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丸亀製麺釜揚げうどんへの恨みを果たすために明日も丸亀製麺へ赴くことに決めた僕のマルガマイズな二日間の話

久しぶりに行った『丸亀製麺』。『丸亀製麺』は「神うどん販売ショップ」である。なぜなら、ねぎ入れ放題だからだ。ぼくはねぎが好きである。母親の作るあったかいみそ汁の次に好きだ。


1.母親の味噌汁

2.ねぎ

3.ミルキー


の順である。ほぼすべてのアラサー独身男子はみな、おしなべてこの順序に落ち着くものである。いやもちろん海外までを視野に入れた話はしていない。イギリスのアラサー独身男子はどうせ

1.フィッシュアンドチップス

2.フィッシュ

3.(アンド)チップス


の順であろう。根拠を示せとか、生データ出せとか、どんな調査をしたのか開示しろなんて言うかもしれないさ。でも考えてもごらんよ。そんなのは現地に調査に行かなくても教養があればわかる。そうだろ?


そんなこんなの神うどん販売ショップ改め「神ねぎ食べ放題ショップ」として知られる『丸亀製麵』だが、毎月1日に「釜揚げうどん半額!!」というイベントを開催しているらしく、今月(11月)は1日と2日の二日間開催のようである。つくづくいいお店だねぇ…。


というのを仕事終わりの駅で知った僕は、つま先からではなく心臓のあたりから、何かに引っ張られるようにして『丸神うどんねぎ製麺』へと足を踏み入れた。


『釜揚げうどんの”大”で!』 

仕事ですっかり抜け殻になった僕の魂のこもったひとことが響く。



実は釜揚げうどんを頼むのは初めてだ。周りを見渡すと、まるでテーブルの一部かのように並んだ「桶」「桶」「桶」。


『そうか。釜揚げうどんはあの木桶に入って提供されるのだな。奴さん、粋じゃないの。楽しみってもんだぜぇ、にくいねぇ。』


店内は非常に込み合っている。それも皆が皆「釜揚げうどん」を頼むものだから、意表をついてくる「釜玉うどん」に店員があたふたしたりしている。

前の前のお嬢さんも「釜揚げ」

前のお兄さんも「釜揚げ」

もちろん釜揚げ童貞ぼくも「釜揚げ」

後ろのおじさん界の平均みたいなおじさんに至っては「釜揚げの得盛」なんて言っちゃって、イキがってんじゃないぜ、まったく。


そんな文句を頭に浮かべながら丸亀消費者ベルトコンベアに乗せられた僕は、流れ作業の中で舞茸天なんかを得意げにはしでとり、仕上げに入った。

ふと目線をおろすと…!? ない!! ないぞ!

ぼくのおぼんの上には木桶がない!

見慣れたどんぶりに、ゆで汁と盛られたうどん……




ーーー

『おい、ちょっと待て。俺様の釜揚げだけ、桶さんでのご提供じゃねぇじゃねーかよ!』『なんでいつものどんぶり提供なんだよ!』『俺は釜揚げが半額の喜びより、桶でうどんを食らう楽しみを胸に抱いて並んでたんだぜ?』『冗談じゃねぇ、納得いかねぇ』『舐めるのもいい加減にしろ!』


まだ丸亀の世界に入りたてだろうか、ちょっと気の弱そうな女性店員(会計係)の胸ぐらをつかみ、前後に激しく揺らす。


こちらもにも申し訳なさはあるが、期待を裏切られた恨みはまるで海のように深く果てしない。勝負を仕掛けた以上、こちらからは退けない。それが男の小さなプライドってもんさ。


こちらのあまりの剣幕に、ただ平謝りするしかない店員。


『私だって入りたてなのに。こんなに忙しいシフトだって知ってたらこのタイミングでバイトなんかはじめてないわ。』

そう言いたげな顔である。表情にはこちらへの同情と謝罪の意が表れているが、唯一彼女の目には、決して消えることのないそんな青白い炎が見えた。


ここでひるまないのがアラサー。

『お前じゃ話になんねぇ。ここのあたま出せ。ここでいっちばん偉い奴に、土下座させる。』

どうしてこんなことを言ったのだろう。感情がアンダーコントロールでなくなるのを、偏桃体に住む冷静な僕が感じ取る。



そしてバックヤードから困惑して出てくる店長。

『お客様、どうかいたしましたか…?』


こういう時、ひとは醜い。気の弱そうな声色とやせ細った体を見て僕はさらにつけあがる。


『どうかしたか?って、俺は怒ってんだよ! このおぼんの状況をみても、また一から説明が必要か?あ??』

ぼくのボルテージが上がっていく。心臓は活動量を高め、全身の筋肉に脂肪に皮膚に、末端の末端まで赤い血しぶきがいきわたる。



『どうなんだよ?説明が必要かって聞いてんd……??? あ、あれぇ…?』

そのときだった。ほんの一瞬だったと思う。『一瞬を永遠に感じる』まさにそんな状況で、僕の耳はノイズキャンセリングをはじめ、穴という穴は小さくなり、ふくらはぎの血管だけが激しく膨張収縮を繰り返した。からだは脳の支配から解き放たれ、逃走に向けて、脚へ足へと酸素を送った。

すくむ、ひるむ、震え上がる。


イキがっていたライオンが子シマウマに反撃されるが如く、僕のたてがみは重力に負けた。







なんとその店長、からだは人間だが頭は金の木桶なのだ。

釜揚げうどんに魂を売った、釜揚げ界の釜揚げ。


一切の理解が追い付かない。そしてそのときこう悟ったんだ。

『俺はこの勝負に負ける…。完敗だ…。』



ーーー




…完食。





結局、提供方法がなんであっても、『丸亀製麺』のうどんはうまいのだ。


『ごちそうさまでしたー!』


返却口でそう言って、爽やかに帰るぼくなのであった。




明日の釜揚げうどんに 続く。

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