アパレルで売上最下位から2ヶ月でトップになった時のお話 #03
#02はこちら
前回までで自分の売上目標を安定して達成できるようになってきた私でしたが、バイト先のお店自体の売上は未達の日もそこそこありました。
そこで、私は店舗全体の売上を自分の働きでどうやったらあげられるかを考え始めました。
…この頃にはもうすっかりどっぷり接客販売の面白さや奥深さに惹かれ、目標やノルマでさえもそれをどうクリアしていくかということにアドレナリン全開だったのでした。笑
ミッション3 : 1日あたりの客数が増えなくても売上を増やせ
店舗の売上が達成しない日を減らし、無くしていくために自分には一体何ができるのか。
バイトの行き帰りも、
眠りにつく前もバイト中も、
私はアルバイトながらに考えを巡らせはじめました。
売上とは結局なにかを考えた
まず全体的に改めて
売上
というものと向かい合って分解して考えてみることにしました。
売上とはすなわち具体的にはなんなのか?
小売業とマーケティングを経由した今、ある程度はロジカルな答えがいくつか出るのですが、
この頃は学生時代で無知も無知。
私の専門は心理学で経済経営の知識もほぼ皆無だったので、学生らしい難易度で、当時考えたことを当時考えたレベルで、そのまま書いていきます。
はじめは、
売上は商品を何個販売するかだ!
と思いました。
そのため、達成するためには
どんなものを何個くらい販売すればいいのか
まずは今の現状を試算して考えてみました。
例えば平日1日の売上目標が20万円
だったとします。
※金額についてはいずれも当時の実態ではなく、単価、目標とも価格帯は仮のものです。
これに対してざっくりと販売している商品の価格帯は以下のような感じです。
計算が分かりやすいように価格帯を平均してキリの良い数字で考えます。
薄手のトップス 4000円
ニットなど厚手のトップス 6000円
ボトムス 5000円
タンクトップ 2000円
長袖インナー 3000円
ワンピース 8000円
コートやアウター 10000円
ヒール 5000円
ブーツ 6000円
バッグ 4000円
小物 1000円
まず、平日は大前提としてお客様は数えるほど(数十名未満)しかお店にいらっしゃいませんでした。
無知な私は、単純に一番高いものを売れば一番少ない人数で済むじゃん★
と思って考え始めます。
① 一番高いものを何着買ってもらえそうか?
コート1着だけ買うお客様が20人いれば達成
となりますが、そもそも全体のお客様が数十人しかおらず、年に1着買うかどうかのコートを買う人がそんなにたくさん居るわけがありませんでした。20人に買ってもらうのはほぼ不可能でした。
ただし、コートの入荷シーズンには平日でもコートは多少なりとも売れていました。そのため、最低限頑張れば可能な数を目標においてみます。
ここでは私はコートの販売数は1-2名
つまり20,000円ほどはコートを売れそうだなと思いました。残り18万円です。
② 買ってもらいやすく、売りやすく、2番目に高いものは何着買ってもらえそうか?
お店ではどんな日でも絶対ある程度売れるよねという人気のカテゴリがあるとおもいます。
私の働いていたお店の場合は、比較的ラインナップや商品数の多いニットなどの厚手トップス
がこの時期の人気商品でした。
厚手のトップスを買ってくれる人は
12人くらいはなんとかなりそうだな、
と思いました。
これで6000円×12人で72,000円。
コートと合わせてまだ92,000円です。
③ 価格帯が低く、より買いやすいものは何着買ってもらえそうか?
メインのお洋服と合わせて使いやすいタンクトップや長袖インナーなどは、
デザインも可愛らしくお手頃価格なので平日休日問わず比較的購入されやすい商品でした。
ただし、販売する数として基本的に花形商品であるニットよりは販売数が少ないカテゴリでした。
これらの単価は2,000-3,000円。
最大でニットと同じ販売数の12人が買っても、
24,000円です。
④ 確実に売れるであろう商品以外で残りの金額はどのくらいか?
③までの、高い確度で達成しそうな、明確に売れるものの金額でここまでで116,000円。
予算に対して半分少しです。
…あれ……………?
私の試算はここで行き詰まりました。
④として残りの商品でどこまで積み重ねられるかを試算しようとしましたが、
①〜③以外の商品には日付を問わずに確実に売れるような見込みの立つ商品がなく、靴が売れる日もあれば、ワンピースが何着か売れる日もありました。主要な商品以外がほとんど売れない日もありました。
この計算の大前提は、
ある商品を1点買う人が何人か、
ということをベースにしていました。
無知な学生アルバイトの私はここで
一番単純で基本的な事にやっと気づきます。
なんの商品を何点売る、ということを考えるだけでは、売上の目標を達成できないんだ。
と。
…気づくの遅!という感じですが、
学生バイトの時の思考はこんなものでした。笑
試算してみてはじめてこの試算と考え方では穴があってダメなんだ、と気づく体験は仕事をする上でとても大切な学びでした。
客単価と購買パターンでもう一度売上を考える
商品一個一個を1人に売る
では確実に客数をクリアできない=売上を達成できないということに気づきました。(遅)
そこで、改めてもう一度お客さまのことを
『買っているもの』『買っている金額』『買い方のパターン』で、考え直してみました。
コートを買う人は他の商品も買っている確率が高かった
自分の買い物で考えたらコート『だけ』を探すので一点だけを買うのかと思っていたのですが、よくよく観察するとそのブランドでは私とはタイプが違う買い方のお客様が多くおり、
コートを買う人はさらに値段が倍になるくらい他の商品を買っている確率が高い事に気がつきます。
おそらくお洋服のテイストがフェミニンな感じで色味や形が他商品ととてもよくマッチするコートが多く、このブランドが好きな方にとってトータルコーディネートの冬の主役がコートだったということに気づきました。
インナー類は組み合わせのおすすめで買っていただける確率が格段に上がる商品だった
実際にこのお仕事をする前は本当にオススメとか接客してそんなに売れるぅ?嫌がられないぃ?
とか、思っていたのですが←
実際に前#02のノートに記載のようにお客さまによって対応を調整した上であれば、
インナー類はものすごく高い確率でご購入いただけることが分かりました。
実際当時でいうと、
ファストファッションの最低価格帯よりは高く、ユニクロとは同じくらいの価格帯で、テイストはこのブランドに合うものなので、
お客さま側にも価格を含めたメリットもあることから接客の価値ある商品であるということに気がつきました。
販売は確率と観察とパターンの使い分けと決めた
売上についてなんとなく達成イメージを理解してきた私は、
半分くらいの売上はある程度何もしなくても大体は到達する、もう半分のうち自分がその半分または6割程度を達成できることを目標にする、ということを自分の中での数値目標に据えました。
そして、ここまでに学んだ以下を販売の時の自分の行動ルールとして徹底することにしました。
アルバイト時代の私のマイルール
絶対にお客さまの居心地の悪い場を作らないように入店前から『目が合わないように、でも見ておく』
お客さまの様子や雰囲気で今最も必要であろうお声がけを徹底する、お声がけをゼロというお客さまは作らない
会話したお客さまについて、会話した内容やどんなものがお好きか、その時のことなどは基本的に必ず記憶する(その日の帰り、何度も何度も思い出して覚えました)
コートをお手に取られたお客さまにはこのブランドの最高の世界が体感いただけるような商品の組み合わせや楽しさをご提案する
トップス、ボトムスなど片方だけお手に取られた方には特に買ってもらうためを目的とせず、その商品をご購入いただけた時に最大限の着回しをして楽しんでいただけるような周辺アイテムを、お客さまがお手持ちのお洋服を聞き、他の店内アイテムも使いながら一緒に服を着ることを楽しみになる時間をつくる。
その中でインナー類は必ずオススメする。靴やバッグなどの一見汎用的なアイテムでもかならずこのブランドの商品が映えやすいコーディネートなどの会話はする
上記の工程をゆったり時間を持って楽しんでくださるお客さまには、試着室をできるだけ使っていただき、お店での時間と服を着ることがより楽しくなる時間をつくる
目標金額について、1日の半分を経過しても進捗が悪い時は、意図的に勧める商品の単価と組み合わせを具体的なパターンであと何人どういう人に接客するかを考える
お洋服を買っていてもいなくても、次にまた気軽にご来店いただきやすくなるようなお声がけをする
これらを徹底して繰り返していった結果、私の売上は個人の目標を越え、お店の売上の半分くらいが自分の接客分という日が出始めました。
お客さまのことを覚え、友達や親戚のような人を増やしている感覚に近い感覚で接客していたこともあり、随分と顔見知りのお客さまも増え、
他のスタッフの皆さんの常連さんも記憶できている状態になりました。
ラストミッション:今日一日で一番楽しい気持ちで過ごせる時間と場所を
最後に私がアルバイト時代で一番記憶に残っているお客様との思い出のエピソードを書いておきたいなあと思います。
忘れられない試着室の魔法
そのお客さまがいらっしゃったのは、平日の夜、閉店から1時間ちょっとほど前だったかなと思います。
私のお客さまへの第一印象は
『うちのお店のテイストとはお召し物の雰囲気は違いそうだけど、なんだかすごく何かを探している。そしてなにか心配そう。』
そんな雰囲気でした。
探していそうな方にはお声がけするモットーの私。お時間帯やお洋服から、社会人でお仕事されていらっしゃる方で、お仕事終わりにお越しいただいたのだなあ
と思い、
『こんばんは!いらっしゃいませ。お仕事終わりですか?』とお声がけしました。
すると、お客さまはまだ不安そうな表情のまま、
『あ、はいそうなんです。』と答えてくださいました。
まだお探しものがわからない私。
もう少し会話を続けるべく、
『うちのお店にいらっしゃっていただくの、初めてでしたか、、、?』とお伺いしてみました。
これが今振り返れば我ながらいい質問だった気がします。
お客さまは、『そうなんです。実はお店ができてからずっとかわいいなーとおもって気になっていて。でも入るの緊張しちゃって、やっときました』
と答えてくださいました。
それを聞いた私は全力でお客さまにうちのブランドを安心して、楽しんでもらいたい!
という思いに火がつきました。
『そうだったんですか!ありがとうございます!よくきてくださいました。このあとはお時間ありますか?なんでも何着でも着てもらって大丈夫なので是非色々一緒に見ませんか?』
そんなお声がけをすると、やっとそこで不安そうだったお客様が少しほっとした表情になって、笑顔で
『いいんですか?ぜひ!みますみます』
と仰ってくださいました。
まずもともと気になられていたものがあるかもしれないですし、あまりべったりついていてもゆっくり見られないかと思い、
ざっと店内と商品のご案内をし、
気になるものがあってお時間が大丈夫なら、ぜひとりあえず着てみて行ってください!着たいものありそうでしたらご試着室をご案内いたしますのでお声がけください。
と、お伝えし、一旦私はその場を去りました。
それからお客さまはしばらくお店をご覧いただいたあと、複数の商品をご試着されることに。
『試着されたらぜひ見せてくださいー!』とお声がけし、ご試着後にドアを開けていただきました。
そうして試着後、ドアが開きました。
(…おや???)
私はお客さまを見て疑問のようなものを持ちます。
選ばれたアイテム的にそんなに違和感的なものはなかったのですが、試着いただくと、なにか違和感を感じました。
お似合いになっていない感じではないけれどもなんかもっと良いものがありそうな…そんな感じ。
ちなみにこれは、多分接客される方ならたまに遭遇される、対応難易度がすごく高いシーンな気がしています。笑
こちらもなにか、うーん?と思い、お客様もうーんと思っているかな?というこのシーン。
でも自分の反応で失礼にあたってはいけないし、人によって対応も分かれるシーンであると思います。
上記を見て考えて言葉を発するまで約2秒。笑
まず私は着られてみたご感想をお伺いしたのですが、やはりお客様も感激!すごくいい!という感じではないように思いました。
でも、ここで終わりたくはない。
せっかくきていただいたのだから、最高に良いと思うものを見つけたい。
私は完全に心の中は接客ゾーン状態に突入していました。笑
ゾーンとは、スポーツ選手などにある超集中状態のあれです。
失礼ながらお客様の頭の上から足の先まで観察して、何が違和感なのかを考え、突き止めました。
導いた答えはいくつかのバランスでした。
お客さまは今で言う骨格ウェーブかナチュラルな感じで、お顔立ちは優しい雰囲気、ヘアスタイルはショートヘアで、全体的に優しそうなお人柄の雰囲気がありつつも、オフィスでカッコよく頑張って働いている姿が浮かぶ、そんな雰囲気の方でした。
その時ご試着いただいたお洋服は、甘いテイストが強く、全体的に少し見る側の目線が下に落ちて着太りして見えるような雰囲気になってしまっていました。
確か、足を出されたくないということで、フルレングスのボトムスに厚手のニットをお選びいただいていたと思います。
また、トップスが甘さが強く、ボトムスがボーイッシュなテイストであったこともややバランスを取るのが難しい感じに見えました。
その他、甘すぎるテイストでは、お客さまのカッコ良さも見える雰囲気がなくなってしまうようにも感じました。
そこで思い切って、
もし良かったらもう少し合わせるアイテムを私が持ってきても良いですか?とご提案し、
私は店内の商品をフルコーディネートで用意することにしました。
まず、目線を調節できると思ったので、
膝よりやや上のコクーンっぽいシルエットで、タイトすぎず、ご自身で太ももが気になる方でも形そのもので綺麗に見えるものを。
素材はデニムですこしカジュアルでした。
上は厚手のニットだったのですが、そのニットの他、リーヨンやテンセルのようなすこしツルッとした軽いテイストのブラウスで、ONOFFご利用いただけそうなものを。これはブランドを象徴するような柄のものでした。
ベルトはシンプルで細いものを用意し、ウエストラインがより高く見えるように。
そしてニットは被りのものではなく前開きのもので少し形に特徴のある厚手で重めのものに。
スカートの丈とベルトで目線を上に持ってきているので、ニットの重さがあってもボタっと重たく見えないように気をつけました。
ブーツはお客様のもともとのものでも合う組み合わせを考えました。
全てをお客さまへお渡し、
やがて試着室の扉が開きました。
…その瞬間、
お客様と私の周りに風が吹き抜けて光が差したような幻想が見えました。
私の想像以上にバッチリそのコーディネートがお似合いになっていたのです。…手前味噌ですみません、、、笑
私はディズニーが大好きなのですが、
ディズニーのビビデバビデブティックでお姫様に変身した子達をみているような、
そんな気持ちになってお客さまをみていました。
『あ、あ、あまりにお似合いで感激してます(←全く手前味噌ということを自覚していないアルバイト店員)』
と、お伝えすると、
嬉しいことにお客さまも同じように感じてくださったようで、
『すごいです、びっくりしてます。足が気になるので出したくなくて長いのばっかり履いてたんですけどこんなによく見えるのあるんですね。ベルトも良いし、この上のトップスとの組み合わせも可愛いです。えーすごい。すごい。』
と。
しばらくお客さまと私でコーディネートの良いところや着こなし、ポイントをやや興奮気味にお話し、すっかり自分のコーディネートがハマりすぎて、それに満足し、販売することももはや忘れていた私が、
『たくさん着ていただけて良かったです!』と、
言うと全く予想もしていなかった言葉が返ってきます。
『これ、いま選んでいただいたの全部買います。』
えええええー!!!
流石にコーディネート全てをご購入頂く機会はそれまで一度もなく、本当に驚きました。
これ漫画とかで見るセリフ!?!?
ほんとに!?!?
と、嬉しさのあまりちょっとアホな私がでてきそうなところはグッと堪えて、
『本当ですか!?!?嬉しいです、、、、ありがとうございます!!!』
とお伝えしました。
そうして最後のお会計の時、
『こんなに良い服が見つかると思わなくて、本当に今日来て良かったです。』
と笑顔でおっしゃってくださいました。
私も本当に本当に嬉しくて、
そしてお客様がお仕事終わりだったことも思い出し、頑張って働いた大切なお金で、こんなにたくさんうちの商品を買ってくださったんだ、
ということにとてもとても感動しました。
最後は、
『またぜひそちらのお洋服着られてお店に来てくださいね!!!お仕事終わりなのにお時間もいただいて本当にありがとうございました!
またお待ちしております。』
とお見送りました。
私はその日の帰り、
私たち販売員は試着室を、たくさんお洋服を合わせてファッションを楽しんでもらうことに使うことができるんだ。
今日は試着室の魔法に出会ったんだなあ、と思いました。
それから、私は試着室の魔法をたびたび思い出し、ご試着する時間をより楽しんで頂けるような接客を心がけるようになり、そのことがシンプルに売上にもつながっていきました。
自分の仕事とは何か
そしてもう一つ、お客さまとの対話や時間を通じて、自分の仕事とは何かを考え直しました。
私の仕事はお店の商品を売って売上を稼ぐことです。
でもそれは仕事として目指すものであって、志すものではないと思いました。
売上を上げるということの他に、
このブランドを好きになっていただくこと、
このブランドのお洋服を着ることや、お店での体験を通じてファッションを楽しんでいただくこと、
駅ビルを通るたびに寄りたくなるような、立ち寄ればその日を楽しく過ごせるような、そんな時間を過ごせるお店をつくること、
自分たちの商品がお客さまの先のどこかの時間や瞬間をより豊かな気持ちにしてくれるようにお届けすること
そういうことが、仕事として志すべきもので、この仕事を通じて生み出す価値なんだ、と思いました。
志を体感して、学んで、
仕事をするようになった頃、
私はお店の売上トップになることができ、
お店全体の目標達成を後押しすることもできるようになりました。
憧れのエース店員さんからも、
この仕事めっちゃ向いてるよ!やらないの?
と言っていただいて、本当にありがたく嬉しく、
その後の社会人人生で良い経験となりました。
私は、たった数ヶ月を通じて、本当にたくさんのことを自ら体感して学ぶことができました。
まさか大学4年の最後にレジをマスターしたいがために、こんなに良いバイトが経験できるなんて夢にも思っていませんでした。
そうしてなにより、
仕事でこんなに素敵な経験をさせてくれる
お客さまのことが、
お客さまがいる仕事が、
とても大好きになりました。
とても良い経験だったからこそ、
10年以上経った今でも鮮明にその時の気持ちや学び、お客さまのこと、会話まで思い出すことができます。
どこかのどなたかのなにかのヒントになるかは分かりませんが、私自身の大切な経験として書き留めておきたいと思い、このnoteを書きました。
このあとに、私は小売業で社会人になります。
小売業を選んで正解だったな、と自信に満ち溢れてバイトを終えることができました。
…その自信は儚くも数ヶ月後、あっという間になくなることになるのですが、そのお話もまたいつか、どこかで。
Pour mémoire