BCP(事業継続計画)とは? 目的から策定方法、企業の対策事例まで徹底解説
日本は台風や地震など自然災害の多い国です。また自然災害だけでなく、テロやパンデミックなど、予想外の事態が発生することも考えねばなりません。そのような出来事が起こった際に、被害を最小限に抑えることは、すべての企業にとって非常に重要な課題であるといえます。
そのため近年、BCP(事業継続計画)の重要性に注目する企業が増えています。しかし一方で、「BCPがなんなのかわからない」「BCP策定のためには何をすればいいの?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、BCPの意味や必要性、策定方法をわかりやすく解説していきます。
BCPとは? 緊急時の事業継続に重要
BCPとは「Business Continuity Plan」の頭文字を取った言葉で、事業継続計画と訳されます。⾃然災害や感染症あるいはテロなどが原因で緊急事態に陥った場合に、事業資産への損害を最⼩限にとどめ、主幹ビジネスを継続しつつ早期に復旧できるようにするための計画のことです。
BCPが注目されるきっかけは、過去の大災害によるもの
BCPの策定に関する議論は欧米では1970年代から、日本では1980年代からはじまったとされています。
冒頭でも書いたように日本は自然災害の多い国です。そのなかでもBCP策定を見直すきっかけとなった災害とされているのが、2011年に発生した東日本大震災です。この災害によって多くの企業が被災し、倒産にいたりました。
さらに、2020年に発生した新型コロナウイルスによるパンデミックによって、企業のBCPに対する注目度はますます高まっています。BCPを策定することによって、予測不能な緊急事態が発生しても企業は事業を継続できるため、倒産を回避することができます。
BCPとよく使われる、BCM・DCP・企業防災との違いは?
BCPに関連する言葉としてBCM、DCP、企業防災の3つがあります。BCPに対してこれらはどのような違いがあるのでしょうか。
BCM=BCPの具体的な活用方法
BCMとは「Business Continuity Management」の略で、BCP(事業継続計画)を活用してどのように企業内に浸透させていくか、活用していくかといったマネジメントのことを指します。東日本大震災ではBCPの策定が企業内に浸透していなかったために、計画通りにBCPを実行できない企業がありました。そのような事態を防ぐためにもBCMは重要だといえます。
DCP=地域全体での防災計画
DCPとは「District Continuity Plan」の略で、緊急時地域活動継続計画と訳されます。BCPとの違いは、地域という大きなくくりで企業同士がどのように連携するのかを定めた計画である点です。個別の企業に適用されるBCPの考え方を地域全体に広げたものと覚えておくとよいでしょう。
企業防災=災害を未然に防ぐ
企業防災とBCPは似たような意味を持っているため、よく混同されがちですが、それぞれ目的が違います。企業防災は災害を未然に防止することが目的ですが、BCPは災害が起きた場合の事業継続や復旧が目的です。
BCP策定を行う3つのメリットと事例を紹介
冒頭でBCPの概要について説明しましたが、ここではもっと具体的に必要性やメリットなどの観点から解説していきます。
メリット① リスクを軽減して事業の継続性を高める
緊急事態によって事業が停止している時間が長ければ長いほど、既存の顧客が競合他社に流れてしまうかもしれません。そうすると事業再開の目処が立ったときには、事業規模の縮小を余儀なくされてしまいます。また、中小企業のように経営基盤が盤石ではない企業の場合は、事業の継続が困難となり倒産に追い込まれてしまうかもしれません。
緊急事態発生時、水やガス、電力などのインフラが停止するおそれがあります。そのなかでも現代において災害時に早期復旧のカギとなるのが電力です。照明や、電話、サーバーなどすべて電気がないと使えないものばかりです。
メリット② 社会的信用の獲得
BCPを策定することは企業として社会的信用を獲得することにもつながります。リスクに対応できる体制を整えておき、緊急事態でも安定した経営ができると示すことで、取引先や投資家などのステークホルダーからの信用や信頼を獲得しやすくなるからです。そのためBCP対策を行っている企業は取引先や投資先として選ばれやすいという傾向があります。
メリット③ 経営戦略に役立つ
BCPを策定する過程で、中核事業を決定する必要があるため、改めて重要業務の可視化ができます。中核事業だけでなく、それに対して重要度の低い業務も洗い出すことができるので、企業が経営戦略を見直す上でも、BCPは策定しておくべきです。
大企業・中小企業のBCP策定状況を比較
帝国データバンクでは2016年から毎年、企業のBCP策定状況を調査しており、2016年から2022年までの策定状況が公開されています。ここからは大企業と中小企業に分けて、それぞれの企業がどの程度BCPを策定できているのかを見ていきましょう。
※参照:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2022年)」
大企業のBCP策定状況
上述の調査によると、大企業のBCP策定率は33.7%となっています。2016年のBCP策定率が27.5%だったため、6.5ポイント増加しています。大企業のBCP策定率は年々上昇しており、BCPに対する意識が高まっているといえるでしょう。
中小企業のBCP策定状況
中小企業の2016年のBCP策定率は12.3%。2022年では14.7%となっているため2.4ポイント上昇していますが、前年の2021年の14.7%からは変わっていません。大企業に比べると中小企業のBCP策定率は低くなっています。しかし中小企業は、BCPに対する意識が低いのかといわれるとそうではなく、策定するための人員や費用が少ないことが要因として挙げられます。
しかし、大企業に比べて経営基盤が脆弱な中小企業は、BCPを策定していないまま緊急事態に直面してしまうと、最悪の場合倒産してしまうかもしれません。全国421万社のうち、中小企業が99.7%を占めていることからも、日本の経済の中心である中小企業こそBCPの策定が重要だといえるでしょう。
企業や政府のBCP取り組み事例4選
次に、内閣府から出ている「企業の事業継続への取り組み事例」もご紹介。以下、事例のように日頃からBCPを策定しておくことで、緊急事態に直面しても、事業を復旧させて継続することができます。
① 半導体集積回路の製造工場
この会社は2003年に震度5強の地震に見舞われ、工場の完全復旧に1ヵ月かかりました。その後、その時の教訓を生かして、震度6強の地震を想定し「24時間以内に最低1つの生産ラインを確保する」という目標を設定。その結果、震度5強を観測した2008年の地震では致命的な被害を受けることなく、4日後にはフル稼働状態で生産を開始することができたそうです。
② 株式会社米谷製作所
こちらの会社では地震が起きる前からBCPを策定しており、その周知までを徹底していました。その結果、震度6強を観測した2007年の新潟中越沖地震では、マニュアルを活用した工作機械の点検整備が円滑に進行し、地震発生翌日には生産を開始、わずか1日遅れで出荷することができたそうです。
③ 介護事業所・政府
企業におけるBCP策定の推進に加え、介護事業所や政府でも導入が進められています。特に介護事業所においては、2021年4月からBCPの策定が義務化されました。背景としては自然災害の深刻化と、新型コロナウイルスの感染拡大が挙げられます。
介護事業所は介護者の命を預かる重要な仕事。自然災害や感染症拡大のひっ迫した状況下でも、業務を継続しなければなりません。ところが、介護事業所のBCP策定率は、24.0%に留まっているのが現状です。介護関係者は、2024年の完全義務化までに、より一層審議を進める必要があるでしょう。
④ 政府のBCP策定例(首都直下地震対策)
政府は首都直下地震発生に備え、首都の中枢機能維持と国民生活、国民経済に及ぼす影響を最小化するのを目的にBCPを策定しています。以下のような過酷な被害状況を想定し、業務継続計画を作成しました。各状況に対応するため、地震発生直後から3日目までと、3日目から1週間に優先すべきことを分けて策定しています。
1週間の停電や携帯の不通
1か月間下水機能に支障が発生
1週間地下鉄が運航停止
1週間主要道路が不通
総理官邸や中央省舎が使用不可 など
また、1週間補給がない状態でも政府業務ができるよう、執行体制と執務環境に分けて決定しています。
BCPの5つの策定手順
ここからは具体的なBCPの策定手順を見ていきましょう。BCPをはじめて策定する際は、大まかに5つの段階を踏んで順番に進めていきます。
① 自社に合う基本方針の決定
BCPを策定するにあたって、まずは基本方針を決定しましょう。基本方針は経営理念に沿って考えていくため、経営方針の見直しにもつながります。「従業員とその家族の雇用・健康を守る」、「供給責任を果たし取引先との信用・信頼を守る」など、経営理念に沿って自社に合った基本方針を決定していきましょう。
② BCP策定のための体制を整える
BCPは会社全体に関わるものであるため、BCP策定のためのプロジェクトチームを、複数の部門から選ばれた人材で編成することが多いです。多くの場合は、総務部が各部門の作業調整を担っています。会社に属するすべての人間が情報を共有する必要があるため、全社員がBCPを理解した状態で、緊急時にすぐに動けるよう社内体制を整えましょう。
③ 中核事業の選別
大企業のように複数の事業を展開している企業の場合、緊急事態発生時に最優先で復旧する必要のある事業を決定しましょう。
中核事業の選別をする際は、
事業が占める収益高・売上高の割合
事業復旧にかかる時間やコスト
事業の将来性
など、複数の観点から検討することが大切です。事業が1つしかない場合には、顧客別で収益高・売上高を考慮し、業務の優先度を決定していきましょう。
④ リスク分析をして優先順位をつける
中核事業の選別や業務の優先順位を決定したら、次はリスクを洗い出して分析する必要があります。企業にとって「発生したら困ること」や「どんなリスクが潜んでいるか」を明確に言語化しておかないと、具体的な策を決定することができません。
そのため、ここでは想定されうるリスクをすべて書き出すことが非常に重要となってきます。ただし、緊急事態発生時に起こりうるすべてのリスクに対処するのは現実的ではないため、リスクに優先順位をつけていきましょう。
発生頻度と深刻度合いの2軸で優先順位付け
月に1回や年に数回、数年に1回など、どの程度の頻度で発生するのか、実際に緊急事態が発生した際にどれほどの損害を被るのか、という観点で総合的に判断してください。
⑤ 具体的な策の決定
リスクの優先順位をつけ終わったら、いよいよ具体的な策の決定に移ります。BCPの策定では誰が指揮を執り、誰がその指示を受けて実際に行動に移すのかなど、細かく具体的に決める必要があります。緊急事態発生時はパニックになることが想定されるため、細かく具体的な内容を策定しておかないと、いざというときの対応が難しくなるからです。
「1.被害状況の確認」「2.応急処置」「3.復旧作業」という3つのタイムスパンと「人的リソース」「施設・設備」「資金調達」「体制・指揮系統」「情報」の5つの視点で細かく決定していきましょう。
BCP策定における2つのポイント
ポイント① 評価と改善を繰り返す
BCPは策定後も評価と改善を繰り返して、徐々に精度を高めていくことが非常に重要です。緊急事態発生時を想定したテストを継続的に行うことで、策定したBCPがうまく機能するかどうかを評価します。
ポイント② BCPの周知と定着
BCPを策定したあとは社員全員に周知していくことが大切です。具体的には社員研修やディスカッション、eラーニングなどを用いて教育を行っていきましょう。全社員にBCPを共有できるように、いくつかの教育方法を実践してください。
災害時に重要な電力。建設現場やオフィスBCP用途として活用できるBCPバッテリー
BCPを策定することによって緊急事態発生時に事業の継続性を高めることができます。Rebglo.では、老健施設や物流・建設現場、BCP対策に前向きなオフィスなどで導入されているBCPバッテリーや発電池システムを提供しています。BCP策定に着手しようと検討している方は、まずはお気軽にお問い合わせください。
執筆:松村彪吾
編集:Number X