若干の湿気。少し体を動かすと、適度に汗ばむ陽気の日が続いている。
そんな季節の移り変わりに乗じて、いつの間にか自販機のホットドリンクは、少しずつ姿を消した。私の職場の自販機には、ミルクティーとおしること、その他数本のホットドリンクが、一番下の列で肩身が狭そうに置いてけぼりを食らっている。彼らもあと数週間後にはお別れだろう。
私は特段、ホットが好きというわけではない。仕事でミスをして落ち込んでいる時にそっと差し出されて心を救われたという経験がある…訳でもないし、逆にそういう状況で後輩にホットを差し出すようなドラマに出てくるスマートな主人公のようなことも、した事はない。ただ、今年は寒い作業の後の差し入れとしていただいた時には、とても嬉しく心までホットになった思い出がある。
同じ中身が入っていながら、コールドドリンクは白いキャップをつけているのに、ホットはオレンジ色のキャップをつけているユニークさが好きだ。ひょっとしたら今年もどこかで、オレンジ色のキャップをつけたホットドリンクに心を救われた人がいるのではないか。
主に冬にしかいないオレンジキャップのホットドリンク。家でリサイクルのためにためているキャップ入れに、いくつか目立っている。それは、敢えて「ホット」を選んだ回数を表しているみたいだ。そしてその中には、誰かが敢えて「ホット」を選んでくれた回数ともいえるかもしれない。
そんなことを考えていたら、ぬくもりのオレンジキャップが本当に姿を消してしまう前に、もう一度買っておきたいと思った。来年の冬に帰ってくるまでの、さよならの意味を込めて。