「リサイクル通信」から「リユース経済新聞」へ。媒体名を変更した背景を瀬川編集長に聞いてみた
リサイクルショップ向けの専門新聞「リサイクル通信」が、今春、その媒体名を「リユース経済新聞」に変更しました。2000年の創刊から24年。このタイミングで媒体名の変更に踏み切った背景には、どのような考えがあるのでしょうか。
今回は「リユース経済新聞」編集長の瀬川淳司さんをお招きし、媒体名を変更した理由と、その背景にあるリユース市場の現状や展望、企業取材を通じて感じているリセールビジネスの課題について、リコマース総研の所長である與田がお話を伺いました。
リユース経済新聞 編集長 瀬川淳司さん
毎月10日と25日に発行する中古・リユースビジネスに関する専門新聞
「リユース経済新聞」専務取締役 編集長。リユース業界を幅広く熟知する。
コロナ禍でリユース市場が伸長、言葉の認知が広がったことが決め手に
與田:2024年4月1日より、「リサイクル通信」から「リユース経済新聞」に媒体名を変更していらっしゃいますが、どのような経緯があったのでしょうか。
瀬川:弊媒体で取り上げている領域は「リユース」ですが、創刊当時は「リサイクル」という言葉の方が一般的でした。しかし「リサイクル」と言うと、資源リサイクルや資源再生のイメージが強く、時間が経つにつれて、取り上げている領域と媒体名とのギャップが生まれてきていました。
そのような中、コロナ禍の2020年後半から、テレビや新聞などのマスメディアで「リユース」について取り上げられる機会が増え、弊媒体で発表している「リユース市場規模」のデータを使いたいという依頼を多くいただきました。当時は「リユース」を「リサイクル」という言葉に変えて報じられることも多くありましたが、最近ではマスメディアでも「リユース」という言葉が一般的になってきています。そこで、消費者の方にも認知が広まったこのタイミングで、媒体名の変更を決めました。
與田:コロナ禍において、なぜマスメディアで「リユース」が取り上げられる機会が増えたのでしょうか。
瀬川:ご存知の通り、コロナ禍では世界的に経済がどうなるのかわからない状態で、どの業界も大きな影響を受けていました。そんな中、景気に左右されにくく、SDGsやサスティナビリティ意識の高まりなどを要因として成長していたのがリユース市場です。コロナ禍で伸びている市場が珍しいことと、物価が上昇する中でより割安な中古品や“売ってお金にする”という情報が、TVの話題としてぴったりでした。こうした報道を通じて、「リユース」という言葉が世間に広く浸透してきたのだと思います。
徐々に広がる一次流通のリユース市場参入
與田:コロナ禍から伸長しているリユース市場ですが、今後はどのようなトレンドが来ると予想されていらっしゃいますか。
瀬川:大手メーカーや小売店がリユースに取り組む事例が、一段と増えてきそうな感触があります。これまで「リユースを始めました」と言うと、PRやブランディングの要素が強く、残念ながら中身が伴っていないケースも多く見受けられました。そのフェーズを越えて、ビジネスとして取り組む企業が増えてくると予想しています。また、海外で増加している「リセール」が日本でも増えてくるのではないかと思います。
與田:家電量販店だとヤマダデンキさん、アパレルだとユニクロさんが、“ビジネスとして”リユースに取り組んでいらっしゃる印象を受けています。特にこの2〜3年で国内でのリユースの取り組みが増えてきていますが、どのような要因があるとお考えでしょうか。
瀬川:海外では早くから一次流通企業がリユースに取り組んでいました。グローバル展開している企業においては、サステナビリティへの対応を海外基準に合わせなければならない事情もありますし、海外の投資家からの評価対象でもあるため、日本でも徐々に広がってきているのだと思います。
「二次流通での評価」が消費者行動を変えていく
與田:リユース市場の拡大は、消費者行動にどのような変化をもたらすでしょうか。
瀬川:消費者は、「新品」「アウトレット」「中古」と、様々な価格レイヤーの選択肢から商品を選べるようになります。例えば、リビング用のテレビは新品を購入し、寝室や子供部屋用には中古で購入するといった買い方ができるでしょう。一方、企業側は中古品を扱うことで来客数の増加に繋げることが可能です。新品だけを販売している場合には、消費者は新商品をチェックするためのシーズン1回の来店で満足してしまいますが、中古品の場合は“掘り出し物を見つけに行く”という要素が含まれるため、来店頻度が高くなると考えられます。
また、「中古」にメーカー認定の中古品が加わることで、今まで中古に抵抗感を持っていた方や、不安を抱えていた方も安心して買えるようになります。状態によって価格帯を分けることで、「状態が悪くても安いものが良い」「高くても安心できるものが良い」など、商品やシーンによって、消費者側が自分の納得できる価格の商品を買う選択肢が広がっているのです。
與田:すでに自動車業界においては、リセールバリューのある車の方が売れる傾向があり、今後このような消費者行動が様々な産業で起きてくると考えられます。メルカリ総研の調査でも「売る想定で買う」という方が多くいらっしゃることがわかっており、今後このような買い方がスタンダードになってくるのではないかと感じています。
瀬川:「リセールバリュー」のほかに、「早く売れる」つまり「現金化しやすい」という軸もあります。二次流通で「需要が多く高く売れるが、売れるまでに時間がかかる」モノか、「すぐに売れて現金化までが早い」モノかという評価軸です。スペックや価格があまり変わらない場合、リセールバリューと現金化のしやすさを踏まえた「二次流通での評価が高い」モノを選ぶ、という購買行動に変わっていくと考えています。
一次流通におけるリセールビジネスの課題
與田:循環型経済を広げていきたいと考えているメルカリとしては、一次流通企業がリセールに取り組む潮流はとてもポジティブに捉えており、共に取り組んでいくことで大きな経済を創れる可能性を感じています。
瀬川:大きな可能性が広がっている一方で、課題もありますね。現時点では、海外で先行している事例が収益につながるモデルになっているのか、はっきりとはわかりません。米国ThreadUp社のレポートでは「収益になっている」との記載はありますが、その「収益」が売上か利益かが不明なのです。海外では支援企業と組んでいるケースも多く、支援企業と利益をシェアするモデルになります。メーカー側が支援企業に対して利益をシェアしているのか、コストとして計上しているのかがクリアになっていないため注視していく必要があるでしょう。
與田:そうですね、一次流通企業がマネタイズできなければリセールの取り組みは広がりません。そのため、メルカリも一緒に考えていかなければならない課題と捉えています。素材調達でコストが跳ね上がっている中、一次流通側が価格を上げていくことも考えられます。そうなると、リセールバリューとコストのバランスをとるのがますます難しくなりますが、何か突破口はあると思いますか。
瀬川:メーカー側が「新品」商品の作り方や収益性を見直し、リセールを組み込んだ事業構造に変えていくことでしょう。しかし、リセールに着手して収益を出し、なおかつ二次流通のリセールバリューを維持しながら値上げをしたとしても、購買者がついてくるとは限りません。そのバランスをとりながら形にするのはとても挑戦的な取り組みであり、今後も注目していきたいですね。
與田:一次流通企業は自社ECサイトや店舗でリセールを行いますが、商品の回収が難しいという声も聞いています。メルカリとしては、その領域において企業の課題解決を支援する機会があるのではないかと思っています。
瀬川:商品の回収については、リセールバリューが高い商品は二次流通マーケットの方が高く売れるため、どうしても回収が難しくなってしまいますよね。メーカーが回収を行う上では、「買取をしてもマーケットの価格では買えない」「タダ同然で回収するとなるとモノが集まらない」という問題があり、その中で商品が集まるようにインセンティブなどを考える必要があります。ブランドのロイヤリティが高い場合には、一定層は価格を気にせずブランドに売却することが考えられますので、ブランドのロイヤリティを上げて回収率を向上させるといった施策も有効かもしれません。
與田:リセールビジネスは、まだ「いかに安く仕入れて、いかに安く加工するか」という商売の基本サイクルが洗練・確立されていない状態だと思います。そのフローの中での、一次流通企業の課題に、メルカリのプラットフォーマーとしての強みを活かしたサービスを提供していければと考えています。
おわりに
「リサイクル通信」が「リユース経済新聞」に媒体名を変更した背景には、コロナ禍におけるリユース市場の伸長、そして「リユース」という言葉自体の認知の広がりがありました。このように拡大傾向にあるリユース市場ですが、瀬川さんにお話しいただいた通り、今後のさらなる発展を目指す上での、一次流通における大きな課題が残されています。その解決の糸口を見つけるべく、リコマース総研は引き続き市場動向を探っていきます。
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