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駒台の本当の使い方
最近は、藤井聡太二冠の「初手お茶」が有名だが、昔とある名人戦の対局前、ある旅館にて:
立会人が「対局者にお茶を出してください」と後ろに声をかける。
おごそかな空気の中、和服の仲居さんの手でうやうやしくお茶が運ばれていく。ゆかしく腰を下ろした仲居さんの手から対局者の盤側にお茶が置かれた。-- その瞬間だった。みんな「うっ」と目を見張ったが、数秒間だれも一声を出そうとしなかった。
何が起こったかというと、
なんと、見事な茶わんが茶たくごと中原の駒台の上にデンと置かれ、誇らしげに湯けむりを上げている
本当にあった話だそうだ。将棋を知らない人からすれば駒台はお茶を置くのにたしかにぴったりである。というか、そこにしか置けないのではないか。
「近代将棋」昭和59年7月号より